鳥文斎栄之(1756-1829)は、江戸時代後期の浮世絵師。すらりとした長身の美人画で独自の画風を確立した。同時代の喜多川歌麿とはライバルで人気を競った。育ちの良さからか、栄之の描く女性は清楚で気品に満ちたものが多い。本図もまた、長身の女性が蛍狩を楽しむ場面を描いたもの。肌や髪飾り以外は淡墨で描かれており、蛍の光がきらめく夜の情景であることを示している。これは天明末期から寛政期に流行した派手な色を敢えて使用せず、墨、淡墨、鼠を基調としてわずかに色を添える「紅嫌ぎらい」という表現方法。当時の流行を、栄之は夜の表現として採用したのである。