戦後まもなく、パリを拠点に活躍した日本の現代美術家。1919年神戸生まれ、商業デザインの仕事に従事しながら、絵画を学ぶ。1952年パリへ渡り、アンフォルメル風の重厚なマチエールで、力強い象形文字のような絵画を手掛ける。その後、明るい色調の記号化された色面構成による絵画を制作するようになり、70年代になると、円と直線による幾何学的なイメージの傾向が強くなっていく。80年代から晩年においては、菅井のイニシャルであり、道路の連続カーブを想起させる「S」をモチーフにしたシリーズを制作した。一つの様式に留まることなく、生涯を通じて、新しい絵画を求め続けた画家である。
「S」シリーズは、1987年から1991年までの5年に渡って描かれた大規模な連作である。基本となるのは、アルファベットのSを2つ、上下逆向きに合わせたような形態である。使用される色は限定的で、主に黒、白、赤の3色が用いられている。赤は直線によるハード・エッジの形態にのみ使用され、筆触を生かした表現には白と黒が使われている。限定的な造形要素によるシンプルな絵画構造は、シリーズの中で何度も反復されることで、S字型に美しいバリエーションと、それぞれに等しく強度を持った画面の連続をもたらしている。