“世界一”の美しい柚子 その奥深い魅力

和食に欠かせない名脇役が「柚子」。世界中で注目の高まるこの柑橘の魅力をご紹介します。

柚子の収穫(2020-07)農林水産省

季節によりさまざまな柑橘が楽しめる日本。中でも冬を想起させる柑橘といえば「柚子」。お酢の代わりに果汁を絞ったり、香りづけに皮を散らしたり。味噌やポン酢などの加工品も豊富。日本の冬の味覚に彩りを添える、和食に欠かせない柑橘・柚子の世界を覗きましょう。

物部の風景(2020-07)農林水産省

世界一の柚子産地・物部

柚子は、日本中で古くから親しまれる豊かな酸味と独特の香りを持つ冬の柑橘。現在もさまざまな地域で、家々の庭先に柚子の樹が植えられています。「世界一予約が取れないレストラン」と呼ばれた、スペインの「エル・ブジ」の料理長が紹介したこともあり、柚子という食材は近年、日本国外のシェフたちからも注目を集めています。

柚子の収穫(2020-07)農林水産省

柚子は生産量・消費量ともに日本が世界一。そして日本国内の半数以上が四国にある高知県で生産されています。中でも果実のまま出荷される「玉ゆず(たまゆず)」の生産量第一位を誇るのが、高知県の北東部に位置する、人口2000人足らずの山間のエリア「物部(ものべ)地区」。物部の柚子は「味も香りもよく、見た目も美しく棚持ちがいい」と名高く、まさに世界一の柚子の名産地です。

柚子畑(2020-07)農林水産省

米の代わりに柚子を育てる

物部で柚子の出荷が始まったのは1960年代頃。ですが、地域の歴史に詳しく、高知県で柚子栽培の指導を担当している廣瀬拓也さんは、「家庭ではもっと昔から柚子を作っていたようです」と語ります。

「物部は山に囲まれた急斜面の土地が多く、平地が少ないんです。そのため田を作るのが難しく、主食である米の生産量が限られていました。当然、米を原料にするお酢の生産も難しかったんです。そこで各家庭で柚子を育てて、その果汁をお酢として使う文化が古くからあったと聞いています。現在も、物部では、よく家の庭に古い柚子の大木が植えられていますよ」

かつては養蚕が盛んだった物部ですが、時代とともに養蚕業が衰退していくと、空いた農地で産業としての柚子栽培が広がっていきました。そして、国内有数の柚子の産地になっていったのです。

宗石さん(2020-07)農林水産省

最高ランクのゆずは2%

物部の柚子生産部会の副部長を務める宗石正志さんは、物部の柚子に魅せられ、介護の仕事から柚子農家へと転職した経歴の持ち主。初めて物部の柚子に出会ったときの衝撃をこう語ります。

「柚子農家の知人の手伝いで、収穫に参加する機会があったんです。そのとき、物部の柚子を初めて知ったのですが、驚きました。まずその美しさ。凹凸がなく、艶々と輝いて。香りも素晴らしくて、これはすごい果物だと。それまで僕が食べていた柚子とは全然違いました。夢中になりましたよ。翌年には、仕事を辞めて柚子農家に転身していましたから」

柚子の選別(2020-07)農林水産省

柚子の選別(2020-07)農林水産省

味や香りとともに、その美しさも物部の柚子の自慢。ポン酢や味噌、ジュースなどに加工される柚子が多い中、物部は果実のまま出荷することにこだわっています。果実で出荷するには、綺麗な見た目も重要です。

「物部は昼夜の温度差が大きな傾斜地。これは柚子栽培に適した条件です。しかし、それだけではいい柚子は作れません。収穫のピークは10月から11月ですが、収穫後から春にかけての剪定も勝負どき。柚子は傷がつきやすいので、細やかな手入れが大切です。草とりや虫の対策など、1年通してつきっきり。そうして手塩にかけた柚子の中でも、最高ランクのものはうちの農園でも2%ほどです」と宗石さん。

物部の柚子(2020-07)農林水産省

最高ランクに選ばれるための基準は細かく、色合いが美しく統一され、表面がほぼ無傷のもの。凹凸の少ない滑らかなフォルムであり、果皮に黒点が1つたりともないことも求められます。和食において、柚子には彩りの美しさも求められるからです。

「私はほぼ毎日畑に入って作業をしていますが、楽しくて仕方ないんです。手をかけるだけクオリティが上がるので、本当にやりがいがある。物部には70代や80代の生産者の先輩も多いのですが、みなさん職人気質。強いこだわりを持って、作品を作るように育てている方が多く刺激になります。いかにいいものを作れるか、生産者どうして競い合っているんですよ」

柚子の佃煮(2020-07)農林水産省

高知の柚子料理

こうした作り手のたゆまぬ努力を経た物部の柚子は、市場を経て日本中のレストランや家庭の食卓へ届けられます。物部で生まれ育ち、地域の料理自慢で知られる小松梨恵さんに、物部に伝わる柚子料理について聞いてみます。

柚子の収穫(2020-07)農林水産省

「私たちは、酢といえば柚子果汁のことを指しますね。お寿司や酢の物には、主にこの柚子果汁の『酢」を使います。お刺身や焼き魚に少しかけたり、焼酎で割ったりと多様な楽しみ方があります。このあたりでは、柚子は毎日使う万能調味料です。柚子の皮は冷凍しておけば1年通して使えますから。お菓子にしたり、佃煮も美味しいですよ。佃煮は、柚子の皮と鰹節を、醤油と砂糖で甘辛く煮込むんです。半日くらいつきっきりで手間がかかりますが、たくさん煮込んで作り置きします。各家庭ごとにレシピが違って面白いですね。あとは、柚子の身をくりぬいて、皮を器にすることもあります。酢の物を盛り付けたり、柚子ゼリーを流し込んだりして、客さまのおもてなしを楽しんでいます。果汁に水と蜂蜜と砂糖を加えて煮込めば柚子ジュースになりますし、焼酎で割っても美味しいですね」

五目寿司(2020-07)農林水産省

郷土料理「五目ずし」の作り方

小松さんが特に好きな柚子料理が、「五目ずし」。人が集まって食事をする際には必ずといっていいほど作られる、物部地区に伝わる郷土料理です。

「基本の具材は人参、しいたけ、ゴボウ。他にタケノコ、フキなど旬の物を加えても季節感が出て美味しいです。具材は細かく切って煮ておきます。ご飯にゴマと細かく刻んだじゃこを混ぜて、柚子の「酢」、砂糖、塩で味を調えてから、具材と合わせて完成です。生姜を刻んで入れてもいいですね」

物部の柚子畑(2020-07)農林水産省

「私たち柚子農家は、毎日お風呂に柚子を浮かべるんです。お肌によく、さわやかな香りでストレスが軽減されるような気がします。きれいな柚子を玄関に飾ったりもしますね。そういえば、子供の頃風邪ひいたとき、母が柚子を煮つめた汁を作って、飲めって言うんです。種ごと煮込むから苦くてねえ。普段は種は使わないんですけど、咳にいいから我慢しなさいって。飽きないですね、柚子って。豆腐や焼き魚にかけても美味しいし、インスタントのお吸い物も柚子の皮を浮かべたら、もう料亭の味です。柚子はね、日本の食卓の名脇役なんですよ」

柚子の収穫(2020-07)農林水産省

提供: ストーリー

協力:
JA高知県
JA高知県香美地区物部柚子生産部会

執筆・編集:山若 マサヤ
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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