番の鴨が水の中を泳ぐ場面を描いている。茶色い羽毛の雌は水の中に潜っている。水中の体と藻は彩度を落とした着彩がなされており、水面下から透き通って見える様を表している。もう一羽の雄は振り返って上を見上げ鳴いているようだ。爽やかな青色の画面には全面に胡粉が撒かれており、これは鴨が立てた飛沫を表現していると思われる。羽毛はグラデーションによって立体的に表され、西洋画的な陰影法が用いられている。似たような鴨の絵は弘化四年(1847)の「流水に鴨図」(大英博物館蔵)があるが、本図はそれに先行する。本図は、ボストン出身の医師ウィリアム・ビゲローの旧蔵品。ビゲローは、明治14年(1881)に来日しアーネスト・フェノロサ、岡倉天心とともに日本美術の研究と作品を収集した人物。