果てしなく広がる雲海の中に、雪を頂いた富士が姿を現す。地上からは決して望むことのできない悠大な景色を、横長の画面を最大限に活かして描ききった、大観渾身の優品である。剛い稜線を際立たせながら端然とそびえる富士を表すのは濃い墨。柔らかにたゆたう白い雲は胡粉でかたどった後、周囲に淡い墨をほどこすことによって、幾層にも連なる立体感が生み出されている。上空には、風になびく旗にその形が例えられる「豊旗雲」が漂い、旭日が昇る様は温雅な雰囲気に満ちた初日の出を思わせる。光に溢れた空を表すのは、銅を含むために赤味がかって発色する「赤金」ではなく、含有される銀が冴え冴えとした上品な輝きをもたらす「青金」で、大きな画面にただ一点、鮮やかな朱で表された旭日の存在感を引き立てている。モチーフは富士と雲と旭日のみで、ごくシンプルな構図にもかかわらず、平板な印象を与えないのは、屏風という折れのある画面形式をうまく利用しつつ、独特の質感を持つ紙に描かれているため。これは一般的な画材に用いられる和紙ではなく、縮緬のような皺を加工した厚手で上質な特注品を思わせる。「大観謹寫」とかしこまって記した署名も珍しく、特別な依頼主の存在を示唆している。