村上華岳(1888~1939)は大阪に生まれ、京都や神戸で活躍した画家。最晩年、華岳は持病の喘息が悪化し、床に臥す日も多くなっていました。残り少ない人生で、ここから自分はどこまで精進できるのか、まだ悟りにいたっていないと焦る心は、彼をさらに制作へと駆り立てました。本作は、まさに煩悶(ルビ:はんもん)していた時期に制作されたもの。慈愛に満ちた表情の観音が、天上を散華しながら飛翔する様子で描写されています。柔らかな線描からは、近づきつつある死後の世界が穏やかであると夢想しているようにも感じられます。本作を完成させた華岳は、その年の晩秋に51歳の若さでこの世を去りました。