上村松園(1875-1949)は京都に生まれ、美人画を得意とした画家。女性初の文化勲章を受章したことでも知られます。布団の上に置かれた団扇には「蚊帳の角一手はずして月見かな」という句が書かれています。この句から、女性は今しがた吊った蚊帳の金具を一箇所だけ外し、蚊帳越しにではなく直接月を眺める様子とわかりますが、松園はあえて月を描いていません。それは、美しい光景に心躍らせる女性の生き生きとした表情や、単衣の裾を引く楚々とした立ち姿を強調するため。女性の日常生活のひとこまが、夏の夜の爽やかな趣とともに、巧みに描き出されています。