清水白桃(2020-07)農林水産省
「清水白桃」は、豊富な日本の桃の中でも最高級の品種で、1玉5000円以上の値がつくことも。この桃が作られるのが、瀬戸内海に面した日本有数の果物の産地・岡山県。この「フルーツ王国」で進化を続ける、桃のストーリーを追いかけましょう。
桃の花(2020-07)農林水産省
日本での桃の歴史
桃の原産は中国と言われ、彼の地では邪気を払い不老長寿をもたらす果物とされています。日本での桃の歴史も古く、最古の歴史書とされる「古事記」(712年編纂)には、国作りの神であるイザナギノミコトが、桃の実を投げて鬼女を退けた逸話が記されています。
古来、日本で育つ桃は、その多くが花を愛でるため。古い日本の和歌にも、桃の花を歌ったものが多く見つかります。果実としての桃が一般的になったのは、江戸時代の後半頃から。それでも、当時の桃の実は硬く酸味も渋みも強く、食べられるものではありませんでした。
桃の摘蕾(2020-07)農林水産省
岡山で生まれた白桃
では、現代のような甘くジューシーな桃はどのように生まれたのでしょうか? 誕生の舞台は岡山県。1875年に中国から日本に、優良品種「天津水蜜」「上海水蜜」が持ち込まれたことから、岡山での栽培が盛んになりました。
倉敷美観地区(2020-07)農林水産省
日本の桃栽培の転機となったのが甘く柔らかな桃「白桃」です。岡山県の果樹栽培研究者である大久保重五郎によって、上海水蜜の果実を元に、明治32年(1899年)に育成された「白桃」は、その濃厚な甘みと色彩の見事さが日本中で評判に。白桃を元に様々な桃の品種が岡山から生まれました。
第二次世界大戦中は「果物は贅沢品」として、岡山の桃の樹も多くが伐採されるなど不遇の時代もありました。しかし終戦後は逆に果物は憧れの対象となり、戦後の復興の中で岡山の桃は再び人気を集めたのです。
清水白桃(2020-07)農林水産省
「究極の桃」、清水白桃
岡山の桃の中でも、最も高級な品種と言われるのが「清水白桃」。昭和7年に岡山で発見された品種で、その甘みと香り、柔らかさから評判を呼び、「究極の桃」として5玉で3万円という高値で販売されたことも。
清水白桃の石碑(2020-07)農林水産省
贈答品としての果物文化
清水白桃が人気なのは、収穫時期もひとつの理由。桃の収穫期間は果物の中でも短く、1品種につき1年のうちたった10日前後だけ。そして清水白桃の収穫時期である7月下旬〜8月上旬には、日本の贈答の風習「お中元」があるのです。
お中元とは、夏の時期に贈り物をする古くから日本に伝わる風習。果物を贈答品にする文化は、江戸時代にはすでにあったと言われ、当時、果物は「水菓子」と呼ばれ、特別なデザート。長い間、果物は日本人にとってハレの日の贅沢品でした。高級な嗜好品として歴史もあり、今も桐箱に入れられた高級な果物が贈り物として人気です。お中元の時期に旬を迎える清水白桃は、贈答用の高級フルーツとして求められたのです。
桃の実(2020-07)農林水産省
フルーツ王国・岡山のパフェ文化
岡山では新たなフルーツの楽しみ方も生まれています。岡山は1年を通して果物が収穫されるフルーツ王国。その魅力を提案しようと、2009年から岡山市を中心に「フルーツパフェの街おかやま」という取り組みが続いています。岡山駅そばのホテルグランヴィア岡山にある「ルミエール」では、季節ごとにメ、メロン、マスカット、桃、イチゴ、柿など、岡山産フルーツのパフェを提供しています。
「ルミエール」のパティシエ光畑さん(2020-07)農林水産省
中でも白桃のパフェは人気メニューのひとつ。「桃を美味しく召し上がっていただくために考案したパフェです」と語るのは同店の光畑滋充シェフ。
「フレッシュな桃の果肉を中心に、レアチーズクリームや紅茶のジュレ、ソルベなどで構成しています。私たちのパフェは、生のフルーツをより美味しくいただくデザート、という考え方で作っています。岡山の桃は種類が豊富で、時期ごとに入る美味しい品種を使っています。中でも清水白桃は繊細な甘みと香りが素晴らしいですね」(2020年の桃のパフェは2020年7月頃販売)
室山さん(2020-07)農林水産省
壊れるほど繊細
「清水白桃」は、どのように育つのでしょう。岡山県果樹研究会の会長を務める室山浩二郎さんは「清水白桃は特にデリケートで栽培が難しい品種」と語ります。
「ここまで柔らかい桃は、おそらく他にないでしょうね。とても繊細で、栽培中に実が落下したり割れることも多く、栽培には高い技術が必要です。デリケートなので、傷や病気から守るために、1つずつ手作業で袋をかけて育てています。収穫時も、果実を重ねると実が崩れてしまうほど柔らかいので、手で1玉1玉並べるんです」
デリケートな清水白桃は長期輸送も難しく、安定的に国外へ運ぶのも困難な現状だと言います。そのため、海外からのリクエストは絶えないものの、ほぼ日本でしか食べられない桃なのです。
白桃の選別の様子(2020-07)農林水産省
人間の都合より、木の都合
清水白桃は甘さと外観を基準に4つのランクに分けられます。最も上等なのが「ロイヤル」と呼ばれる糖度12度以上のもの。糖度11度以上の「キング」、糖度10度以上の「エース」と続き、その他に加工用として使われるランクがあります。最高ランクのロイヤルの割合はいい年だと50%ほど、年によっては10%程度のことも。
桃の畑(2020-07)農林水産省
「気候によって桃の出来は大きく変わりますし、人の力ではどうしようもないことも大きいですから」と室山さん。美味しい桃を育てる極意を聞くと、「人間の都合を優先しないこと」だと言います。
「たくさん剪定すれば、収穫は楽です。しかし、そうすると木は、切られた枝を復活させようとして、実に養分を集中できなくなります。だから、私たちは過度な剪定をせずに育てるんです。山に自生する木を見れば、肥料なしに育ち、やがて葉を落とし、果実に養分を集中させます。桃の木も自然に近い状態を再現すれば、余計な枝を伸ばさず、美味しい実をつけられる。生産性や作業効率より、桃の木の“こう伸びたい”という意志を助けることが大切です」
桃の花(2020-07)農林水産省
室山さんはこうした自然に即した桃の栽培法を県内でもいち早く始め、今では地元である倉敷の浅原地区(あさばら)を中心に、岡山県全域へと広がっています。
岡山産メロンのパフェ(2020-07)農林水産省
「私が小さな頃、祖母がたまに桃を丸ごと食べさせてくれたんです。そのときに、まず裸になれというんですよ。果汁で服がべたべたになってしまうから。岡山の桃は、それくらい水分が豊富なんです」
100年以上続く努力で美味しさを育む「清水白桃」。現在も研究の中で、岡山の桃の品種は増えています。この地の桃はこれからも進化を続けるはずです。
協力:
フルーツパフェの街おかやま
ルミエール
編集・執筆:山若 マサヤ
制作:Skyrocket 株式会社