フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』の魅力

Editorial Feature

作成: Google Arts & Culture

Vermeer's Girl with a Pearl Earring at the MauritshuisMauritshuis

小説家トレイシー シュヴァリエがこの作品に魅力を感じて本を書いた経緯を語ります

1999 年、米国の小説家トレイシー シュヴァリエは、フェルメールの最も有名な作品に触発されて書いた絵画と同名の小説『真珠の耳飾りの少女』を出版しました。17 世紀のオランダのデルフトを舞台として、シュヴァリエは、絵画の少女や作品自体について、フェルメールの架空の物語を書いています。

出版以降シュヴァリエの小説は世界中で 500 万部以上を売り上げており、このフェルメールの作品に対して人々が高い関心を寄せていることがわかります。ここでは、19 歳の頃から『真珠の耳飾りの少女』に魅了されている理由と、そのことが本を書くインスピレーションにつながった理由について、本人に語ってもらいます。

ヨハネス フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』は、なぜこれほどまでに人気のある作品なのでしょうか。「北のモナリザ」とも呼ばれるこの絵画は、レオナルド ダ ヴィンチの傑作『モナリザ』と並んで称賛を受けています。この絵は多くの芸術関連の書籍で表紙に使われており、また、クッション、コースター、T シャツ、バッグ、靴下、スーツケースなどでも使われています。インターネットには少女の画像があふれており、現代風にアレンジされているものもあります。たとえば、バイクの後部座席に乗っているもの(運転手はヴァン ゴッホ)や、漫画のキャラクターになって自撮りしているものなどもあります。バンクシーは、耳飾りの部分に警報器を使ったこの絵の落書きをブリストルの壁に残しました。

Vermeer's Girl with a Pearl Earring hanging at the Mauritshuis (From the collection of Mauritshuis)

この絵は、常に象徴的であったというわけではありません。フェルメールが 1665~1666 年にこの絵を誰のために描いたのかはわかっていませんが、彼のパトロンのコレクションに加わり、義理の息子によって売却され、200 年後に再評価されるまで忘れ去られていました。収集家が 2 ギルダー(1 ドル弱)で購入し、きれいに清掃したところ、フェルメールの作品であることがわかったのです。そしてこの収集家が 1902 年に死去した際に、ハーグのマウリッツハイス美術館に寄贈されました。現在はもちろん価格を付けられず、ウリッツハイス美術館がこの絵を売却することもないでしょう。実際に 2004 年に公開販売された最後のフェルメール作品は 3,000 万ドルで売却されていますが、『真珠の耳飾りの少女』にはそれを上回る価値があります。

19 歳のときに姉の部屋でポスターを見たのが最初で、そのとりこになってしまったので、いつも彼女を見ることができるように自分でコピーを購入しました。それ以来どこに移り住んでも、ポスターはいつも持っていきました。この絵をそんなに見る必要があったのでしょうか。何度も見たくなる理由は何なのでしょうか。

『真珠の耳飾りの少女』には、とても魅力的だと感じる 3 つの性質があると思います。第一に、非常に美しいのです。黒い背景に映える印象的な青と黄色のターバン、控えめな筆使いで描かれた真珠、艶やかな肌に当たる光と影を巧みに捉えた様子、潤んだ目、それらすべてがこの作品の崇高な美しさを形作っています。

真珠の耳飾りの少女(c. 1665 (digitized by Madpixel)) - 作者: ヨハネス・フェルメールMauritshuis

Girl with a Pearl Earring y Johannes Vermeer (From the collection of Mauritshuis, digitized by Madpixel)

しかし、美しさだけでは『真珠の耳飾りの少女』が長きにわたって愛される本当の理由にはなりません。30 年以上この絵を見ていても、まだ飽きません。一体なぜなのでしょう。

2 番目の魅惑的な特徴は、少女が身近に見えるということです。少女が誰なのかはわかりませんが、親密さを持った目でこちらを見ているので、彼女が知り合いのような気がしてきます。この目つきから、見る側も彼女のことを知っていると勘違いしてしまうのです。自分の娘や友人、隣の子に似ていると教えてくれた読者もいます。少女のように着飾った女性の写真をオンライン上で見てきました。私がその少女に似ているから、この絵についての本を書いたのだろうと言われたこともあります。

しかし、私たちには髪の色や目の色といった基本的な少女の見た目さえもわからないのです。こちらを向いている彼女の顔は一部だけのため、実際の形をしっかりと見ることはできません。少女の鼻梁のラインは頬の中に消えていきます。そのため、鼻が幅広いのか高いのか、あるいは丸いのかもわかりません。その見た目は具体的ではなく普遍的です。実際には、この絵は特定の人物の肖像画ではなく、「兵士」や「ミュージシャン」のような一定の「タイプ」を描いたオランダ語で「トロニー」と呼ばれるもので、ここでは「若くて美しい女性」が描かれています。

Model in Frances Denney, Vogue(1945-08-01) - 作者: Erwin BlumenfeldCondé Nast Archive

Model in Frances Denney mimicking Vermeer's Girl, Vogue (From the collection of Condé Nast Archive)

そしてこのことは、絵の持つ 3 番目の最も強烈な魅力となる「謎」につながります。この少女が誰か、そして何を考えているのかは誰にもわかりません。そう、私たちはフェルメールについてほとんど何も知らないのです。フェルメールは終生オランダの町デルフトで暮らしました。おそらく改宗してカトリックの女性と結婚し、義母の家に住んで、11 人の子供を授かりました。負債を負ったのは一度だけではありません。画家だけでなく美術商も営んでいましたが、作品のこと以外でフェルメールについて知られているのはその程度です。

フェルメールは、わかっている限りでは 36 点の絵を制作しています。多くの作品で、牛乳を注いだり、手紙を書いたり、リュートを演奏したりする女性を描いています。これらの女性が誰であるかはわかりませんが、家族の誰かである可能性もあるとされています。つまり、『真珠の耳飾りの少女』と画家の関係も私たちにはわからないのです。

Interior of a 17th Century Style Contemporary Room, Vogue(1959-08-15) - 作者: Horst P. HorstCondé Nast Archive

Interior of a 17th Century Style conteporary room with reproduction of Vermeer's Girl, Vogue (From the collection of Condé Nast Archive)

少女の表情はうれしそうにも見えますが、曖昧です。彼女は幸せなのでしょうか、悲しんでいるのでしょうか。私たちに見つめられたくないのでしょうか、あるいは見てもらいたいと思っているのでしょうか。そしてなにより、「私たち」とは一体誰なのでしょうか。この絵を観察して数年間、ある日唐突に気が付きました。少女は私を見ていませんでした。私は彼女の視線の先にいなかったのですから。彼女の目は、好奇心で丸くなっているようです。フェルメールは少女にこの表情をさせるために、何をしたのでしょうか。そういった好奇心が、絵画についての小説を書くきっかけとなりました。少女のまなざしの謎を解明したかったのです。私にとっての『真珠の耳飾りの少女』は、普遍的なトロニーでも特定の人物の肖像でもなく、関係性を描いた肖像画なのです。

作品自体からは、人々を惹きつける描写の美しさや、人々を満足させる親しみが感じられます。しかし、見つからない答えを求めて私たちが何度もこの絵を見返してしまう理由は、結局「謎」にあるのです。

美しさ、親しみ、謎は、『真珠の耳飾りの少女』の本質であり、この作品を象徴的な傑作としているものです。この絵は、最後から 2 番目の和音で終わる歌のようなものです。最後の和音が奏でられて絵画が完成し、謎が解き明かされ、少女を 1 人にすることができることを願いつつ、私たちは惹きつけられてこの絵を再び見てしまうのです。

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