五穀豊穣を願い神々と舞い遊ぶ「高千穂の夜神楽」

自然豊かで、天然記念物に指定された高千穂峡を有し、「神話と伝説の場所」として知られる宮崎県高千穂町には、1年を通じて多くの観光客が集まります。特にこの地域で伝承されている「高千穂の夜神楽」は有名です。作物の実りに感謝し、翌年の五穀豊穣を祈る神事で、秋から冬にかけておよそ20の集落で夜神楽が行われ、大いに盛り上がります。

高千穂峡出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

高千穂町 国見ヶ丘から町を見下す出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

神楽とは、日本神話の神様に捧げる歌や踊りのことで、その神話は日本最古の歴史書である「古事記(712年)」と「日本書紀(720年)」の最初の巻に綴られています。宮中で舞われる「御神楽」と一般の神社や民家で舞われる「里神楽」に分類されますが、どちらも年に一度の五穀豊穣の神事としておこなわれ、神を招き、夜通し神楽を楽しむ「神遊び」が原型だといわれています。全国の地域で受け継がれてきた「里神楽」は、その土地の文化が色濃く表れ、庶民の手によって継承されてきたことが大きな特徴。ここ高千穂町は、「天孫降臨神話」をはじめ、様々な神話や伝説の舞台となってきた歴史ある場所。神話に登場する神々が今も町の至る所で祀られています。

しょうけ盛り(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

そんな高千穂の魅力の一つは、神楽料理をはじめとする郷土料理。ここでしか食べることのできない、地元の食材をふんだんに使った美味しい料理にたくさん出会えます。例えば、しょうけ盛りやかっぽ鷄やかっぽ鷄。どれも聞きなれない料理名ですが、どんな料理なのでしょう?高千穂町を望む高台に建つ「民宿 神楽の館」の佐藤光さんにお話を伺いました。

神楽の館 佐藤さん(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

豆腐の煮しめ(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

「しょうけ盛りは、昔からこの地域で夜神楽の時に食べる料理です。地元でとれる自然の恵みを使ったごちそうですね。ざるのことをこの辺りでは”しょうけ”と呼んでいるので、そのしょうけに盛った料理が『しょうけ盛り』です」 名前のとおり、大きな"しょうけ"に、さまざまな料理がふんだんに盛り付けられています。いなりずしや魚ずしに、”お煮しめ”といわれる、椎茸や油揚げ、竹の子、ニンジン、サトイモ、こんにゃくなどの煮付けには、じんわりと深い味が染みていて、とても美味しい高千穂の味です。どれを取っても、豊かな自然の恵みを感じずにはいられません。

巻き寿司(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

野菜の煮しめ(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

高千穂の昔の風景写真(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

夜を徹して行われる神楽では、途中に夜食を挟みます。そのときに振舞われて最も喜ばれる料理がこの「神楽煮しめ」なのだそう。「昔から神楽の日は、この料理を男たちが作るのが普通だったんですよ。理由はよくわからないのですが。今はほとんど女性が作っています」と佐藤さん。

かっぽ鶏(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

こちらはかっぽ鷄。「かっぽ」とは、「竹」のこと。竹の特性である幹の空洞部分を活かし、酒を沸かしたり鶏肉を蒸し焼きにします。もともとは、村人が山仕事をするときに、竹を利用して食事を作ったり山茶を入れて飲んだりすることに使われていました。『かっぽ鶏』の具材には、地鶏、生シイタケ、ニラ、ニンニクが入っており、味付けは、塩コショウと秘伝のタレ、そしてたっぷりの酒。具材をよくもみこんでから竹に詰めてふたをし、炭火で蒸し焼きにします。

かっぽ鶏(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

火が通ると、竹筒がグツグツと沸き、良い香りが漂ってきます。湯気が出てくる様子が見えてきたら完成。竹のエキスもしみでて、なんともいえない美味しさです!かっぽ鶏を食べ終えたら、残ったつゆにごはんを入れて雑炊にして食べることも。

かっぽ酒(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

かっぽ酒を注ぐ(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

かっぽ酒(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

そして同じく竹を使った「かっぽ酒」。こちらの中身は焼酎もしくは日本酒。どちらも飲まれるものですが、この辺りでは焼酎を入れて飲むことが多いといいます。作り方は、かっぽ酒用に切った竹筒に、お酒を入れて囲炉裏や焚き火で沸かすというとてもシンプルなもの。竹が熱せられることで竹のエキスが焼酎に溶け込み、旨味や香りを更に際立ててくれます。湯気がたってくると飲み頃に。竹でつくったぐい呑みにお酒を注ぐと、「カポカポカポ」と、美味しそうな音。この風情ある音もまた、「かっぽ酒」の由来なのだそう。

神楽の館 佐藤光さんと佐藤みずえさん(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

神楽とともに伝わる神楽料理の「振る舞い」は、年に一度降臨される神々と里に暮らす人々が飲食を共にし、神人一体となる直会(なおらい)として古来より受け継がれています。寒空の下でいただく料理は、その味はもちろん、ここに暮らす人々の温かさが沁み渡る格別な料理です。

高千穂の夜神楽 火(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

高千穂町の静かな夜の空には、澄んだ空気と満天の星空が広がります。夜になると、町には太鼓と笛の幽玄な調べが、かすかに響きわたります。多くの人々に夜神楽の文化に触れてほしいと、高千穂神社の神楽館では神楽の一部を365日毎晩奉納しています。高千穂神社の敷地内から本殿へと向かう参道には、松明の灯が点され、煌々と燃える炎がとても幻想的。老木に囲まれた神社は厳かな雰囲気です。

高千穂の夜神楽 「手力雄の舞」(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

高千穂の夜神楽 「手力雄の舞」(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

手力雄の舞

夜を徹して三十三番の神楽を奉納する「高千穂の夜神楽」。その一部をご紹介しましょう。【手力雄の舞】日本神話のものがたりに登場する、手力雄命(たぢからおのみこと)が、太陽神である天照大神が隠れ、世界が暗闇に包まれてしまったために天照大神が隠れた天岩戸(あまのいわと)を探し当てるところを表した舞。片方には鈴、もう片方には 赤・白の幣の上部に冠が付いた岩戸幣を持っており、冠は天と水、地と土を表わします。

高千穂の夜神楽 「鈿女の舞」(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

鈿女(うずめ)の舞

神楽の起源とも言われる「鈿女の舞」。天岩戸の所在がはっきりしたので、岩戸の前で鈿女(うずめ)が面白おかしく舞いながら、天照大神を岩戸から誘い出そうとする優雅な舞です。傾ける角度によって豊かな表情を生み出す神楽の「面」は、不思議な魅力があります。時間をかけて丁寧につくられる神楽面は、宮崎県の伝統工芸品として、先人たちの想いや貴重な技術をいまに伝える財産です。

高千穂の夜神楽 「戸取の舞」(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

高千穂の夜神楽 「戸取の舞」(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

戸取の舞

勇壮で力強い舞は、手力雄命が岩戸を取り除いて天照大神を迎え出す舞。同じ手力雄命の舞でも、この舞で使われる神楽面が赤いのは、渾身の力を込めて岩戸を開くため、紅潮していることを表しています。この日力強く舞っていたのは、二上神社の地域に住む15歳の少年。舞い手の後継者が減っているなか、新しい世代にも伝統が受け継がれています。

高千穂の夜神楽(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

御神躰(ごしんたい)の舞

一名国生みの舞といい、イザナギ・イザナミの男女の神が新穀でお酒を作り、神前に捧げる神楽で「酒おこしの舞」とも呼ばれます。お互いに仲良く飲んで抱擁し合い、夫婦円満を象徴している舞です。

高千穂の夜神楽(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

高千穂町 国見ヶ丘出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site

「神と戯れる楽しさ」をいまの人々に伝える高千穂の夜神楽は、素朴で原始的でありながら、とてもドラマティックです。集落ごとに行われる年に一度の夜神楽は、地元の人にとっても、何度見ても感動するものがあるのだそう。

提供: ストーリー

協力:
高千穂峡ツーリズム協会
神楽の館
高千穂神社
二上神社
SAVOR JAPAN


写真:中垣 美沙
編集・執筆:林田 沙織
制作:Skyrocket株式会社

提供: 全展示アイテム
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