日本一の産地広島、牡蠣の秘めた可能性

広島の牡蠣生産の歴史と文化を探りましょう。

焼き牡蠣(2020)農林水産省

作業場にこだまする、カンカンという乾いた音。一列に並ぶ女性たちの背中、目の前には牡蠣の山。「打ち子さん」と呼ばれる彼女たちは、驚くほどの早技で牡蠣の身を殻から外していきます。これは「牡蠣打ち」と呼ばれる作業。熟練の打ち子さんは、1日80kgもの身を剥くといいます。

打ち子(2020)農林水産省

牡蠣打ちの様子(2020)農林水産省

冬の朝を告げる、牡蠣打ちの音

「牡蠣打ちの音は、冬の広島の風物詩です。殻に穴を開けるときにカンカンと音がするんです。ナイフではなく、牡蠣打ち専用の器具を使うのは広島ならでは。僕が小さい頃、冬になると朝の街にこの音がこだましていたものです」そう語るのは、1957年から広島で牡蠣の加工販売を行うクニヒロ株式会社の川崎耕平さん。

牡蠣の身(2020)農林水産省

広島の牡蠣は剥き身で

日本の冬のごちそうといえば牡蠣。あつあつの牡蠣鍋に、焼きがき、生牡蠣と楽しみはつきません。そして広島は国内出荷の6割以上を占める日本一の牡蠣の産地。広島の牡蠣文化の特色は、むき身で食べる食文化だと川崎さんは言います。

「剥き身の牡蠣の出荷量は、広島が全国1位の1万9千トン。2位は岡山の3千トンと大きな差があります。剥き身にできる牡蠣は、殻で支えなくてもいいほど肉厚ということ。広島には肉付きのいい牡蠣がとれる海の条件が揃っています」

牡蠣漁師(2020)農林水産省

「みなさんは、牡蠣を月にどれくらい食べますか?」と川崎さん。「食べても月に数個という人も多いですよね。今はオイスターバーなどで殻つきの牡蠣を個数単位で楽しむ食べ方が広がっています。ですが、広島県民はもとより日本国内の消費形態は、もともとは剥き身で食べる文化。各家庭でキロ単位で買って、鍋などで食べるのが一般的でした。牡蠣は亜鉛や、タウリンを豊富に含み、栄養満点。日常的に牡蠣を食べる文化を取り戻していきたいですね」

牡蠣の収穫(2020)農林水産省

縄文人も牡蠣を食べていた

日本人の牡蠣の歴史は古く、縄文時代にはすでに食べていたと言われます。それを裏付けるように、日本各地に残る先史次第の遺跡「貝塚」には、多くの牡蠣の殻が含まれています。牡蠣の養殖が始まったのは室町時代で、文献には、天文年間(1532〜1555)に現在の広島西部で養殖方法が発明されたと記述があります。それから現在に至るまで、広島は牡蠣の名産地であり続けています。

牡蠣漁師の作業場(2020)農林水産省

牡蠣の収穫(2020)農林水産省

栄養豊富な広島の海

古代から日本で愛されてきた牡蠣。では、どうして広島が日本一の牡蠣の産地になったのでしょう。川崎さんはその理由を、瀬戸内海の中でも特に穏やかな海だと言います。「太田川の栄養豊富な水が流れ込み、瀬戸内でも特に波がおだやかなのが広島の海。そのためプランクトンが滞留して栄養が豊富で、美味しい牡蠣が育つのです」

牡蠣プール(2020)農林水産省

もうひとつ、広島の牡蠣ならではの特徴が安全への取り組み。通常、水揚げされたかきは洗浄された後、そのまま出荷されるのが一般的ですが、広島の牡蠣は専用プールで一日かけて浄化することが義務付けられています。体に溜まった汚染物を吐かせて安全性を担保し、牡蠣特有のえぐみも解消されます。「牡蠣は1時間に10リットル以上の海水を吸って、えらでろ過して海の栄養をたっぷりと体内に蓄えます。そのときに、海の菌なども一緒に体に溜めてしまうんです」

蠣殻(2020)農林水産省

「三倍体」の牡蠣(2020)農林水産省

環境負荷の少ない、未来のタンパク源

牡蠣の強力なろ過作用は、海を浄化させる効能もあります。牡蠣が棲む海は水質がきれいになる、というのは有名な話で、東京湾では牡蠣を自生させて水質を浄化させる実験も行われています。また、牡蠣殻自体にも浄化作用があり、畑の肥料やテトラポットの素材など、環境改善に効果のある素材として、牡蠣の可能性に注目が集まっています。

「クニヒロ 」の川崎さん(2020)農林水産省

「牡蠣には、タンパク源としての大きな利用価値があると考えています。牡蠣は牛肉など他の主要タンパク源に比べて環境負荷が小さく、むしろ海を浄化してくれます。海があればどこでも育てられますし、昆虫食など他のタンパク源と比べても、世界中で長く親しまれている食材。環境破壊や気候変動がますます問題になるこれからの世界、牡蠣の可能性はますます重要なものになるはずです」

牡蠣小屋(2020)農林水産省

焼き牡蠣(2020)農林水産省

かき小屋で焼き牡蠣を

パン!パン!と小屋にこだまするのは、炭火で焼かれた牡蠣がはじける音。続いて訪れたのは「ミルキー鉄男のかき小屋 宇品店」。牡蠣料理屋が点在する「オイスターロード」と呼ばれる広島の岸沿いにある、焼き牡蠣のお店です。こちらの店では殻つきの牡蠣を自分たちで焼いて食べる「浜焼き」のスタイルが楽しめます。

牡蠣飯(2020)農林水産省

「牡蠣小屋宇品店」の今村さん(2020)農林水産省

こちらを経営する企業で営業部長を務める今村さんは、「焼き牡蠣は、最近広島で一般的に人気を集めている牡蠣の食べ方です」と言います。「牡蠣や好きな貝を選んで席に持っていって、ご自身で焼いていただけます。この店で特に人気なのは『三倍体』と呼ばれる、通常より身が大きな牡蠣。旨味がたっぷりで濃厚です。やはり焼き牡蠣は特に人気がありますが、他にも牡蠣飯や牡蠣汁などで提供しています」

生牡蠣の食べ比べ(2020)農林水産省

福山唯一のオイスターバー

牡蠣料理を語る上で外せない文化がオイスターバー。福山市で「フォーエバーカフェ&オイスターバー」を営む古賀大輔さんを訪ねます。こちらのお店では、生牡蠣にフライ、鉄板焼きなど、世界中のさまざまな牡蠣料理を、お酒と一緒に楽しめます。ちなみにここで扱う牡蠣は、冒頭で紹介したクニヒロのもの。まずは、古賀さんの牡蠣料理を見ていきましょう。

スコッチと牡蠣(2020)農林水産省

スコッチと生牡蠣

生牡蠣にスコッチウイスキーをたらして、こぼさないようにジュっと。村上春樹のエッセイ『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』にも、アイラ島で牡蠣にスコッチをかけて食べるシーンが登場します。「ボウモアは海沿いの蒸溜所で作られたお酒。牡蠣も海のものなので合うんです」と古賀さん。

白いカキフライ(2020)農林水産省

白いカキフライ

白い衣の秘密はカキフライ用に開発したパン粉を低温のラードで揚げること。牡蠣の水分を保ちながら、旨味をぎゅと閉じ込めます。庶民的なイメージのカキフライが特別なごちそうに。

牡蠣ウニホーレン(2020)農林水産省

牡蠣ウニホーレン

「ウニホーレンという広島のご当地B級グルメがあるんですが、そこに牡蠣を加えてアレンジしました」。ウニ、牡蠣、ほうれん草を鉄板で焼いて。バゲットでいただきます。

「フォーエバー カフェ&オイスター」の古賀さん(2020)農林水産省

「海外に目を向ければ、多様な牡蠣の楽しみ方があります。アメリカでは大抵の街にオイスターバーがあって、みんなダース単位で食べますし、南部では牡蠣のサンドイッチ『ポーボーイサンド』も一般的。ヨーロッパにも独自の牡蠣の食文化がありますね。でも、広島の牡蠣料理の多くは焼き牡蠣の店。この店ができる前は、福山にはオイスターバーが1軒もなかったくらいです。もちろん日本の牡蠣料理の文化は素晴らしい。でもそれと並行して、新しい牡蠣の食べ方を提案する場所があっていいはず。広島は牡蠣の街ですから、世界に通用するものを発信していきたいんです。広島の牡蠣文化には、まだまだ発展の余地がありますよ」

提供: ストーリー

協力
クニヒロ株式会社
ミルキー鉄男のかき小屋 宇品店
フォーエバーカフェ&オイスターバー

写真:阿部 裕介(YARD)
編集・執筆:山若 マサヤ
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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