白梅の蕾が開き始めていることから、晩冬から初春の朝方を描いた作品。木の下には白猫が静かに居座っています。まだ少し冬の寒さが残っているのでしょうか、猫は体を丸くしています。猫は落ち着いている時ほど、ゆっくりと瞬きをします。本作に描かれる目は細く、瞬きをした直後なのかもしれません。日が長くなり、徐々に暖かくなっていく季節の変わり目を捉えた情趣豊かな作品です。菱田春草は長野県の生まれで、明治28年(1895)に東京美術学校を卒業。横山大観や下村観山らとともに、輪郭線を使わない「朦朧体」と呼ばれる描法を研究し、近代日本画壇に革新的な波を起こしました。最晩年には、重要文化財《黒き猫》を制作していますが、実は、猫嫌いで「人に媚びるため嫌なものだ」と、日頃から口にしていたといいます。本作も、どういった心境で制作していたのか気になるところです。