人口6500人の農村から広がる グリーンツーリズム

人々を引きつける、安心院の豊かな食と暮らしに触れましょう。

舟板 昔ばなしの家(2020)農林水産省

大分県の山あい、人口約6,500人の小さな町、安心院(あじむ)町。この小さなエリアに、国内外のゲストが年間10,000人近く訪れると聞けば、驚くのではないでしょうか。この地は日本で初めて「グリーンツーリズム」を始めたエリア。人々を引きつける、安心院の豊かな食と暮らしに触れます。

安心院の郷土料理(2020)農林水産省

古民家で体験する農村の暮らし

鶏めしのおにぎり、大根の煮物、菜の花の天ぷら。ずらりと並ぶ郷土料理のごちそう。囲炉裏の鉄鍋からは、新鮮などじょうとごま油の香り。「どんどん食べてくださいね、たくさんありますから」と、この家で暮らす中山ミヤ子さん。

中山ミヤ子さん(2020)農林水産省

中山さんは安心院の農家で生まれ育ち、築180年の古民家に暮らしながら、国内外のゲストを受け入れています。関東・関西からの修学旅行生に、ヨーロッパやタイ、韓国や中国など、ゲストは年齢も国籍も様々。多い時は月に100人以上が宿泊することも。

「お昼からお酒飲んで一緒に散歩したりしてね。夜は囲炉裏を囲んで一緒にごはんを食べて。いろいろな方が訪ねてくださいますよ。海外の方が来たら、ジェスチャーやボディランゲージ。不思議ですね、通じるんですよ、言葉がわからなくても。心の交流ですから」

どじょう鍋(2020)農林水産省

どじょう鍋(2020)農林水産省

安心院の名産・どじょう鍋

中山さんの家は「舟板 昔ばなしの家」と呼ばれ、昔ながらの農家の暮らしが体験できます。薪で火を焚く五右衛門風呂に、地下水を汲み取る井戸。一番の自慢は新鮮な地元の食材を使った中山さん手作りの郷土料理。今日のメインは、囲炉裏の火で作るどじょう鍋。安心院を含む宇佐市は国内で一番の生産量を誇るどじょうの名産地。東京・浅草の名店「駒形どぜう」にも、この地のどじょうが使われているといいます。

「昔は川に泳いでるのをよく撮りにいきましたよ。ごま油でどじょうを素揚げにして、しゃもじでよく身をほぐします。東京のどじょう鍋は、どじょうの形を残すけど、ここらへんでは崩しますね。それから味噌汁を入れて煮込めば完成。さあ、どうぞ」

お茶(2020)農林水産省

自家製の漬物(2020)農林水産省

餅(2020)農林水産省

自給自足の、山のごちそう

他にも、ほうれんそうのおひたしに、、かぶと大根の酢の物、自家製の漬物や庭でとれたかぼすなど、山のごちそうがたくさん。野菜はすべて中山さんが畑で育てたもの。どれも素朴な力強い味わいで、体の中から元気がわいてきます。ほとんどは、中山さんのお母さんから教わった郷土に伝わるレシピです。

鶏めしのおにぎり(2020)農林水産省

中でも一番人気は「鶏めしのおにぎり」。九州でよく食べられる希少な鶏「種鶏」を使った、こだわりの逸品です。街から離れた山間部にある安心院では、昔から新鮮な鶏肉がとびきりのごちそう。昔は来客がある日は、庭で飼う鶏をしめて料理していたといいます。「自給自足の生活ですよ。醤油も味噌も作りますから。昔は炭も自分たちで焼いて、冬はそれを炬燵に入れるの。着物も家で織ってましたし、農家はなんでも自分で作るの」

舟板 昔ばなしの家(2020)農林水産省

舟板 昔ばなしの家(2020)農林水産省

24年間、途切れないゲスト

中山さんが農泊の受け入れを始めたのは今から約24年前。「最初話を聞いたときには、こんなところに誰も来ないでしょうと、そう思いましたよ」。そんな予想を裏切るように、最初のゲストが新しいゲストを呼び、つぎつぎとリピーターが増えていきました。

舟板 昔ばなしの家(2020)農林水産省

「それで24年間、やめられなくなっちゃった。でも、楽しいんです。知らない人を泊めて、物がなくなったりしませんか? と聞かれます。でも、逆なの。みなさんから、いろいろなものをいただいて、物が増えて困ってるくらい」

安心院町の安部さん(2020)農林水産省

農泊発祥の地・安心院

中山さんの家を含め、安心院周辺地域には50軒の農泊受け入れ家庭があります。こうした取り組みが始まったのは、「NPO法人 安心院町グリーンツーリズム研究会」の働きかけによるもの。職員の安部さんに話を伺います。

「昨年度の受け入れ実績が、国内外から9,500人。農村の一般家庭に民泊をして、村のあるがままの暮らしを体験していただきます。野菜を収穫してそれを漬物にしたり、かまどでご飯を炊いたり。各家庭でそういう取り組みをやっています」

舟板 昔ばなしの家(2020)農林水産省

安心院の農村民泊が始まったのは1996年。高齢化に悩む安心院の農村に活気を取り戻すための取り組みでした。ヒントになったのは、ヨーロッパで一般的だった「グリーンツーリズム」。農村や漁村で自然や食事、文化などを味わいながら滞在する旅行のスタイルです。

ぶどうジュース(2020)農林水産省

「安心院はぶどう産業で栄えた町。ですが、ただ作物を生産して売るだけではいずれ立ち行かなくなります。だから、外の人との交流の中で、体験を提供し、安心院を元気にしたいという思いがありました。地元の人にとっても、自分たちの日常の豊かさを、外の人の声から再発見することができます。家の前で採れたものが食卓に出るという、自分たちの当たり前がどれだけ素晴らしいか、気付けるのです」

安心院の風景(2020)農林水産省

全国に広がるグリーンツーリズム

「農泊は村の経済的な支えになりますし、何より人との触れ合いが生きがいになると、皆さんおっしゃるんです。普段農村で暮らしていても会えない人、都市部や海外から来られた人とつながりができる。若い学生たちと交流できる。それが楽しみで続けられるんだ、と」

安心院をモデルケースに、農泊の取り組みは日本中へ広がっています。それは、グリーンツーリズムが地域を選ばずに実現できる仕組みだから。農家の人々は空いている部屋を提供し、普段食べているもの、そこで作られた料理を提供する。特別な設備は必要ありません。

舟板 昔ばなしの家(2020)農林水産省

ゲストにとっては、それはツーリスティックに演出されていない、農村本来の食や暮らしを体験できるということ。外部からの活力を求める農村と、日本の本当の姿に触れたい旅人。お互いを創発しあうからこそ、地域を超えた広がりが自然に生まれているのです。

ちなみに安心院町グリーンツーリズム研究会では、1泊2食つきで7800円で農泊の受け入れを行っています。地域を暮らすように滞在し、その対価で農村を経済的にサポートする。そこで生まれるのは、お金には変えられない人のつながりです。そんな豊かな循環に、参加してみてはいかがでしょう。

提供: ストーリー

協力
NPO法人 安心院町グリーンツーリズム研究会
舟板 昔ばなしの家
宮田ファミリーぶどう園

写真:阿部 裕介(YARD)
編集・執筆:山若 マサヤ
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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