『恋文』

Rijksmuseum

上品な服装の若い女性が楽器を演奏している様子が描かれています。しかし、彼女に手紙を渡した女中によって演奏が中断されてしまっています。若い女性は緊張した面持ちで、手紙がよい内容のものなのか確信が持てないように見えます。

部屋の中は大理石の床、壁の絵、金の革の壁掛けなど、豪華な装飾が施されています。

フェルメールの作品には、普段は目にすることのないものを不意に目撃してしまったような、プライベートな場面を描いたものが少なくありません。ここでは、少し離れた暗い通路から、彼女たちがいる明るい部屋を眺めているような配置にすることでその雰囲気を強めています。

『恋文』は、1893 年からアムステルダム国立美術館に収蔵されています。この作品は、1971 年にブリュッセルで行われた展覧会で盗難に遭いました。木枠から切り取られことによるダメージはすぐに修復を受け、元通りに復元されました。

部屋を垣間見るような構図
このような構図は、17 世紀の絵画では珍しいものありませんでした。フェルメールは、複数の部屋をそれぞれ前後に配置することで絵画の奥行き感を強めています。部屋の中を垣間見るような構図は、フェルメールが住み、絵を描いた街デルフトで1660年の終わり頃まで活躍していた画家、ピーテル デ ホーホの得意分野の 1 つでした。この 2 人の画家がお互いの作品を手にしていた可能性は高く、フェルメールがデ ホーホの作品から着想を得ていたとしても不思議ではありません。

ルプソワール
この作品では、光が差し込む明るい部屋とその前にある影の空間が対照的に描かれています。戸口の柱付近にあるものを目立つように描くのは簡単ではありません。

左側の壁には地図が掛けられており、

その右側には楽譜が置かれた椅子があります。

部屋への出入口の前に吊り下げられているはずのカーテンは、片側に引き上げられています。

物を手前に配置する方法は、奥行きを持った空間を生み出すためによく使用される技法でした。このような物体は、ルプソワールと呼ばれます。手前にルプソワールをはっきりと描くことで、他の物が遠景に配置されているように見えるのです。

手紙
オランダ黄金時代には、絵画の題材として「恋文」が好まれました。この作品では手紙を受け取った場面が描かれていますが、手紙を書いている場面、あるいは読んでいる場面の絵画も多く製作されました。フェルメールもまた、さまざまなバリエーションを通してこうしたシーンを描いています。女性の手にある手紙は影に包まれ、彼女の黄色い上着を背に際立っています。

女性の顔には光が当たっているため、自然と彼女の顔の表情に注意が向くようになっています。この手紙にはどんなことが書いてあるのか、誰もが気になることでしょう。

期待される表現
座った女性は手紙を手に取り、何かを期待した様子で女中を見上げています。この手紙には、恋人からのどのような知らせが書かれているのでしょうか。これから読む手紙の内容が、期待通りのものではないのではと心配しているかのようです。

しかし、女中の穏やかな態度や優しい笑顔からは、女性が手にした手紙には好ましい内容が書かれていることを確信している様子が読み取れます。

絵画からのメッセージ
2 人の女性の上にある絵画は、好ましい知らせであることを教えているようにも見えます。

17 世紀には、恋愛はしばしば海に、そして恋をする人は船にたとえられました。荒れた海は関係の激しさを、穏やかな海は愛の前触れを表します。女性の背後にある絵には青い空と穏やかな海が描かれており、

その上にある絵の牧歌的景観も同じようなメッセージを表しているようです。

リュート
リュートは 17 世紀に人気のあった弦楽器で、歌の伴奏のための楽器としてよく使用されていました。また、音楽や楽器は、主に恋愛に関係するものとして捉えられていました。そのため、ここで楽器を演奏している女性は、恋文を受け取るという状況の中にあってふさわしい主題なのです。リュートによって、夫婦間の貞節から色情や不貞に至るまで、さまざまな種類の恋愛が表現されていました。ここではどのような表現としてリュートが描かれているのでしょうか。

整然としない構成
床には、

洗濯物のかご、

ほうきやスリッパなど、さまざまな物が散乱しています。

おそらくこの若い女性は、恋愛に悩まされて家事のことをすっかり忘れてしまったのでしょう。あるいは、フェルメールはこうしたアイテムが象徴的に解釈されるようにわざと配置したのかもしれません。靴は家庭内の調和を表す場合もありますが、みだらな解釈をされることもあります。結婚していない二人が同棲している象徴として、ほうきを見ることもできます。しかし、不誠実な恋愛を題材にしているという明確なモチーフは描かれていないため、どのように解釈すべきかは不明です。

大理石の床
この光景を眺める傍観者がいると思われる部屋から、床の白い大理石のタイルが列状に並んで、我々の視線を 2 人の女性のほうへと導きます。大理石のタイルは 17 世紀の屋内絵画に多く描かれていますが、実際にはこのような床が使われるのはまれでした。こうしたタイルは、主に非常に裕福な家庭の小さな部屋で使われていたのです。

フェルメールは、大理石の模様の詳細を描く代わりに、素早く緩やかな筆跡で大理石の質感を表現しています。

豪華な上着
毛皮の付いた女性用の高価な黄色い上着など、フェルメールの他の絵画にも見られるモチーフが描かれています。この上着は、『手紙を書く女』(ナショナル ギャラリー、ワシントン)や『真珠の首飾りの女』(絵画館、ベルリン)を含む、5 作品の中で優雅な若い女性が着用しています。1676 年 2 月 29 日に記録されたフェルメール家の目録には、白い毛皮の縁取りが付いた黄色いサテン製の上着が記載されています。おそらく、この服こそが彼の絵画に何度も登場する上着なのでしょう。

署名について
フェルメールは、「IVMeer」という署名をこの絵に残しました。I、V、M が 1 つの文字として書かれており、この中で「I」は彼のファースト ネーム「ヨハネス」を表します。署名は洗濯物かごの上の壁、女中の青いスカートの左側に描かれています。

恋文(Around 1669) - 作者: ヨハネス・フェルメールRijksmuseum

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