カンヒザクラ上野文化の杜
ソメイヨシノより早く咲く〈早春の桜〉
・ カンヒザクラ(寒緋桜)
・ オオカンザクラ(大寒桜)
・ カワヅザクラ(河津桜)
・ ヨウコウ(陽光)
写真:カンヒザクラ
カンヒザクラ上野文化の杜
早春の桜:カンヒザクラ(寒緋桜)
上野公園にある野生種(日本種)の桜の一つ。中国南部を中心に台湾や沖縄などに分布する。東京では江戸後期から栽培が始まった。エキゾチックな濃紅色の花が艶やかで、開花時期が早いことから、「元日桜」と呼ばれることもある。もともとは暖かい地方で成育する種のため、じつは寒さに弱い。上野公園では不忍池の辯天堂の近く、噴水広場、東京国立博物館正門を入ってすぐの正面などにある。
オオカンザクラ上野文化の杜
早春の桜:オオカンザクラ(大寒桜)
京成上野駅やJR御徒町駅方面から上野公園に入園したとき、真っ先に出迎えてくれる左右にある大木。野生種を元に育成した栽培品種で、カンヒザクラとオオシマザクラの種間雑種と考えられている。10mほどの樹高に大きく広がる樹冠がソメイヨシノとよく似ている。淡紅色の花弁が丸く大きく、先端に切れ込みが多いのが特徴。埼玉県川口市の安行から広まった品種であることから、「安行寒桜」とも呼ばれる。
カワヅザクラ上野文化の杜
早春の桜:カワヅザクラ(河津桜)
栽培品種で、カンヒザクラとオオシマザクラの種間雑種と考えられている。名前の由来は、1950年頃に伊豆半島で見つかった若木が河津町の民家に移植され、淡紅色の大きな花が咲くようになったことから。上野公園では、下町風俗資料館近くの池沿いや五條天神社入り口などにある。
ヨウコウ上野文化の杜
早春の桜:ヨウコウ(陽光)
暑さに強いカンヒザクラと寒さに強いアマギヨシノを交配して育成された栽培品種。愛媛県にある塩製造会社の初代社長、高岡正明が200種類もある桜のなかから交配を続け、25年かけて誕生させた。交配のきっかけは、太平洋戦争で亡くなった教え子たちの鎮魂と世界平和を願うため、全国各地に桜を贈りたいという決意からだった。上野公園では、清水観音堂付近や水上音楽堂の近くにある。
ヤエベニシダレ上野文化の杜
ソメイヨシノと同じ頃に咲く〈春の桜〉
・ ヤエベニシダレ(八重紅枝垂)
・ ソメイヨシノ(染井吉野)
・ アマギヨシノ(天城吉野)
・ ヤマザクラ(山桜)
・ オオシマザクラ(大島桜)・ ベニユタカ(紅豊)
※写真はヤエベニシダレ
ヤエベニシダレ上野文化の杜
春の桜:ヤエベニシダレ(八重紅枝垂)
エドヒガン系の栽培品種。野生種のエドヒガンには枝が枝垂れるものがあり、シダレザクラと呼ばれる。ヤエベニシダレは花弁が15〜20枚ほどあり、花色もやや濃く花にボリュームがあり、人気が高い。上野公園では、清水観音堂や上野東照宮、寛永寺旧本坊表門の近くにある。
ソメイヨシノ上野文化の杜
春の桜:ソメイヨシノ(染井吉野)
エドヒガンとオオシマザクラの種間雑種と考えられる栽培品種。江戸後期に江戸染井村(現在の東京都豊島区)の植木職人が「吉野桜」の名で売り出したと伝えられている。その後、東京帝室博物館(現東京国立博物館)の博物学者、藤野寄命が上野公園の桜を調査したときに、吉野山に多いヤマザクラとは異なる桜を発見。ヤマザクラと混同しないように染井村の名前をとって「ソメイヨシノ」と名づけ、1900年(明治33年)に発表した。葉が出る前に花が咲くことや、花が大きく華やかで桜並木に向いていることから日本でもっとも多く植えられている。上野公園でもさくら通りなどで毎年、見事に咲き誇っている。
アマギヨシノ上野文化の杜
春の桜:アマギヨシノ(天城吉野)
静岡県三島市にある国立遺伝学研究所でオオシマザクラにエドヒガンを交配して育成された栽培品種。命名の由来は二つある。一つはソメイヨシノの起原を調べるため、多くの材料を提供してくれた伊豆半島の天城山にちなんだこと。もう一つは、その研究に関連した桜であることを明らかにするため「ヨシノ」を加えたと言われている。上野公園では、国立科学博物館の敷地内に植えられている。
ヤマザクラ上野文化の杜
春の桜:ヤマザクラ(山桜)
東北南部から九州まで分布する日本ではもっとも身近な野生種。ソメイヨシノが広まる前は、桜といえばヤマザクラを指していた。上野公園でも湯島側や大噴水のそばには「吉野の山桜」があり、その他にも清水観音堂などの各所に植えられている。東京ではソメイヨシノよりやや遅れて咲くことが多いが、年によっては早く咲くこともある。3~4㎝の白色から薄紅色の花が咲くと同時に赤褐色の若芽が伸びる。
オオシマザクラ上野文化の杜
春の桜:オオシマザクラ(大島桜)
伊豆諸島や静岡県、千葉県など関東南部の暖かい地域に分布する野生種。緑の若葉が出ると同時に香りのよい白色の花を咲かせる。その香りのよさから、葉は塩漬けにして、桜餅などに使われている。上野公園では、不忍池畔に多く植えられている。樹高は20m以上になることもある。大きな花をつけることから、栽培品種の親木としても広く使われている。
ベニユタカ上野文化の杜
春の桜:ベニユタカ(紅豊)
12~18枚の花弁を持つ八重桜。1961年(昭和36年)、北海道松前町の桜研究家、浅利政俊が「松前早咲(マツマエハヤザキ)」と「龍雲院紅八重(リュウウンインベニヤエ)」を交配して選抜した栽培品種。鮮やかな薄紅紫色の大輪の花を咲かせることから、本州でも人気が高まっている。上野公園では、不忍池・水上音楽堂のそばに植えられている。
リンノウジミクルマガエシ上野文化の杜
ソメイヨシノより遅く咲く〈晩春の桜〉
・ リンノウジミクルマガエシ(輪王寺御車返)
・ イチヨウ(一葉)
・ カンザン(関山)
・ ショウゲツ(松月)
・ シロタエ(白妙)
※写真はリンノウジミクルマガエシ
リンノウジミクルマガエシ上野文化の杜
晩春の桜:リンノウジミクルマガエシ(輪王寺御車返)
5~8枚の花弁を持ち、丸く大きな八重桜を咲かせる輪王寺境内の大木。この桜はムラサキザクラに似た特徴があるが、一般的な品種の「ミクルマガエシ」は、オオシマザクラを母体にして生まれたサトザクラの栽培品種として、江戸初期から広く知られている。この桜を見た御所車の2人が一重か八重かを争って車を引き返したという言い伝えから、名付けられたという説もある。そのため、「八重一重(ヤエヒトエ)」の別名もある。
イチヨウ上野文化の杜
晩春の桜:イチヨウ(一葉)
サトザクラの栽培品種。江戸時代から関東を中心に広まり、京都で見る機会は少ない。20~40枚の丸い花弁を持ち、縁は淡紅色だが中心部はほぼ白色。花の中央にある1本の雌しべが葉化し、長く突き出すことから「イチヨウ」の名前がついた。上野公園では、表慶館や小松宮彰仁親王像のそばに植えられている。
カンザン上野文化の杜
晩春の桜:カンザン(関山)
サトザクラから生まれた栽培品種で、関東でよく目にする八重桜の代表。明治期に荒川提から全国に広がった。紅紫色の20~50枚もの花弁が華やかで、寒さや病原虫にも強い。上野公園では、不忍池畔や小松宮彰仁親王像の近くなど、各所に植えられている。
ショウゲツ上野文化の杜
晩春の桜:ショウゲツ(松月)
明治期の荒川提から広まったサトザクラの栽培品種。外側の花弁は淡紅色で先端に細かい切れ込みが入っている。内側の花弁は白に近い。花弁数は20~30枚。1~2本の雌しべが葉化していることも特徴。上野公園では、ボート池と不忍池の間、不忍池西交差点のそばに植えられている。
シロタエ上野文化の杜
晩春の桜:シロタエ(白妙)
明治期に荒川提から広まったサトザクラの栽培品種。現在、栽培されているものとは異なるが、名称は江戸時代後期から記録に残っている。品種名は、純白色の花弁が由来と考えられている。上野公園では、下町風俗資料館のそばに植えられている。
桜と猫上野文化の杜
ソメイヨシノ
提供:上野文化の杜新構想実行委員会
協力/上野桜守の会
写真/須賀一
文・構成/角田奈穂子(フィルモアイースト)