動物画で知られる櫻谷ですが、本作を見ると美人画にも優れた才能を発揮していることがわかります。右側には、欄干のある白木の廊下をしずしずと進む侍女と、文机に寄りかかって何かを待っているかのような女性の姿。この2つの作品を読み解く鍵になるのは、右側の女性が捧げ持っている黒い漆塗りの箱です。これは「ふばこ」といい、手紙を納める専用の入れ物でした。右側の屏風が高貴な女性たちの静かな情趣を描いているのに対して、左側はがらりと趣が変わります。白い萩の花咲く庭に面した縁側の女性は、高々と結い上げた髪を整えながら、襦袢をまとったしどけない姿。木の葉舞い散る野原を歩む女性は、笠に手甲、脚絆姿、手には杖を持って、向かい風に逆らって急ぎ足の様子。何かの知らせを右側の女性にもたらそうとしているのかもしれません。描写に託して様々な想像を掻き立てる、櫻谷49歳の意欲作です。