スーラとともに新印象派の運動を支えたシニャックは、特に海や水辺の景色を好んで描いた。この作品は、1896年以来二度目のオランダ訪問の際、マース川の注ぐロッテルダムの港の眺めを描いたものである。明るい色彩と粒の大きな描点がモザイクのように画面全体を均一に覆い、シニャックの後期の典型的な作風を示している。近づいてみると小さな色面の集積でしかないが、少しずつ離れると、色彩が溶け合いそれぞれのモティーフが浮き上がってくる。この輪郭を定めることのない点描法により、水の反映、さざ波、船の吐き出す蒸気、遠景に見える工場の煙突から出る煙など、光を含み刻々と姿を変える様が見事に表現されている。