端午とは、旧暦五月(現在の六月)端(はじめ)の午の日のことで、季節の変わり目にあたることから災いや病気をもたらす忌むべき時期とされてきた。そこで武具や香りの強い菖蒲の花を厄払いのために室内に飾ったのである。本図では、黒漆に金色で梅の模様をほどこした架台に兜かぶとが飾られ、下方に銀箔の紙に包まれた菖蒲の花が紐で括り付けられている。兜の上部には龍の飾り物、額を覆う眉庇(まびさし)、首元を覆う鮫皮、耳や首を覆う錏(しころ)の紐、菖蒲の花びらや包紙など、質感にこだわった描写がされており、まるで工芸品をそのまま画面に貼り付けたかのようなリアリティがある。八十五歳に至っても、北斎の物を観察する目とそれを表現する力は衰えておらず、並々ならぬ作画への意欲が感じられる一作。