15 周年をお祝いしましょう!

もてなしの心を込めた和食器と多様性を受け入れる食卓文化

江戸時代以降に作られた磁器の和皿には、さまざまな絵柄が描かれています。そのモチーフは、植物や動物などの自然物がほとんど。名前の残っていない無名の絵付け職人が器という小さなキャンバスに描いたのは、季節の移ろいや、そこに感じる美しさやよろこび。同じモチーフでも、いろいろな表現によって描かれているところは、見れば見るほどに興味を惹かれます。

和食器 春(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

季節のモチーフを少しご紹介しましょう。 春は、雀やつくしが多く描かれます。雪解けで水が多い時期に山から木を運ぶ筏流しの風景も春の風物詩です。

和食器 夏(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

夏に多く見られるのは、朝顔や金魚や魚などの涼しげなモチーフです。

和食器 秋(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

秋は、兎や紅葉の流水紋、夜露を表す「露芝」の文様が描かれます。兎が描かれているものは、丸いお皿自体を満月に見立てています。

和食器 冬(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

冬は、皿の中に雪のさまざまな表現を見ることがきます。皿の形に雪の結晶を表した「雪輪」や、雪が笹に積もった「雪持ち笹」なども代表的です。

竹が描かれた和食器(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

そして、厳しい長い冬の景色と、待ち望んでいた春のよろこびを象徴するのが、お祝いの器として最もたくさんの種類が世に出ているとも言われる「松竹梅」の絵柄です。

梅が描かれた和食器(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

松と竹は、冬の間にも緑の葉を残しているもの。寒々しい景色の中に唯一残る緑の葉に、昔の人々は勇気付けられていたと言われています。また、梅は、春の象徴。今は、春といえば桜という印象を持っている方も多いと思いますが、昔の器には桜を描いたものは、あまりありません。桜よりも早く春を知らせてくれる花、そして鮮やかな色で景色を華やか彩ってくれる花として、梅は愛されていたということなのでしょう。一つの器の中に松竹梅のすべてを描く手法は、なかなかユニーク。どこに梅があるのか、どこに竹が隠れているのか、探してみるのはなかなかおもしろいものです。

茄子の絵柄の和食器(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

日本の食卓に生き続けるアニミズム思想

柄としてよく見かけるものに、茄子の絵柄があります。これは、物事を〝成す〟というところから縁起がいいとされ、季節を問わず好まれてきた柄。日本の器には、このように、意味合いで親しまれているモチーフも多く存在します。茄子と同じような異口同音での言葉遊びというところでは、めでたいから鯛、多幸だから蛸、というのもよく知られています。

竹が描かれた和食器(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

その他、二本の松の葉が描かれているものは、「一緒」という意味で愛されていたり、海老は、「長寿」や「成長」の象徴とされていたりします。

結びの箸置き(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

日本人というのは、なにげない身の回りにあるものや風景に意味づけをして、それを楽しんだりおもてなしとして表現したりしていた民族です。それは、おせち料理の中身でも見ることができますが、想像力と感性の高さ、そして洒落っ気と遊び心のある民族性と捉えると、非常に魅力的に思えてくるのです。

身の回りのいろいろなものに意味を感じ、それを大事にする文化は、日本に昔から根付く「アミニズム」という考え方も関係しているかもしれません。アニミズムとは、自然界のそれぞれのものに魂が宿っているという考え方をさします。食事の時に当たり前のように手を合わせ口にする「いただきます」という言葉にも、この考え方が深く関係していると考えられます。木々や花、動物や虫にも魂が宿り、人々を守ってくれる神様として崇められることもありますが、それは、ありとあらゆるものに神が存在している、という考え方にも通じるでしょう。いつも側に神様がいる。そういう日本人の中に根付く考え方は、「祝い箸」というものを誕生させました。

祝い箸(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

「祝い箸」はお正月に使われるお箸で、長さは末広がりとして縁起が良い八尺。両箸が細くなっているのが特徴的です。これは、一方は人が使うため、もう一方は神様が使いためと考えられていて、一年の恩恵を授かるために、おせち料理を年神様と共にいただくという意味があります。ちなみに、祝い箸は、大晦日に家長が家族の名前を箸袋に記入し、箸を入れて神棚に供えておくという習わしがあります。そして、それを元旦から松の内(1月7日) までは同じ箸を使うのがいいとされています。

和食器で食べる給食出典: Savor Japan

陶器文化が育んだ多様性を受け入れる寛容さ

日本の食卓に並ぶのは、磁気のお皿やガラスの器、漆器の汁椀、一人ひとりの食べる量に合ったご飯茶碗、一人ひとりの手の大きさに合ったお箸など。さまざまな素材、形、大きさの食器類が一つのお膳の上に並んでいます。また、ご飯茶碗やお箸は、「お父さん用」「お母さん用」「子ども用」というように、個人に対して専用のものが決まっていることがほとんど。日本人であれば当たり前のことで、なんの疑問も持たないこの習慣も、実は、とても〝日本らしい〟ことなのだと、三信化工株式会社のアドバイザーとして活躍する海老原誠治さんは言います。

「日本は長い間、もともと土で器を作る陶器文化でした。陶器は、人の手によって形が造られますから、まったく同じものを作ることの方が非常に難しいんですね。どうしても、少しずつ違うものができてしまう。そういう文化の中に長くいたからこそ、日本人の中には〝多様性〟が育まれ、いろいろなものが共にある、ということが当たり前になっていったと考えられます」

和食器(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

また、一人ひとりに合った器を使うという文化は、箸を使って食べる文化が大きく関わっています。かつては、板の間やちゃぶ台などの低い位置に器を置いていたため、汁物をお箸で食べるには、器を手に持つ必要がありました。そのため器やお箸は身体のサイズ、手のサイズに合ったものを使う、というのが定着したようなのです。

金継ぎ(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

日本の歴史の中で育まれた〝多様性〟は、「繕い」の文化も発展させてきました。器における「繕い」には、割れてしまったお皿を鎹(かすがい)で繋ぎ合わせたり、欠けてしまったところを漆で継ぎ、金で上化粧をして直す「金継ぎ」、似ている素材を組み合わせて継ぐ「共継ぎ」、まったく異なる素材を組み合わせて継ぐ「呼び継ぎ」など、さまざまな手法が存在します。

漆と金で繕われた抹茶茶碗(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

鎹(かすがい)(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

鎹(かすがい)(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

金継ぎを施したお猪口(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

江戸時代になると、ある種の傷とも言える継いだ部分を、ひとつの経験として受け入れ、「景色」と呼んでそこに美を見出すという文化が生まれました。これは、ものを大事にするという気持ちと共に、傷もオリジナリティとして愛する美意識とさまざまなものを受け入れる大らかさという、日本人の中に育まれた性質を非常によく表れているひとつの例ではないかと思います。

松葉模様のお椀(2019)出典: SANSHIN KAKO Co,. Ltd.

今にも息づく日本の食器文化は、ひとつ一つ紐解いてゆくと、そこには一緒に食事をする人やもてなす相手への思いやりと、楽しくポジティブに捉えようとする生きる力、そして、何気ないものにもそれぞれの美しさを感じる感性の豊かさを感じずにはいられません。ぜひ、和食の料理屋さんに行く機会があれば、その器にも注目してみるとより、食の日本らしさを感じることができるかもしれません。

提供: ストーリー

協力:
三信化工株式会社
チーフアドバイザー 海老原誠治氏
SAVOR JAPAN

写真:中垣 美沙
執筆:内海 織加
編集:林田 沙織
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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