レイチェル カーソンが遺したもの

革新的な海洋生物学者であり、環境保護論者であり、世界に多大な影響を与える著述家でもあったレイチェル カーソンは、米国の科学、文学、大衆文化の分野において最も敬愛される人物の一人です。彼女の不朽の遺産として、重要なものをいくつか紹介しましょう。

1951 年、カーソンは海洋生物をテーマとした書籍『われらをめぐる海（The Sea Around Us）』を執筆しました。1 作目の『潮風の下で（Under the Sea Wind）』（1941 年）は専門家の間で高い評価を得ましたが、2 作目となった『われらをめぐる海』は社会に旋風を巻き起こし、カーソンは一躍衆目を集めました。専門的な科学に驚きや美しさを組み合わせたその詩的なスタイルは、海洋生物学に対する一般の人々の意識を変えるうえで大きな役割を果たしました。

人々の意識の変化や科学文献の影響を数値で表すことは困難です。しかし、カーソンが人々の生命に及ぼした数値化可能な影響といえば、彼女が先駆的に取り組んだ農薬の問題でしょう。有害な農薬 DDT の農業への使用禁止は、カーソンの研究による直接的な成果の一つです。農薬を含む環境への懸念について人々の意識を大きく喚起するきっかけとなったのが、カーソンの著書『沈黙の春（Silent Spring）』（1962 年）でした。

『沈黙の春（Silent Spring）』によって世論の流れが一変し、草の根環境団体の設立が相次ぎました。これが最終的に、1970 年のニクソン大統領による米国環境保護庁の設置につながります。それ以来この連邦政府機関が、政府レベルでの環境問題への意識向上に努めています。

カーソンの遺産ともいえるのが、彼女の探求精神、科学への勤勉さ、創造的な考え方を継承するために設けられた数多くの賞や組織です。レイチェル カーソン賞とレイチェル カーソン ブック賞は、環境科学の分野における革新的な研究や著作を称え奨励する賞です。また、漁業が海洋環境に及ぼす影響について研究する Sea Around Us プロジェクトは、ブリティッシュ コロンビア大学内の組織の一つとなっています。

1953 年には、カーソンの著書『われらをめぐる海』を原作としたドキュメンタリー映画が公開され、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しました。しかし、脚本にかなりの不満を抱いたカーソンは、自分の作品の映画権を二度と売り渡さないと心に誓いました。

世界中で敬愛される動物学者サー デイビッド アッテンボローは、ソーシャル サイト Reddit が 2014 年に行った「Ask Me Anything」インタビューで科学の世界を最も大きく変えた書籍を尋ねられ、チャールズ ダーウィンの『種の起源』に次いで 2 番目にカーソンの『沈黙の春』を挙げました。アッテンボロー自身のキャリアがカーソンの影響をどれくらい受けているかははっきりしませんが、通俗科学のあらゆる分野に彼女の恩恵が行き渡っていることは間違いありません。