左に秋の高雄、右に春の嵐山を描いた作品。高雄は清滝川上流にある栂尾、槇尾とともに三尾と呼ばれ、紅葉の名所として知られています。谷間は深紅の紅葉が続いています。山の上には寺院と思われる大きな建物があり参拝に訪れる人物が描かれています。一方、嵐山は平安時代から秋の歌枕として貴族たちに愛されましたが、鎌倉時代に後嵯峨上皇が吉野の桜を嵐山に植えたことから、次第に桜の名所となっていきました。18世紀中頃から貴族だけでなく一般の人たちも訪れるようになります。桜の木の寿命は70年から80年とされていますが、嵐山一帯を管理していた天龍寺が桜の苗木を植え続けることで、美しい景観を維持してきました。本作には筏士、嵐山の桜、左の山に「十三まいり」で有名な法輪寺という嵐山で観るべき事物がすべて描かれています。矢野夜潮は絵図を制作する家に生まれ、円山応挙の弟子である山口素絢(1759ー1818)に絵を学びました。