直島は1910年代に銅の精錬所が建設され、その公害で島の自然環境は荒廃した。はげ山と化したその自然を再生し、アートと人のための場をつくるという壮大なプロジェクトが、1980年代の終わりにスタートした。
安藤はこの構想を具体化するための建築を設計することになる。そうして最初に完成した建築が、宿泊施設を併設した美術館「ベネッセ ハウスミュージアム」だ。
1:風景に溶け込む
島の岬の先端に建設された美術館棟、その背後の丘に計画された宿泊棟「オーバル」、そして階段広場を併設した桟橋が、風景に溶け込むように地形に沿って配置されている。
ベネッセハウス ミュージアム(1992) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates
船に乗り、海からアプローチすると、建築の姿はほとんど見えない。所々に差し込まれたコンクリートの壁が自然との美しい対比をつくり出す。
ベネッセハウス ミュージアム(1992) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates
桟橋の先には階段状のテラスがあり、人々を迎える。風景を切り取るコンクリートの壁が、人々の意識を自然に対してより鋭敏なものにする。
ベネッセハウス ミュージアム(1992) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates
白大理石が積まれた壁に沿って美術館エントランスへと向かうアプローチ空間。植物が石の壁を覆い、建築と周囲の自然が一体化する。
ベネッセハウス ミュージアム(1992) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates
緑に包まれる建築の先に美術館への入り口が見える。植物がつくり出す柔らかなシルエットと、壁がつくり出すシャープなシルエットの対比が美しい。
2:地形に沿って展開する幾何学空間
ベネッセハウス ミュージアム(1992) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates
美術館は、円や長方形などの幾何形態の組み合わせによる単純明快な構成を示す。しかしその内部は垂直・水平方向に伸びやかに展開する、複雑多様な空間が用意されている。
エントランスの先では、トップライトからの光が印象的なシリンダー状の吹き抜け空間が人々を迎える。光という自然の存在が、艶やかなコンクリート空間に生命を吹き込む。
ベネッセハウス ミュージアム(写真:大林直治)安藤忠雄建築研究所
地形の段差を巧みに生かした半地下の展示室。フローリングの床と白い壁、光の採り入れ方によって、洞窟的な雰囲気で始まった空間のシークエンスを一気に開放に向かわせる。
リチャード・ロング"瀬戸内海の流木の円"/"瀬戸内海のエイヴォン川の泥の環"(写真:山本糾)安藤忠雄建築研究所
安田侃"天秘"(写真:山本糾)安藤忠雄建築研究所
作品は内部だけでなく、屋外のドライエリアや海側のコートにも設置されている。一つひとつ場所が読み解かれながら、ディレクターによって注意深く作品が配置されている。
ベネッセハウス ミュージアム(1992) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates
コンクリートの壁によって切り取られた直島の風景。
3:瀬戸内海を感じる
Benesse House Museum(写真:鈴木研一)安藤忠雄建築研究所
直島から見る瀬戸内の海。建築は島の一部でもあり、同時にこの瀬戸内海の美しい自然に来訪者が向き合うための装置でもある。
ベネッセハウス ミュージアム(1992) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates
美術館2階から緑化された屋上越しに海を見る。瀬戸内の青い海と空、島の緑が、コンクリートと白大理石と美しいコントラストをなす。
ベネッセハウス ミュージアム(1992) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates
上階には宿泊用の部屋が併設されており、滞在しながらじっくりと美術作品に向き合い、時間とともに移り変わる建築の表情と島の風景を楽しむことができる。
ベネッセハウス ミュージアム(1992) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates
この美しい自然の風景をいかに守り、継承するか。安藤の挑戦は長きにわたって続いていく。
執筆:川勝真一
編集:和田隆介
ディレクション:neucitora
監修:安藤忠雄建築研究所