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川とともにある暮らし 日常にあった川魚料理

四方を囲む山々と、市の中央を流れる荒川の清流。川に平行して走る秩父鉄道を時折、土休日だけ走るという蒸気機関車が汽笛を鳴らしながら過ぎていきます。埼玉県の北西部に位置し、都内から約1時間半という距離にありながら、豊かな自然とのどかな景観を残す秩父地方。秩父山系を通過した湧き水が注ぎ込む渓流は、川魚の釣れる場所としてもよく知られています。こうした美しい川が身近にあり、その恩恵を受けてきた秩父では、現在では贅沢とされる川魚料理も、かつては日常的に食べられていたといいます。荒川には鮎やハヤのほか、上流ではイワナやヤマメが釣れ、塩焼きにしたり、囲炉裏の上に吊るして干したものを甘露煮にしたりして食べたそうです。

秩父市大滝地区 大血川農林水産省

豊かな自然と清流が育む「香魚」の味

この日、荒川で獲れた新鮮な鮎を使った料理を食べられると聞いて訪れたのは、西武秩父駅から徒歩7分の場所に立つ、趣のある一軒家「懐石料理 田舎家」。店主の橋本喜久二さんがご夫婦で営んでおり、川魚や地元の旬の食材を活かした懐石料理を、店主自らが作ったという器で楽しむことができます。

懐石料理 田舎家:鮎ご飯をほぐす(2019)農林水産省

毎年6月1日に解禁となるアユ釣り。縄張り意識の習性を活かし、おとりを使って捕まえる「友釣り」がおこなわれます。春、水温が暖かくなり、河口から遡上してきた鮎は、水量も栄養分も豊富な荒川でコケを食べて3倍近くの大きさに成長します。この時期に獲れるアユは、「若鮎」といって、皮も骨も柔らかく一番美味しい時期。橋本さんは、今では滅多に食べられる機会のないという、生きた天然の鮎を骨ごとお刺身にしてくれ、コリコリとした歯触りと、爽やかな味わいを楽しみました。

懐石料理 田舎家:鮎の背越し(お造り)(2019)農林水産省

秋になると、成熟し、産卵のために川を下ってきた「落ち鮎」を獲ることができます。この頃のアユは黒い色をしているため「錆鮎」ともいわれ、煮浸しや昆布巻きにしてお正月に食べることもあるそうです。

続いて出されたのは、定番の塩焼き、稚鮎の唐揚げ、鮎ご飯。いい香りが広がり、ご飯の上には美しい鮎の身が光っています。添えられたのは鮎の骨酒。こんがりと焼いた鮎に沸騰直前の日本酒を注ぎ込む骨酒は、香ばしい香りやうま味をお酒とともに味わえる一品です。

懐石料理 田舎家:鮎ご飯(2019)農林水産省

懐石料理 田舎家:岩女魚の空揚 熱燗(2019)農林水産省

川魚の魅力はやはり季節限定の楽しみだと橋本さんはいいます。「鮎は1年で寿命を迎えることから『年魚』と呼ばれたり、コケを食べることから青臭い独特の風味をもっているため、『香魚』と呼ばれたりもします」

そのほかに「幻のキノコ」といわれるイワタケや、サワガニ、田んぼの畦に生える山菜・ノカンゾウなども並び、山川の恵みあふれる秩父ならではの旬の味覚に舌鼓を打ちました。

懐石料理 田舎家 店主の橋本喜久二さん(2019)農林水産省

食べる経験は一つの財産
伝え続けたい川魚の魅力


16歳で日本食の世界に入り、東京の銀座や日本橋の料理店で修行を積んだ橋本さんは、26歳で秩父に戻り、懐石料理店を構えました。現在の場所に店を移転してからは約50年。秩父の食材を使った料理、季節に合わせた料理など、お客様の要望に合わせてその日の献立を決め、日に1組限定でもてなしています。「以前は、秩父銘仙の買継商人の方たちが接待や宴会をするためによく利用されたりもしていたんですよ」

懐石料理 田舎家:鮎の塩焼きと枝豆(2019)農林水産省

今、秩父の川魚料理は観光用になっているといいます。川のそばでは「塩焼き」など、のぼりを立ててふるまっている場所はあるものの、秩父の人たちが日常に川魚料理を食べる機会はほとんどありません。近年のダム建設や工事による水質の変化や川鵜の増殖によって川魚の数が減少したことや、友釣り職人の高齢化などが関係しているのではないか、と橋本さんは考えています。物資の流通が良くなったことで、海の魚も安易に安価で手に入るようになったなか、あえて川魚を選ぶ人が減ったということもあるでしょう。

懐石料理 田舎家:炊きたての鮎ご飯(2019)農林水産省

「時代は変化して、今は牛肉が一番の贅沢ですし、魚離れが進んでいますからね」と呟く橋本さんは、一方で「季節を楽しむ料理として川魚料理は伝えていきたい、という思いはあります」と語ります。日本の料理はそもそも土地の風土に合わせて発達してきたもの。季節感や、器や盛り付けの美しさといった「目で楽しむ」ことを重んじます。橋本さんが器を作り始めたのも、そういった日本食の魅力や楽しみをお客様に感じてほしかったから。川魚料理を食べられるような老舗旅館や料理屋も後継者不足によって少なくなってきているという今だからこそ、秩父ならではの食材を使って、日本の食文化を伝えたいと考えています。

おっきりこみ農林水産省

豊かな自然に育まれた
秩父ならではの郷土料理の数々


ここ秩父には、川魚料理以外にも、自然に恵まれた土地ならではの郷土料理が息づいています。中でも山仕事や農作業の合間など、小腹が空いたときに軽い食事やおやつの代わりとして食べられてきた「小昼飯(こじゅうはん)」にはさまざまなものがあり、名物として知られるもので、揚げたじゃがいもに味噌だれをかけた「みそポテト」や、寒い冬に井戸端を囲んで食べたという「おっきりこみうどん」「ずりあげうどん」、秋に獲れたそば粉で作られる「そばまんじゅう」などがあり、どれも古くから親しまれてきた家庭の味です。

みそポテト農林水産省

また、最近話題となっているのは、天然氷や名水を使ったかき氷。冬の寒さが厳しい秩父では、全国でも数少ない製氷業者が昔ながらの技術で氷を作り続けています。ふんわりとした雪のような口どけが特徴で、店によってシロップにも趣向を凝らすところが多いようです。

毘沙門氷 トマト(2019)農林水産省

東京都内から日帰りでも行ける身近な場所にありながら、風土を生かした独自の食文化を残す秩父地方。高齢化や後継者不足といった悩みを抱えながらも、この土地の魅力と味をこれからも伝え続けていくため模索しています。『田舎家』の店主、橋本さんはこう話してくれました「まずは食べてみて。食べる経験は一つの財産になるはずですから」

提供: ストーリー

協力:
懐石料理 田舎家
Moto Green Cafe
秩父地域おもてなし観光公社
SAVOR JAPAN

写真:阿部 裕介(YARD)
執筆:秦 レンナ(exwrite)
編集:林田 沙織
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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