日本の現代絵画代表する美術家。1940年大阪府生まれ。独学で絵画制作を始める。1963年南画廊(東京)で初の個展。1965年のロサンゼルスのワッツの暴動の報道写真から4つの人型を抜き出し、それに円形や色彩のグラデーションを合わせたシステマティックな絵画制作を始める。1966年「新しい日本の絵画と彫刻展」(MOMA、NY)に出品。1968年日本で初めてレーザー光線を使った作品「レーザー・ビーム・ジョイント」を発表。1970年日本万国博覧会(大阪)で同シリーズの作品を発表し話題を集めた。1972年ヴェネチア・ビエンナーレに出品等、国内外で制作発表を重ねる。宇佐美の記号化された4つ人型は、反復、変容させながら、同時代の人間とその世界経験をめぐる「思考空間」としての絵画の重要な構成要素として、終生にわたり描かれ続けた。また、多くの著作を残し、そこで語られた芸術論は、自身の絵画制作によって実践されている。
レオナルド・ダ・ヴィンチの晩年の作品に、人、家畜、岩や家に至る全てのものが大きな渦に巻き込まれる様子が描かれた《大洪水》という一連のドローイング作品がある。そこには、描かれた自然も、描くための技法である遠近法をも飲み込んで、全てを粉砕してしまうかのような大洪水の様子が描かれている。押し寄せる大波の力強い描写に加えて、遠近法が発明される前の中世的な画面へと時代が逆戻りするような絵画空間には、生成と崩壊が拮抗するエネルギーに満ち溢れている。
宇佐美は、2000年代後半より、この「大洪水」をテーマにいくつかの作品に取り組んでいる。その中でも、約3メートル×6メートルという壁画のような大きさの本作は、宇佐美の芸術の集大成といえる晩年の大作である。