日本の梅雨を告げる「梅しごと」

美しい四季に恵まれると言われる日本で、5つめの季節とも言えるのが「梅雨」。春と夏のあいだに訪れる、長くおだやかな雨が続く梅雨の季節は、日本の持つ静かな美しさを体感できます。

梅の実(2020-07)農林水産省

漢字で“梅の雨”と書くように、日本が梅雨の時期に入るのは、梅の実がなる頃。5月〜6月にかけて1ヶ月ほどの長雨の季節が訪れます。この頃、各家庭では梅の実を使って、梅酒や梅干しを作りはじめます。「梅しごと」と呼ばれる、日本に古くから伝わる食の営みです。

梅の花(2020-07)農林水産省

梅と日本文化

「梅しごと」について知る前に、日本人と梅の長い歴史を探ってみましょう。現代の日本では、花見といえば桜の花ですが、奈良時代(西暦710〜794年)や平安時代(西暦794〜1185年)には、花とは梅の花を指すのが一般的でした。日本最古の和歌集「万葉集」には、梅を詠んだ句が100首以上あり、これは桜の句よりずっと多い数です。

また、江戸時代に活躍した俳人で松尾芭蕉の弟子でもある服部嵐雪の詠んだ句に「梅一輪 いちりんほどの 暖かさ」というものがあります。寒い冬に咲き始める梅の花を見て、暖かな春の予兆を喜ぶ心が現れた一句です。

春の兆しを告げた梅の花が、やがて実をつける頃。春が終わり、長雨の梅雨に入ります。人々は、昔から梅を眺めて季節の移り変わりを感じていました。

梅干し(2020-07)農林水産省

梅干し1粒で医者いらず

梅を使った食べもので代表的なものが「梅干し」です。梅を塩漬けした保存食で、「1日1粒で医者いらず」と言われるほど、栄養豊富な食べものとして古くから親しまれてきました。梅の実は、食物繊維やカルシウム、ナトリウムなどのミネラルを多く含み、梅干しなどの加工品にすると、殺菌効果のあるクエン酸も豊富になるのです。

栄養豊富な梅のはたらきは、古くから知られていて、西暦984年に書かれた日本最古の医学書「医心方」にも、解毒や疲労回復など、さまざまな梅干の効用が記載されています。また、その高い殺菌効果から、戦国時代(15世紀末から16世紀末頃)には保存食としてだけでなく、傷の消毒や食中毒の予防にも、梅干しは欠かせないものだったと言われます。戦場の武士は梅干しを見てその酸っぱさを思い出し、口に溢れる唾液で喉を潤したという話も。他にも、梅干しにまつわる歴史的な出来事を挙げればきりがありません。それだけ、日本人の生活に欠かせない食べものなのです。

梅酒(2020-07)農林水産省

梅酒

梅の実を砂糖と一緒に漬け込んでつくる果実酒「梅酒」も、古くから作られてきました。今から300年ほど前の江戸時代に書かれた、日本の食べものに関する文献「本朝食鑑」には、すでに梅酒のつくりかたが、鎮咳や解毒といった梅酒の効用とともに記されています。

梅の実(2020-07)農林水産省

また、当時は農家が梅の木を植えて利益を上げることが推奨された背景もあり、梅の栽培や加工販売がより広まったといいます。現在も日本の家庭では庭先に梅の木が植えられた様子はよく見られます。

梅しごと(2020-07)農林水産省

梅しごとの始まり

庭先で収穫した梅で、毎年梅干しや梅酒を作るという三浦美智子さん。島根県の西部の山村「柿の木村」に暮らしています。梅の花が咲くのは2月か3月頃。そして梅雨にさしかかると実の季節。

三浦さん(2020-07)農林水産省

「梅の実を取るのはね、毎年夏至をすぎてから。私はおばあちゃんから、そう教わったんですよ。夏至の11日後の半夏生の頃がいいって言われますけど、実が木から落ちてしまう前に摘んでしまうの」

梅の実(2020-07)農林水産省

梅干しづくり

三浦さんの梅干しは、母や祖母の代から伝わる作り方。梅干し作りは、毎年この時期の楽しみだと言います。

「摘んだ梅は、箱に入れて黄色く熟すまで待つんです。桃みたいにいい匂いがしてくるの。それから一晩水につけてアクを抜いて、よく水気を切って塩漬け。樽に梅と塩をいれて重石をして、梅雨が明けるまで置いておきます。私は梅の重さに対して塩が15%くらい。夏になったら梅を出して、ざるに並べて3日3晩天日干し。干したあとは塩もみした赤紫蘇と一緒に瓶につければいいの。1年くらい浸けておくと味がまろやかになって美味しくなるから、去年漬けておいた梅干しを、梅しごとの頃に食べ始めるの」

梅しごと(2020-07)農林水産省

梅酒づくり

熟した梅の実を使う梅干しに対して、梅酒で使うのは緑色の若い梅の実。

「青い梅の方がエキスが出るみたい。洗って、ヘタから渋みが出るから、ヘタは1つずつ取ってね。フォークで傷をつけておくと、エキスが早く出ていいんですって。あとは密閉瓶に、氷砂糖と梅を入れて、焼酎かホワイトリカーを注いで置いておくだけ。ラム酒で作っても美味しいですよ」

梅シロップ(2020-07)農林水産省

他にも梅を砂糖で煮た「煮梅」や、砂糖と一緒につけて梅シロップと、「梅しごと」の時期は忙しいながら、作ることが楽しいと三浦さんは言います。

梅の実(2020-07)農林水産省

梅の実(2020-07)農林水産省

「梅の時期になると、どこのスーパーでも梅と一緒に梅干し用の瓶とか、梅酒用の角砂糖が並ぶでしょう。でも、このあたりは、家で取れた梅を使う方も多いみたい。小さい頃から、大抵どこの家にも梅の木があってね。親が作るのを見てましたし、梅しごとは昔からずっと。それぞれの家で梅を干すと、いい匂いがして。子どもの頃からあの梅の香りが大好きなんです」

古来から伝わる梅しごと。これからも日本の梅雨の風物詩として受け継がれていくことでしょう。

梅の収穫(2020-07)農林水産省

提供: ストーリー

撮影:七咲友梨
編集・執筆:山若 マサヤ
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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