六甲の集合住宅―急斜面に展開する現代の集落

急勾配の山の斜面に沿って建てられた集合住宅。地形の特性を読み解くことで、周囲の自然と一体的な環境が生み出されている。

四半世紀をかけて「集まって住む」ことの豊かさが追求された。

六甲の集合住宅 Ⅰ(1983) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

Rokko Housing Ⅰ(1983)

施主は、敷地として山裾の平地を想定し、集合住宅の設計を依頼した。しかし、現地を訪れた安藤の視線は、その背後に迫る60度という急勾配の斜面へと向けられる。

地形を無視して土地を平たく造成し、どこにでも同じような住宅を建てるという風潮に強い疑問を抱いていた安藤は、傾斜地の魅力を最大限に引き出し、この場所にしかない住空間をつくりたいと考えた。

六甲の集合住宅 Ⅰ(1983) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

土砂災害を防ぐために斜面には擁壁をつくる必要がある。安藤は、傾斜地に乗っている建築の基礎部分そのものが擁壁の機能を果たす一種の擁壁建築として計画した。

若き日の安藤忠雄(六甲の集合住宅Iの現場にて)(1983) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

しかし、通常とは異なる敷地の捉え方は、当然ながら実現に向け多くの困難を生んだ。とくに急斜面での建設に伴う安全性を確保するために、敷地周辺も含めた地質調査が行われ、当時としてはまだ珍しかったコンピューターを使った解析が試みられた。

相当な難工事が予想され、あやうく工事を引き受けてくれる建設会社が見つからないところだったという。こうして幾多の困難を乗り越え、急斜面の地形がそのまま置き換えられたかのような建築が生まれた。

六甲の集合住宅 Ⅰ(1983) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

5.8m×4.8mのグリッドを単位とした住戸ユニットが斜面に沿ってズレながら積層する。各住戸はさまざまな方角に向いたテラスを持ち、広さや間取りは全て異なる。

六甲の集合住宅 Ⅰ(1983) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

垂直方向に伸びるコンクリート壁がつくり出す光と影のコントラスト。グリッドのズレによって生まれた隙間は立体化された路地空間であり、住人たちが交流するパブリックスペースになる。

六甲の集合住宅 Ⅰ(1983) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

風景に刻まれた幾何学は建築家の強い意思を示すと同時に、周囲の自然の存在を際立たせる。

六甲の集合住宅 Ⅱ(1993) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

Rokko Housing Ⅱ(1993)

Ⅰ期の完成と時を同じくして、異なるクライアントから依頼があり、隣接する敷地に新たな計画がスタートする。ここでも斜面地の集合住宅というテーマが引き継がれ、六甲の集合住宅IIと位置付けられた。

六甲の集合住宅 Ⅱ(1993) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

Ⅰ期に比べ規模が大きくなったことで、全体は壁ではなくコンクリートフレームによって構成された。このボキャブラリーの変化によって、「地形の建築化」という主題がより激しく、大胆に展開しているように見える。

六甲の集合住宅 Ⅱ(1993) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

住戸フレームを急勾配の地形に馴染ませるように配置する方法は六甲の集合住宅Ⅰから踏襲された。三つのブロックに分けられた住棟の間にはパブリックスペースとしての大階段や広場が各所に配置された。

六甲の集合住宅 Ⅱ(1993) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

安藤が特に力を注いだのはパブリックスペースの充実だった。

六甲の集合住宅 Ⅱ(1993) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

海を見渡す最高のローケーションには、住民同士の交流を意図したパブリックスペースとしての共用プールが設けられている。

六甲の集合住宅 Ⅱ(1993) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

周囲の自然との有機的な結び付きは各住戸に多様なバリエーションをつくりだす。地形が中庭として取り込まれた室内。

六甲の集合住宅 Ⅱ(1993) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

大きな開口部からは斜面の緑と、青い空と海を楽しむことができる。

六甲の集合住宅 Ⅲ(1999) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

Rokko Housing III (1999)

Ⅱ期からさらに6年後、阪神淡路大震災の復興住宅として六甲の集合住宅Ⅲ期が実現する。

六甲の集合住宅 Ⅲ(1999) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

敷地の高低差に合わせ、住戸プランの異なる高層棟、中層棟、低層棟が配置された。各棟の間には、Ⅱ期よりもさらに大きく充実したパブリックスペースが設けられている。

六甲の集合住宅 Ⅲ(1999) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

高層棟と低層棟の間には、東西方向に緑のパブリックスペースが広がる。

六甲の集合住宅 Ⅲ(1999) - 作者: 安藤 忠雄出典: Tadao Ando Architect & Associates

緑化された低層棟の屋上は高層棟からの風景の借景となる。震災から復興を遂げた神戸の街並みとそのさきに海を望む。

長い時間をかけて、あの緑の地形の中に私がつくろうとしてきたのは、現代建築による集落の風景です。(安藤忠雄)

提供: ストーリー

執筆:川勝真一 

編集:和田隆介 
ディレクション:neucitora
監修:安藤忠雄建築研究所

提供: 全展示アイテム
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