葛飾北斎(1760-1849)は、江戸時代後期の浮世絵師。ゴッホやモネなど海外の画家にも影響を与えた世界的に有名な画家。江戸に生まれ、90歳で没した。30以上の画号があり、「戴斗」、「為一」、「卍」など時期によって変化していく。これは北斎が「戴斗」と号した文化8年から文政3年(1811-20)時期に制作されたもの。砧とは、衣板の略で、織物を織り上げたのち織り目をつぶして柔らかくし、つやを出すための道具のこと。女性の後ろに置かれているのがそれである。砧打ちは昔から女性の夜なべ仕事で、その音がもの悲しく夜空に響くことから俳諧では秋の季語として用いられてきた。本図は手に衣を抱え、後ろを振り向く女性が一人描かれる。頭に巻いていた手ぬぐいを取り口にくわえて、一段落といったところだろうか。女性の衣はギザギザに波打つ線であるのに対し、体の輪郭線はやわらかく丸みを帯びた線が用いられ、鬢の後ろに透ける耳や、衣から透けて見える腕の表現に注意が払われている。