ゴールデン街に吹く新しい風 ここにしかない文化が生まれる理由とは

夕暮れ時になると少しずつ灯りがつきはじめ、この歴史あるディープな飲食店街を楽しもうと、今や日本人だけでなく世界中から多くの観光客が集まります。夜な夜な賑わいをみせるのは、新宿区歌舞伎町に位置する街、『ゴールデン街』。

靖国通りから伸びる遊歩道を進むと、右手に見えてくるのは昭和の街並みをそのまま残した、どこかあたたかく、懐かしさを感じられる風景。この街には昔から編集者や作家、写真家、映画監督、役者など多くの文化人が足しげく通っていたことでも知られ、その長い歴史の中で様々な文化が生まれてきました。

The OPEN BOOK 外観新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

今でこそ多くの情報によってその存在が広く知られていますが、ひと昔前まではその独特のイメージにより「一見さんは入れないんじゃない?」と、日本人でもすこし近づきにくい雰囲気のある場所でもありました。

過去には激しい地上げに晒され店舗数が激減した頃もありましたが、この街を守ろうと活動する組合の努力もあり、近年は新しいお店も次々にオープンし、若い世代によって新たなムーブメントが生まれています。

the OPEN BOOK レモンサワー新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

2016年3月に日本発のレモンサワー専門店としてオープンし、たちまち人気店となったのは五番街にある『the OPEN BOOK』。オーナー・田中開さんは、世代を超えてゴールデン街に魅了されたひとりです。

開さんのおじいさまである「コミさん」こと田中小実昌さんは、直木賞を受賞した小説家、翻訳家、随筆家。ゴールデン街が『文壇バー』と呼ばれる所以にもなった作家としても知られる人物です。かつて新宿ゴールデン街をこよなく愛し、ほとんど毎日この場所で飲み、過ごしていたのだといいます。孫である開さんの店『the OPEN BOOK』には、おじいさまの蔵書が天井まで続く壁一面にびっしりと並び、昭和カルチャーを現代の感性で今に伝えるような、心地よい空間が広がります。

the OPEN BOOK 本棚新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

The OPEN BOOK新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

the OPEN BOOK オーナーの田中開さん新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

「人によってはこの怪しさが怖くて近寄らないという人もいる中、初めはゴールデン街の特有の怪しさを楽しみながら、ふらふらと飲み遊んでいました」と話す開さん。彼から見たゴールデン街はどう映っているのか、その魅力を尋ねました。

「呑家 しの」入り口新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

「僕が店を始める前に1年間働いていた『しの』は40年続く老舗で、祖父である田中小実昌が昔から通っていた店です。しのという人がいて、その人のお店だから、『しの』。そこのママだから、略して『しのママ』。ママ、なんて呼びますが、別に誰かのお母さんじゃなくて、要は『飲み助みんなのお母さん』ですね。日本の飲み屋では、特にゴールデン街にあるようなバーやスナックの女性店主を、ママと呼んだりします。ちなみに男性の店主は、『パパ』でなく『マスター』が一般的。海外ではママなんて呼び方って聞いたことないですし、独特で面白い文化ですよね」

「呑家 しの」店内のポスター新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

「5年前は、今よりもグッと人が少なくて、変わっている、濃い人が多かったように思います。そんなこと言うと、何十年前はもっともっとそうだったんでしょうが......。『しの』で働いて、飲み屋はそこにいる『人』でできていることを学びました。300軒近くあるゴールデン街も、出すお酒は大抵変わらない。その店にどんな人がいるかが、何よりもその店を特徴づけていて、説明できるもの。だから『ゴールデン街』も、いまゴールデン街にいる人々自体に表されているのではないかと思います」と、開さん。

混沌の代表格として取り上げられることの多いゴールデン街には、今のネット社会にはない、人と人の繋がりやその時その場所でしか生まれない出会いという価値があるのかもしれません。

「呑家 しの」新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

「呑家 しの」乾杯新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

「いわゆる現代社会において、望む情報はたいてい簡単に知ることできますが、それは自分が “望んだ”からであって、たいていの場合は、自分が本当に何を望んでいるかなんて分からなかったりします。少し無茶な言い方をすれば、今の社会は、何でも手に入れてるようで、じつは何も手に入れてないのではないでしょうか。だから、ランダムな出会いには、価値がある。それが、酔っ払いのオジさんに朝まで説教されたとか、会いたかった有名人の横で飲めたとか、なんてことは選べないのですが。ネットを介したコミュニケーションもいいけれど、やっぱり実際に人が集まる場所には、エネルギーや熱気がある。そこから何が生まれるんだと言われれば、具体的な答えに詰まりますが、でも何かありそうな気がします。そんなことを考えて、飲んでるうちに朝がきて、また這うように帰るハメになるんですが(笑)」

「呑家 しの」店内風景新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

the OPEN BOOK 本棚新宿ゴールデン街商業組合、新宿三光商店街振興組合

提供: ストーリー

協力:
the OPEN BOOK 田中開氏
呑屋 しの
新宿三光商店街振興組合
ゴールデン街


写真:中垣 美沙
編集:林田 沙織
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
もっと見る
関連するテーマ
奥深き日本の食文化を召し上がれ
日本の特徴的な気候や地形、そして先人達の知恵によって「日本食」は出来上がりました。
テーマを見る

旅行 に興味をお持ちですか?

パーソナライズされた Culture Weekly で最新情報を入手しましょう

これで準備完了です。

最初の Culture Weekly が今週届きます。

ホーム
発見
プレイ
現在地周辺
お気に入り