20世紀を代表する画家。1879年、スイスの首都ベルンに生まれる。1898から1900年ドイツ・ミュンヘンで絵画を学ぶ。1911年カンディンスキーと出会い、1912年の「青騎士」展に参加する。1914年のチュニジア旅行を契機に色彩の探求を始め、次第にその影響が作風に現れ始める。1921年から31年の10年間、ヴァルター・グロピウスの招聘を受け、バウハウスで教鞭をとる。その後、1931年から1933年までデュッセルドルフ美術アカデミーの教授を務める。この頃から色面グリッドによる抽象絵画を手掛けるようになる。1933年ナチスの迫害から逃れ、ベルンに帰郷する。1940年 終戦を待たずしてその生涯を閉じる。単純な形態や記号による詩的な絵画世界を展開した。
本作は、クレーが生涯を閉じる1年前の1939年に制作された作品である。晩年は手の自由が利かなくなり、太い線描による大きな色面で構成される作品を多く描いた。本作では、色彩と形と線のそれぞれが、穏やかなリズムを生みだし、素朴さの中に画家の心情を静かに伝えてくるかのようだ。タイトルの「セイレーン」は、ギリシャ神話に登場する半身女性、半身が鳥の海の魔物で、船乗りたちを美しい歌声で惑わせ、その船を難破させた。