とんぶりという食べ物を知っていますか? 美しく輝くグリーンの粒は爽やかな香りを放ち、ぷちぷちとした楽しい食感が特徴で、別名は「畑のキャビア」。日本でも有数の澄んだ水の郷、秋田県・大舘市の清流がつくるソウルフードは、今や東京の高級料亭でも多く扱われています。平安時代初期に伝来し、昔は漢方薬として使われていたことも。その高い栄養素は話題の健康食「キヌア」と同程度と、味だけでなく美肌効果も自慢! そう、日本には1000年以上前からスーパーフードがあったのです。
とんぶりって一体なに?
この緑の粒の正体は、アカザ科ホウキギ属の一年草、ホウキギ。箒の原料となる植物です。その成熟果実の皮をむき、丹念に洗い加工したのがとんぶりです。そのまま食べるだけで、食物繊維や脂質の代謝を促進するサポニン、ビタミン、ミネラルと豊富な栄養素が一度に摂取できる現代人にとって頼れる存在。
とんぶりを作るもの① 大舘の人々
今発売されているとんぶりは、秋田県大舘市産のみ。もともとは農家が自分たちの家だけで消費することがほとんどでしたが、昭和50年以降から商品化されるようになりました。今回お邪魔したとんぶり工場の本間均さん(右)、「加工が難しく生産量自体はピークから減っていますが、最近はメディアからの注目も多くなってきました」と話します。
とんぶりを作るもの② 美しい清流
本間さんの工場の横には、透き通る水が悠々と流れるさい川。とんぶり作りはすすぎで大量の清水が必要になるので、水が綺麗な場所でしか行えません。3月下旬にも雪が降り、肥沃な森林が水をためる秋田県はまさに最適の場所。「ミネラルウォーターのカプセル」と称されるほど、とんぶりは美しい水をその実の中に抱えているのです。
一年にわたって恩恵をもたらす、大舘の自然
<写真差し替え*>農業はどこであっても厳しいものですが、雪深い秋田県ではさらに厳しさは増します。とんぶりは4月下旬に種まきし夏を経て、収穫は雪が降り始める前の9~10月上旬。雪が降り外での作業ができなくなる冬に、農家たちは室内でとんぶりを加工し、一年を有効に使っていました。確立された生産サイクルは、先人たちの知恵です。
加工前の実から、作り方をご紹介
それでは、作り方をみていきましょう。収穫のあと乾燥機で水分をとばしたホウキギの実は、まだまだ輝くとんぶりとは遠いもの。パサパサしていて、舐めると苦みが。
作り方① ボイルする
中国で「ぢふし」と呼ばれるホウキギの実を、釜で30分ほどかけて煮ていきます。吹きこぼれないようにかき混ぜ続けるのは一苦労。
とんぶり加工で何度も繰り返されるのが、美しい水で不純物を流す作業。冬の寒さも手伝い、茹でたあとの湯からたくさんの湯気があがります。腰を使う作業なので、体力をとても使うそう。
作り方② 機械で皮むきをする
表面を包んでいる、濃い皮をむく作業です。「企業秘密」と本間さんが笑う機械が導入されたのは、昭和50年以降。実を潰さずに皮だけ取り除く繊細な機械は、先端のみ撮影可能とのこと。丁寧に磨かれた機械に、長い歴史を感じます。
工程を説明してくれる、茶目っ気たっぷりな本間さん。とんぶりは小さい頃から慣れ親しんできた味だと言います。「とんぶりが苦手とする風をブロックし、守っているのがこの地域の山々。同じ地方のなかでも、育てる作物によって適材適所がありますね」
作り方③ 水洗いを繰り返す
薄い皮を除くために、丁寧にもみ洗いを行います。ここでも大量に使用されるのが、地下から汲み上げているというさい川の澄んだ水。冬の水作業はつらくないかと尋ねると、「意外かもしれませんが、1月など寒さが厳しいときはむしろ水の方が暖かい。3月頃が、一番水が冷たく感じますね」との答えが。
作り方④ ザルを使ってさらに水洗いを繰り返す
異物をより取り除くため、実を動かし異物を浮かせていきます。目視で確認し場所を移動しながら、ザルをリズミカルに動かします。黒かった水のなかが、だんだんと緑に変化していく瞬間です。
ザル洗いは小気味よく行われるため、水面にも美しい模様が。規則正しくふるいをかければ、波も綺麗に姿を見せます。流れ揺れる水の音が、静かに工場に響いていました。
作り方⑤ 水切り
十分に綺麗になったら、8時間ほど石の重しを置き水分を取っていきます。小さなとんぶりが、潰されてしまわないかという心配はご無用。たくさん集めアミ袋に入れれば、粒を傷つけることがありません。
作り方⑥ 赤み取り
この時点ではほとんどなくなっている、異物をさらに取り除いていきます。網目の違うふるい機にかけることで、赤み(未完成品)は下に落ちる構造。さらに、人の目で厳しくチェック。機械では取り切れない細かい枝などを、ピンセットで除いていきます。
出来上がり! さっそく召し上がれ
秋田自慢のお米、「あきたこまち」と抜群の相性。とんぶりのプチプチ感と、お米のまろやかさが絶妙です。「もっといっぺんかけれ」と、本間さんが秋田弁でおかわりを勧めてくれます。ちなみに本間さんのお気に入りは、納豆と混ぜて食べることだそう。
他食材の味を邪魔しないとんぶりは、和えても混ぜても散らしてもOK。左上から順番に、たまご焼き、ツナとミックスしたもの、そして蟹のサラダ。お礼を言うと、ここでも「なんもなんも(どうってことない、という意味)」と、柔らかな秋田弁と笑顔が返ってきます。
秋田の味を、自宅でも
おすすめは10~3月の旬のときでしか味わえない、「生とんぶり」。2週間しか保存がききませんが、地元の人にとってとんぶりは生で食べるものだそう。そのほか真空パックは2ヶ月、ビン詰めは半年間日持ちします。美味しくて健康にもいいスーパーフード、とんぶりをライフスタイルにあわせて生活に取り入れてみては?
協力:
日内とんぶり生産部会
JAあきた北
一般社団法人 秋田犬ツーリズム
SAVOR JAPAN
写真:中垣 美沙
執筆:大司 麻紀子
編集:林田 沙織
制作:Skyrocket 株式会社