海と山の恵みの宝庫「御食国」若狭おばま

福井県の南西部、京都の真北に位置する小さな市、福井県小浜市。
美しい日本海にのぞみ、豊かな自然に恵まれたこの地域では、トラフグ、マダイ、ブリ、サワラ、カレイ、グジ、サバなど、一年を通じて様々な魚が水揚げされ、昔も今も、山と海とつながる暮らしとともに、この地に住む人々の食文化を支えています。

田烏の棚田から若狭湾を眺める(2019)福井県小浜市

目の前に広がるのは、静かでどこまでも透き通る青い海。美味しい魚が獲れることも、この息をのむほど美しい海を見れば納得です。日本海側唯一の大規模リアス式海岸を持つ海岸沿いには、人の手で守られてきた自然と、ノスタルジックな町並みといった、日本の美しい風景が残っています。その海岸沿いに点在する小さな17の漁港では、今もそれぞれの環境に応じた多様な漁業が営まれています。

マサバの養殖(2019)福井県小浜市

マサバの養殖福井県小浜市

鯖養殖福井県小浜市

若狭わかめの天日干し(2019)福井県小浜市

小浜市(2019)福井県小浜市

若狭おばまは、古く飛鳥・奈良時代から朝廷に食料を恒常的に献上する「御食国(みつけくに)」として、塩や海産物など豊富な食材を都に運び、都の食文化を支えてきたことでも知られています。そして御食国の時代以降も、若狭湾で水揚げされる海産物の数々は全国で「若狭もの」「若狭の美物(うましもの)」と珍重され、今に至ります。

若狭おばまの鰈、浜小屋での加工の様子(2019)福井県小浜市

若狭おばまの名産品・若狭鰈(わかさがれい)

若狭鰈は、江戸時代より若狭おばまの名産品として広く知れ渡る存在のひとつです。その様子は、江戸時代の書物「日本山海名産図絵」や「毛吹草」にも記されており、当時の人々の漁や加工の方法を知ることができます。底引き網漁で水揚げされる若狭鰈は、地元では「甘カレイ」と呼ばれています。その名の通り上品な甘さがあり、香りも高く、白身はきめが細かく淡白なことが特徴です。現在も冬の若狭おばまの名産品として名高く、毎年12月上旬に皇室へ献上されている逸品です。

若狭おばまの鰈、浜小屋での加工の様子(2019)福井県小浜市

若狭おばまの鰈、一昼夜干される(2019)福井県小浜市

漁村福井県小浜市

人々の食と文化を運ぶ交流の道「鯖街道」

古代から豊富な食材を運んでいた若狭おばまから京都までは、いくつもの道がありました。それらを総称して「鯖街道」と呼び親しまれるようになったのは、近年のこと。食材だけでなく、様々な物資や人、文化を運ぶ交流の道でもあった道としても知られていますが、特に18世紀後半からは多くの鯖が水揚げされ、たくさん運ばれたことから「鯖街道」と呼ばれるようになりました。

鯖の押し寿司作り(2019)福井県小浜市

その距離は約十八里(72km)。現代のように車や鉄道、保冷運搬技術が存在しない時代には、朝、若狭湾で水揚げされた海産物が腐敗しないようにと工夫を凝らした、先人たちの知恵と技がありました。一塩した鯖は、行商人が丸一日かけて歩き、翌朝京都に着く頃には、身がしまり、ちょうど良い塩加減になったと言われています。ほどよい味加減となったサバは、京都のハレの日には欠かせない「鯖寿司」という日本を代表する食文化へと繋がったのです。

鯖の押し寿司作り(2019)福井県小浜市

都で「若狭の美物(うましもの)」と珍重されてきたその鯖とは、一体どんな味なのでしょうか?

大正から昭和にかけて、書、篆刻、絵画、陶芸の分野で活躍し、美食家としても知られる北大路魯山人は、自身の著書において「さばを語らんとする者は、ともかくも若狭春秋のさばの味を知らねば、さばを論じるわけにはいかない」と書き記し、その味をほめたたえたといいます。

漁村(2019)福井県小浜市

「鯖街道」をたどれば、古代から現在にかけて1500年続く往来の歴史と、伝統を守り伝える人々の営みを肌で感じることができます。鯖街道には様々なルートがありますが、中世、湊町として栄えた気山から若狭街道までを結ぶ丹後街道や、古くから廻船や漁業で栄えていた田烏浦から若狭街道へと抜ける鳥羽谷もまた、諸国から運ばれた物資や、若狭湾や三方五湖の幸を熊川経由で都に運んでいました。

へしこ小屋のある田鳥の町並み(2019)福井県小浜市

田烏をはじめとする若狭の浦々では、豊富にとれた鯖などの海産物を長期食用するために発達した「へしこ」や日本のスシの原型ともいわれる「なれずし」などの加工技術が、街道の歴史の中ではぐくまれ、独特の食文化として今も生きています。

雲城水(2019)福井県小浜市

山と海、大地を繋ぐ美しい水

美しい水もまた、若狭おばまの食を語る上で欠かせない要素のひとつです。山の豊かな森林によってミネラルを多く含んだ地下水が生まれ、若狭湾内に入ってくる淡水の約2割を占めることで豊かな海産物に恵みをもたらしています。

雲城水を汲む人(2019)福井県小浜市

市内でも有名な湧き水「雲城水」のある小浜市一番町は、各戸に掘抜き井戸があると言われるほど地下水に恵まれた場所です。百里ヶ岳を水源としたこの水は、100年かけて地下水脈を流れてくるとも言われており、すぐそばに海がある場所から湧き出ているにも関わらず塩気は一切なく、すっきりとして口当たりなめらかな美味しい水。普段からこの名水を汲みに訪れる地元の人々に愛されています。

つくし(2019)福井県小浜市

漁村(2019)福井県小浜市

田烏の棚田(2019)福井県小浜市

大陸からつながる海の道と、都へとつながる陸の道を結ぶ最大の拠点となった若狭おばま。古代から続く往来の歴史の中で、港、城下町、宿場町が栄え、また往来によりもたらされた祭礼、芸能、仏教文化が街道沿いから農漁村にまで広く伝わり、独自の発展を遂げてきました。小浜には他の地域ではみられないほど、何百もの民俗行事と、それらにつながる繊細で固有な行事食が継承されています。それは大自然に守られ生かされている、人々の敬虔な生き方の表れでもあるのです。

提供: ストーリー

協力:
御食国若狭おばま食文化館
小浜市

写真:中垣美沙
編集・執筆:林田沙織
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
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