竹内栖鳳(1864-1942)は京都画壇を代表する画家で、多くの弟子を育てたことでも知られます。本作は「猛虎」という題でありながら、口を半ば開いた虎は、さほど猛々しさを感じさせません。栖鳳は、虎の習性として「前脚を女の如く内輪に優しく踏む動作」をすると語っており、本作品にはその特徴がよく表れています。空中を見上げながら左右の耳を異なる方向に傾けている虎は、何かに神経を集中している様子。次の瞬間、頭上の獲物に飛びかかり、まさに「猛虎」に変じることでしょう。視線の先には、獲物の代わりに落款と署名があり、栖鳳の遊び心がみられます。絵具の滲みを利用して少ない筆数で描かれてはいるものの、動物の体温や柔らかさがしっかりと感じられ、口元や鼻の湿った様子からは虎の息遣いが伝わってきます。動物画で名を上げた栖鳳の技が光る秀作です。