スペインのスイートな一面

伝統のケーキ、ペイストリー、デザート。

"Pestiños" (deep-fried, honey-glazed pastries)出典: https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=9946704

スペインの伝統的なデザート

スペイン料理は世界中で知られています。その多様な気候、自然の恵み溢れる土壌、数千キロにもおよぶ海岸線。スペインの豊かな風土で育まれた質の高い潤沢な食材のおかげで、それぞれの地域ならではのバリエーション豊かなレシピが生み出されてきました。スペインといえば肉や魚の煮込み料理が有名ですが、名が知られているデザートのレシピもたくさんあります。

"Crema Catalana" (The Catalan Crème Brûlée)出典: eladerezo.com

「アロス コン レチェ(ライス プディング)」や「クレマ カタラーナ」などのデザート、東方三賢人の日の「ロスコン デ レジェス(王様のケーキ)」といったお祭りのときに食べる伝統菓子、そして最初は修道院で作られていたレシピなど、スペインの料理には過去から現在までに誕生したさまざまなデザートがあります。

作成者: John DominisLIFE Photo Collection

アラブ文化の影響が色濃いスペインのスイーツ

アラブ民族がスペインに残した影響を理解することなく、スペインのデザートについて語ることはできません。米、ハチミツ、ドライフルーツ、ナッツ(特にアーモンドは、マジパンなど多くの伝統的スイーツに使われています)はすべて、イスラム勢力のイベリア半島征服に伴ってスペインにもたらされ一般的になった食材です。

Sweets from the Convent of San Antonio de Paduaスペイン王立ガストロノミー学会

もう 1 つの大きな影響は女子修道院

菓子作りの起源は、数百年前の女子修道院の料理と言われています。何世紀も前に修道女たちが自然の食材と伝統的な方法で手作りしていたレシピが、世代から世代へと受け継がれ、スペインの伝統的なデザートに大きな影響を及ぼしたのです。修道院の入り口では今日でも、イエマス デ サンタ テレサ(聖テレサの卵黄ペイストリー)や「ボリトス デ サンタ イネス」(聖アグネスの菓子パン)を買い求めることができます。

Flaó出典: eladerezo.com

デザート

スペインの調理法はバラエティーに富んでおり、地域ごとに独自の料理スタイルが確立されています。その土地でとれる食材、他の場所からもたらされた影響、地域独自の文化、経済や社会の特性などが相まって、それぞれの地域に特有のレシピが形成されてきたのです。

Greixonera出典: eladerezo.com

デザートも例外ではありません。「ナティジャス」(スペインのカスタード)は国中どこでも手に入りますが、地方を訪れればそれぞれに特色のあるバラエティー豊かなスイーツを楽しむことができます。ただし、中にははるか彼方の地からもたらされたものや、起源が不明なものもあります。

"Arroz con Leche" (Rice Pudding)スペイン王立ガストロノミー学会

「アロス コン レチェ」(ライス プディング)

米、牛乳、砂糖を煮込み、シナモンや柑橘類の皮で香り付けしたデザートです。北部のアストゥリアス地方で人気の一品ですが、イスラムのデザートにそっくりであることから、アラブ文化の影響が色濃い最南のアンダルシア地方が起源と言われています。中東だけでなく、ボリビアやパナマといった中南米の国々の料理本にも載っています。砂糖がまだ手に入らなかった時代のスペインでは、代わりにハチミツが使われていたそうです。15~16 世紀には「マンハール ブランコ」(白いごちそう)と呼ばれていました。

Fried Milk Pudding with Pedro Ximénez Sauce and Raisinsスペイン王立ガストロノミー学会

「レチェ フリータ」(揚げミルク)

スペイン北部の伝統的なデザートです。起源がはっきりしておらず、カスティーリャ イ レオンやバスクなどの自治州がそれぞれ起源を主張しています。復活祭に作るのが伝統ですが、現在はスペイン中で一年を通して食べることができます。小麦粉、砂糖、卵、牛乳を煮つめてシナモンで香り付けし、冷やして固めたものを柔らかい生地に包んで油で揚げます。

"Torrijas" (Spain's French Toast)スペイン王立ガストロノミー学会

「トリハス」(スペイン版フレンチ トースト)

記録に残っている最古のデザートの 1 つで、4~5 世紀に書かれたローマ帝国時代のレシピ集「アピシウス」にも非常によく似たレシピが登場します。日本ではフレンチ トーストが有名ですが、ポルトガルなど他の国々にもよく似たトーストが存在します。スペインでは、伝統的に「セマナ サンタ」(聖週間)に食べられてきたデザートですが、現在は一年を通して全国で作られており、多くのレストランがメニューに載せています。牛乳やワインに浸したパンを揚げるだけのシンプルなスイーツです。

"Natillas" (Spanish Custard)出典: https://www.instagram.com/teresa_vivancos/?hl=en

「ナティジャス」(スペインのカスタード)

このデザートの起源ははっきりしていませんが、中世ヨーロッパの女子修道会やルネサンス時代のフランスのデザートに関係していると言われています。しかし、スペインで最も伝統的なデザートの 1 つであることは間違いなく、各家庭が代々受け継いできたレシピで折あるごとに作られているようです。牛乳、卵黄、砂糖から作ったクリームにバニラで風味付けします。

"Tarta de Santiago" (St. James' Cake)スペイン王立ガストロノミー学会

「タルタ デ サンティアゴ」(聖ヤコブのケーキ)

別名「トルタ コンポステーラ」(サンティアゴ デ コンポステーラのケーキ)。ガリシア州が起源と言われていますが、アリカンテの「タルタ デ エルチェ」のようなよく似たデザートが他の地方にも存在します。アーモンドがスペイン西部から伝わったことを考えると、それも不思議ではありません。

このガリシア ケーキに関する記述は数世紀前のものが残っていますが、聖ヤコブの十字を粉糖で型抜きするようになったのは 1924 年のことです。型抜きを始めたのは、サンティアゴ デ コンポステーラのベーカリー Casa Mora と言われています。それを地域のベーカリーが真似するようになり、今ではすべてのタルタ デ サンティアゴにこの十字マークがついています。アーモンド、砂糖、卵から作られるこのケーキは、欧州の地理的表示保護の認定を受けています。

"Crema Catalana" (The Catalan Crème Brûlée)出典: eladerezo.com

「クレマ カタラーナ」(カタルーニャのクレーム ブリュレ)

カタルーニャ州で最も長く愛されているデザートの 1 つで、14 世紀には存在していたことを示す文献が残っています。しかし、よく似たスイーツとしてフランスの「クレーム ブリュレ」や英国の「トリニティ クリーム」があり、それぞれの国が起源を主張しています。卵黄、牛乳、砂糖で作ったカスタードを小さな陶器に入れて冷やし、食べる直前に表面にまぶした砂糖を炙ってカラメルの層を作ります。「クレマ デ サント ジョゼプ」(聖ヨセフのクリーム)とも呼ばれ、3 月 19 日の聖ヨセフの日に食べるのが昔からの習わしでした。

"Brazo Gitano" ("Gypsy Arm" or Swiss Roll)スペイン王立ガストロノミー学会

「ブラソ デ ヒターノ」(スペイン版スイスロール)

直訳すると「ジプシーの腕」。スポンジケーキにフィリングを乗せて巻いたロールケーキです。起源は諸説ありますが、その 1 つがベーカリーで働くジプシーの職人に賃金として渡されていたという説です。余り物のスポンジケーキを、脇に挟んで簡単に持ち帰れるように丸めたのが始まりと言われています。その他に、エル ビエルソの修道士がエジプトから持ち帰ったという説もあります。スペインではアラゴン州(特にウエスカ県)に古くから伝わるデザートですが、現在は全国に広がっています。

Flanスペイン王立ガストロノミー学会

フラン(プリン)

フランによく似たデザートについての記述は、ローマ時代の「Tyropatinam」(卵、牛乳、ハチミツで作ったクリーム)にまでさかのぼります。その後、中世にはいくつかの風味がある「フラド」というデザートになり、それが今日では「フラン」または「プリン」と呼ばれるようになりました。スペインで最も人気のデザートの 1 つで、海を渡ってアメリカにも伝えられたほどです。フランスでは「creme renversée au caramel」と呼びます。「renversée」は逆さにするという意味で、「型をひっくり返し、クリームを逆さにお皿に盛り付けてカラメルを添える」という作り方をそのまま表しています。

"Quesada" Puddingスペイン王立ガストロノミー学会

「ケサダ」プディング

カンタブリア州パシエゴス渓谷地方のデザートで、14 世紀にイタの主席司祭が記した「よき愛の書」には、これによく似たレシピや「アサデロ」チーズに関する記述が見られます。牛の凝乳、バター、小麦粉、卵、砂糖で作るケサダは、この地方で最も有名なデザートの 1 つです。昔は新鮮なパシエゴ チーズが使われていました。他のデザートと同様、アラブ民族がスペインに砂糖を持ち込むまではハチミツで作られていたようです。

Millefeuilleスペイン王立ガストロノミー学会

「ミルオハス」(ミルフィーユ)

スペインのベーカリーでよく見かけるミルオハスは、何枚かのパイ生地にメレンゲ、クリーム、カスタード、「カベージョ デ アンヘル」(天使の髪)というパンプキン ジャムなどを挟んだデザートです。アラブ文化またはフランス文化の影響を受けたスイーツと言われています。どちらの文化もスペイン料理に深く浸透していますし、どちらにもパイ生地を使ったすばらしい料理があります。

"Saint's bones"出典: Wikimedia.org

お祝いのデザート

お祝いのときに特別なスイーツを食べるのは世界に共通する食文化です。スペインも例外ではありません。たとえばクリスマスの時期特有で、それ以外の季節にはあまり食べないデザートがあります。

"Turrón" (nougat)スペイン王立ガストロノミー学会

その 1 つが「トゥロン」(ヌガー)です。地域によって少しずつ違いがあり、地理的表示保護の認定を受けています。たとえば、ヒホナのトゥロンは焙煎したアーモンド、砂糖、ハチミツで作ります。一方、アリカンテのトゥロンは湯通ししたアーモンド、丸ごとのアーモンド、ウエハースで作りますし、アグラムントのトゥロンはアーモンドまたはヘーゼルナッツ、砂糖、ハチミツ、卵白で作り、通常は円盤状に固めます。

Magdalena de turrón (nougat cake)スペイン王立ガストロノミー学会

これらは伝統的なトゥロンで、「ソフトタイプ」や「ハードタイプ」と呼ばれることもあります。しかし最近では、チョコレート、卵黄、クリームとナッツ、砂糖漬けのフルーツなど、他の材料を組み合わせたさまざまなタイプのトゥロンが作られるようになりました。

"Mantecados" de Estepa (shortbread cookies made with floor)スペイン王立ガストロノミー学会

クリスマスの時期に食べるスイーツは他にもあります。世界遺産の街トレドの名物「マジパン」(アーモンド、砂糖、卵で作ったペースト)、地理的表示保護の認定も受けている「マンテカド」(小麦粉、ラード、砂糖で作ったショートブレッド クッキー)、マンテカドにアーモンドが入った「ポルボロン」などがあります。

"Roscón de Reyes" or Three Kings' Cakeスペイン王立ガストロノミー学会

1 月 6 日の公現祭(東方三賢人の日)の伝統的なデザートとしては、クリスマス シーズンを通してよく食べられている「ロスコン デ レジェス(王様のケーキ)」があります。ブリオッシュのようなしっとりとしたケーキで、オレンジ花水にクリームやカスタード、ときにはトリュフ クリームを加え、リング状に成形して砂糖漬けのフルーツなどをトッピングします。ポルトガルや中南米の一部(メキシコ、コロンビアなど)では、このデザートが独自の文化として浸透しています。

"Buñuelo de Viento"スペイン王立ガストロノミー学会

伝統的なデザートを食べる習慣があるのはクリスマスだけではありません。諸聖人の日(11 月 1 日)には、「聖人の骨」という異名を持つ「ウエソス デ サント」(甘い卵黄シロップをマジパンで棒状に包んだもの)、「ブニュエロス デ ビエント」(フィリングを生地で丸く包んで揚げたもの)、「パナジェッツ」(アーモンド ペースト、砂糖、卵、すり下ろしたレモンの皮で作った生地に松の実をまぶしたもの)などがベーカリーの棚に並びます。

Mona de Pascua出典: Wikimedia.org

セマナ サンタ(聖週間)のデザートとしては、「トリハス」の他にも、「モナ デ パスクア」というイースター ケーキ(受難節後の祝宴に出される)や、それをチョコレートで作った「モナ デ チョコラテ」も人気で、特にカタルーニャやバレンシアの文化に深く浸透しています。

"Rosquillas" (doughnouts) from Madridスペイン王立ガストロノミー学会

人気のケーキとペイストリー

食後のデザートやお祝いで食べる特別なスイーツの他にも、一年を通してさまざまなケーキやペイストリーが朝食や午後の軽食として食べられています。

Churrosスペイン王立ガストロノミー学会

たとえば、アンダルシアの伝統的な軽食といえば、チョコレートのチュロス、オルチャータ(タイガーナッツ ミルク)とファルトン(長細いバンズ)、「ロスキージャス」(ドーナツ)、「ペスティーニョ」(ハチミツをからめたペイストーリーを揚げたもの)などがあります。もともとはすべてクリスマスやセマナ サンタに関係したお菓子でしたが、今日では一年を通して食べられるようになっています。

"Sobao Pasiego"スペイン王立ガストロノミー学会

地理的表示保護の認定を受けた軽食として忘れてはならないのが、「ソバオ パシエゴ」(カンタブリア州ヴァッレ デル パスの軽くておいしいスポンジケーキ)や、「エンサイマダ」(マヨルカ島の柔らかくて丸いバンズ)です。

Sweets from the Convent of San Antonio de Paduaスペイン王立ガストロノミー学会

修道院のケーキやペイストリー

多くの男子修道院や女子修道院では、今でも何世紀も前の伝統的なレシピを使ってケーキやペイストリーを作っています。閉ざされた扉の向こうでは修道士たちが、「ロスコ」(ワインやアニセットを生地に練り込んだ丸いビスケット)、「テハス デ アルメンドラ」(瓦の形をしたアーモンド ビスケット)、「コカダス」(ココナッツのお菓子)、「トシニトス デ シエロ」(卵黄とカラメルのプリン)などを献身的に作り続けています。これらの「神聖な」お菓子のおかげで、修道院を長く維持できてきた面もあるのです。

"Yemas de Santa Teresa" (egg-yolk pastries)スペイン王立ガストロノミー学会

有名なものとしては、アビラにあるサンタ テレサ修道院の「イエマス デ サンタ テレサ」(卵黄のパストリー)、セビリアの「イエマス デ サン レアンドロ」、トルデシリャスの「アマルギージョス デ サンタ クララ」(アーモンド ケーキ)、セビリアの「ボリトス デ サンタ イネス」(甘いパン)、パレンシアにあるヌエストラ セニョーラ デ ラ ピエダ修道院の「ロスキージャ デ サンタ ロサ」(ドーナツ)、Convent of the Immaculate Conception(聖マリアの無原罪修道会)の修道女クラリサ デ マルセーナが作った花梨のゼリーなどが挙げられます。

Shop at the Convent of San Antonio de Paduaスペイン王立ガストロノミー学会

修道院で作られてきたデザートは、長い年月をかけてスペインの歴史の一部となり、今ではその多くが街中のお店に並ぶようになりました。一部の修道院ではオンライン販売も行っており、1996 年からは 300 以上の修道院デザートを集めた展示会も開かれています。

提供: ストーリー

テキスト: シルビア アルタサ氏

画像: スペインの食とワイン / スペイン貿易投資庁 / Eladerezo.com

謝辞: ラファエル アンソン氏(スペイン王立ガストロノミー学会代表)、エレーナ ロドリゲス氏(スペイン王立ガストロノミー学会ディレクター)、マリア ガルシア氏およびキャロリーヌ ヴェルイーユ氏(いずれもスペイン王立ガストロノミー学会貢献者)

スペイン王立ガストロノミー学会

この展示は、スペインの食文化について取り上げた Google Arts & Culture とスペイン王立ガストロノミー学会による共同プロジェクトの一部です。

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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