絵画芸術(1666/1668) - 作者: ヤン フェルメールKunsthistorisches Museum Wien

片側に引き寄せられたカーテンの後ろから眺める格好で、

女性を絵画作品の中で永遠のものとして仕上げている画家が描かれています。『絵画芸術』と呼ばれる本作品は、1676 年にフェルメールの妻カタリーナ ボルネスが夫の死の直後に母親マーリア ティンスに譲渡して、債権者の手に渡ることを防いだとされています。この絵は、単にアトリエの画家を描写したものなのでしょうか。あるいはより深い意味を持つメッセージが込められたものなのでしょうか。

さまざまな意見がありますが、この絵画は一般的に、寓意画(アイデアや抽象的な概念を象徴的に表現した絵画)と見なされています。本作品においてフェルメールが伝えたいことを特定することは残念ながらできませんが、自らが持つあらゆる技能を惜しげもなく発揮していることは明らかで、光の描出、素材の描写、そして奥行きの処理、すべてが際立っています。

この絵画の質の高さは、1940 年にヤロミール チェルニン伯爵から作品を購入したアドルフ ヒトラーの注意を引き、当時リンツに建設を予定していた美術館に収蔵しようとしていたという経緯があります(実際には実現せず)。1946 年、第二次世界大戦の終結を経て、本作品は美術史美術館のコレクションに加えられました。

画家
こちらに背を向けて、目の前に置かれたイーゼルに絵を描いているこの男性は誰でしょうか。フェルメール自身だと考えたくなりますが、この絵の場合、確実にそうであるとは言い切れるヒントは描かれていません。

男性は優雅で高価そうな服を着ています。17 世紀半ば、このような服装は上流階級の人々が特別な機会に着用するものでした。画家が身に付けている服装によって、上流階級であることがわかります。

モデル
モデルの若い女性が、神話に登場する歴史の女神クレイオーになりきっています。このことは、女性の特徴から見て取れます。

手にする本は歴史を表し、

ラッパは名声を表し、

月桂冠は名誉と栄光を表しています。

こうした象徴は、イタリアの図像学者チェーザレ リーパが著した『イコノロギア』という寓意画集によって、17 世紀の当時の人々によく知られていたものでした。オランダ語訳が 1644 年に出版されると、画家たちの間で図像学の参考書として広く受け入れられました。


17 世紀には、歴史的絵画(神話あるいは聖書の逸話、文学を起源とする物語、比較的近い過去またはより遠い過去の歴史的事象を描写した作品)が、絵画において最も崇高な題材だとみなされていました。絵の中であらゆる種類のものや素材を本物のように描写するため、画家たちには優れた技術が求められ、同時にこうした物語に関する詳細な知識を備えている必要もありました。クレイオーの存在は、より広い意味での歴史が画家の創造性の重要な源であることを示しているのでしょうか。または、成功した画家は世の中に認められ、歴史に名を残すということを示しているのでしょうか。

画家のイーゼル
キャンバスは画家の体に隠れてほとんど見えませんが、クレイオーの月桂冠を描いていることがわかります。

腕の下には、全体の構成を下書きした白い線が見えます。

小さなキャンバスの中に女性の全身を描くことはできず、また象徴であるトランペットが収まる十分なスペースもありません。しかし、他の部分の描写を進める前に、絵の中のある特定の部分だけを大まかに仕上げておくという手法は珍しくありませんでした。

ネーデルラント 17 州
壁にある地図に描かれているのは、スペイン人国王が支配するハプスブルク領オランダの別名である「ネーデルラント 17 州」です。また、地図の左右の両端には、主要都市の景観が縦に並んでいます。地図はしばしば、成功した芸術家が自らの活動地である都市や国に名声をもたらしたという概念を示すものと考えられてきました。フェルメールは、1636 年にクラース ヤンス フィッセルが作成した実在の地図を描いています。

北部と南部
フェルメールの時代には、作品内の地図の状況が地理的にも政治的にも大きく変化しました。「ネーデルラント 17 州」は、北部の 7 地方がスペイン人国家から独立を宣言した 1581 年に消滅しました。またこのことが 1648 年のネーデルラント連邦共和国の承認へとつながり、八十年戦争は終結を迎えました。作品内の地図では、中央にはっきりついた折り目によって北部と南部の隔絶が強調されており、旧来の状況への回帰を望むものだと解釈されることもあります。また、フェルメールはこの地図によって、北部の州だけではなくオランダ国内全体における絵画の長い伝統を強調し、称賛しているのだと捉える意見もあります。

シャンデリア
「光の魔術師」と呼ばれるフェルメールが極めた絵画における光の描写は、驚くほど自然です。シャンデリアにあたって反射する光は、まるで本物を見ているようです。

ハイライトの部分には黄鉛色の塗料を使用し、絵の具を厚く重ねる「インパスト」という技法を用いています。

シャンデリアは 17 世紀後半の絵画においてよく描かれましたが、実際にはあまり一般的なものではありませんでした。教会や政府の建物で多く利用されてはいたものの、芸術家の画廊はもちろん、一般の家庭ではめったに用いませんでした。

ラグ
ラグがカーテンのように一方に引き寄せられており、後ろの空間が見えるような配置になっています。これにより作品が劇場の舞台を見ているような雰囲気を帯び、まるで慎重に構成されたワンシーンを見ているかのような印象を受けます。ラグは絵画の構成要素としても機能しています。手前に大きく暗いもの(ルプソワール)をはっきりと描くことで、他のものが画面の背景に配置されているように見え、絵の奥行きを感じさせます。

遠近法
フェルメールは遠近法の理論を熟知しており、絵画の中でこの技法を正確に用いています。『絵画芸術』において、消失点はモデルの手と地図掛けの装飾の間にあります。フェルメールがキャンバスにピンを刺した痕跡が、塗料の層の下部に小さな穴として残っています。ピンに長い紐を結び付け、弦のように張ってチョークを擦り付けました。その紐の端を他の位置に移動させ、ピンと張り伸ばしてからキャンバスに当てることで、消失点を通る複数の直線をつけていたのです。ピンでついた穴は、フェルメールの作品でよく見つかります。

署名
フェルメールは「I.Ver-Meer」という署名を本作品に残しています。他の作品に見られるものよりも詳細な署名で、この絵と『地理学者』にしか残されていません。「I」は、ファースト ネームの「ヨハネス」を表しています。フェルメールが他の多くの作品において使用したのは、「IVMeer」などの簡略したものです。署名は女性が着る青いローブの右側、地図の左下部分に描かれています。

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この展示は、Google フェルメール プロジェクトの一環です。

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