銘の出典は、『舟中夜起』蘇軾。手捏ねという樂茶碗の基本的な造形要素を強く打ち出す手法を用いている。片口のような全体に薄造りの沓形茶碗。口辺の起伏はやわらかく、一部を内側に押し込んでいる。総体に黄土を化粧掛けし、一部すぼめている口部から胴上部にかけて備長炭の灰釉を掛けている。さらに口縁から体部にかけて幾筋もの緑釉と黒釉を掛けている。それはまるで、夜の湖面いっぱいに月明かりが満ちる中、そよ風が浅瀬のマコモやガマ、舟人をも吹きゆらしているようである。削り出し高台内部に当代の樂印を捺している。「夜の航海」シリーズの1点。