本作に描かれるのは、1冊の謡本に顔を寄せ合って、謡曲の稽古のおさらいをする仲睦まじい姉妹たち。優しく本を繰っているのは年長の姉で、丸髷風に結った髪型から、すでに嫁いだ身とわかります。その隣でにこやかに謡のひとふしをくちずさんでいる様子の妹は娘盛り。島田髷の黒髪に桜の花簪が映え、青地の着物にも小桜の裾模様があしらわれています。桃割れに結い上げた髪に薔薇の簪を飾っているのは、末の妹。帯を大きく矢の字に結んだ優美な後ろ姿を見せつつも、肩上げをした着物を身につけていることから、まだ幼さを残した年頃であることがわかります。菊の花や葉がシルエットとして表現された裾模様は、明治30年代頃に流行したデザイン。同じ時代の女性のファッションに向けられた、若き松園の敏感なまなざしが初々しい作品です。