上野の杜にある近現代建築を訪ねて No.2:国立科学博物館 日本館

恐竜展などで人気の国立科学博物館。つい展示にばかり夢中になってしまうが、正面にそびえる日本館は昭和初期に建てられた近代建築の一つ。その歴史と、鑑賞したいポイントを紹介する。

作成: 上野文化の杜

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:空撮上野文化の杜

端正な建物は、上空から見ると飛行機の形

国立科学博物館は、日本列島や日本人の歴史を辿る「日本館」と、地球全体の生物や科学技術の発展をたどる「地球館」の大きく2棟からなっている。クジラ像のすぐ横にある正面の建物が日本館だ。威風堂々としたネオ・ルネサンス様式の建築で、御影石と茶色いスクラッチタイルで仕上げられている。表面に引っかき傷を付けたスクラッチタイルは昭和初期に大流行し、年代を推測できる指標の一つとなる建材だ。実は、この建物を上空から見ると、飛行機の形になっている。

写真:上空から見た国立科学博物館日本館。写真提供/国立科学博物館

国立科学博物館日本館:正面上野文化の杜

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:竣工当時上野文化の杜

震災復興建築の一つとして1931年に竣工

1877年に創設された教育博物館(現・国立科学博物館)は、組織・名称を変えながら一時期上野を離れたこともあったが、関東大震災の復興期である1931年に現在の地に移転し、建物を新築。文部省大臣官房建築課による設計で、耐震性のある鉄筋コンクリートを躯体に用い、外壁には石やタイルなどを配して、レンガ造り風の伝統的な西洋建築の趣を出している。
写真:日本館外観正面(1931年頃)。写真提供/国立科学博物館

国立科学博物館日本館:展示室上野文化の杜

モダニズムへと舵が切られる直前の装飾的建築

建設された昭和初期は、シンプルなモダニズム建築への転換が図られる直前の、装飾的な建築が作られた最後の時代。それだけに、美しい意匠が多く配されている。各所にしつらえられたアーチを始めとして、ドリス式やコリント式などの柱頭飾り、色鮮やかなステンドグラス、悠然たるドームなど。また、自然採光のために、上階は天窓、下階は窓を多く設けている(現在は外光がそのまま入るのではなく、紫外線カットの電燈が仕込まれるなどしている)。


写真:竣工時の地学部陳列室(1931年)。写真提供/国立科学博物館

国立科学博物館日本館:貴賓室上野文化の杜

竣工時の貴賓室(1931年)。写真提供/国立科学博物館

国立科学博物館日本館:陳列室上野文化の杜

竣工時の天文気象機械陳列室(1931年)。写真提供/国立科学博物館

国立科学博物館日本館:中央ホールドーム上野文化の杜

建物中心に据えられた白眉のドーム

部分的に4階まである建物の中心には、ビザンチン様式に端を発するペンデンティブ・ドームが造られている。半円形の中に四角い升目が並んでおり、それぞれに花のレリーフが入る計画だったが、施工はされなかった。四方に吊るされた照明は、神社の燈明のようなどこか日本的なデザイン。この中央ホールでは壁の装飾として、国産の蛇紋岩やイタリア産ネンブロロザートといった大理石、そして日華石など、さまざまな石を意匠により使い分けて配置されている。

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:中央ホールドーム上野文化の杜

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:ステンドグラスのアップ上野文化の杜

近代建築の大家が手掛けた色鮮やかなステンドグラス

要所要所に施された装飾の一つがステンドグラス。ドームを擁する中央ホール上部や、両翼の階段室、地下食堂の欄間(現在は非公開)などに見られる。鳳凰や植物のモチーフをシンメトリーに抽象化したもので、どこか東洋風の趣。制作に関わったのは、ステンドグラス作家・小川三知と、築地本願寺の設計でも知られる建築家・伊東忠太。近代建築史にたびたび登場する2人による貴重な作品となっている。

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:ステンドグラス上野文化の杜

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:中央階段上野文化の杜

見どころが集まる中央階段

中央ホールの奥にある中央階段もさまざまな意匠で賑やかに装飾が施されている。左右に大きくとられた窓の上部にはグラスモザイク、下部には法輪をモチーフにした鋳物のグリルが。また、床部分には、表面に布目状の凹凸を施した布目タイルが貼られている。当時の主要なタイルメーカーであった泰山製陶所製だ。

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:中央階段グラスモザイク上野文化の杜

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:中央階段鋳物グリル上野文化の杜

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:中央階段通風孔上野文化の杜

1階展示室上部にある鋳物の通風口にも美しい装飾が。撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:階段室ステンドグラス上野文化の杜

見逃せない、もう一つの階段室

中央ホールから左右に続く展示室の両端には、それぞれ階段室がある。ここには、天窓部分に大きなステンドグラスがあるほか、階下の踊り場にも鳳凰を描いたステンドグラスが配置されている。また一階にある手すりの始まる部分に置かれた華麗な照明器具も見どころ。これらの装飾は左右どちらの階段室も同様だが、展示を見ていると中央ホールに戻る動線になりがちなので、足を踏み入れる人が少ないというのが惜しい。

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:階段室照明器具上野文化の杜

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:講堂上野文化の杜

最先端の教育施設だった美しき講堂

展示スペースから離れた、バックヤードに設けられている講堂。当時としては画期的なコンセプトである生きた社会教育の場として設けられ、講演会や映画上映などが行われていた。伝統的な劇場建築を踏襲し、舞台を額縁のように区切るプロセニアム・アーチや、丸いメダリオン、装飾的な照明などが配されている。最先端の機器であったスクリーンや映写機もあり、映写室も完備。現在も、講演会などの会場として使用されている。

撮影/白井亮

国立科学博物館日本館:照明器具上野文化の杜

撮影/白井亮

提供: ストーリー

提供/上野文化の杜新構想実行委員会 
 
協力/国立科学博物館

取材・文/鈴木糸子  

撮影/白井亮

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
ホーム
発見
プレイ
現在地周辺
お気に入り