池田菊苗ーうま味を発見した日本人

「第5の味」を発見した人、それは明治時代の日本人科学者でした

池田菊苗博士うま味インフォメーションセンター(NPO法人)

日本人が発見したうま味

基本味は甘味、酸味、塩味、苦味の4つであると長く思われてきました。しかし、この4味では説明できない「もうひとつの味」が存在することに気づいた学者が日本にいました。旧東京帝国大学(現・東京大学)の池田菊苗(いけだきくなえ)博士です。池田博士は昆布だしの主な成分がグルタミン酸塩であることを発見し、その味を「うま味」と命名しました。そして、うま味は基本味のひとつであることを論文に記しています。

池田菊苗に続いて彼の高弟である小玉新太郎(こだましんたろう)氏が、かつお節から「イノシン酸」を発見。さらに国中明(くになかあきら)博士が核酸の分解物である「グアニル酸」もうま味物質であることを発見しました。 3大うま味物質は、いずれも日本人の科学者たちに発見されたのです。

ドイツ留学中の池田博士出典: Dr. Ikeda

ドイツで感じた第五の味覚

うま味を発見した池田菊苗博士は、幕末の1864年、京都に生まれました。 化学好きだった池田は、1889年に東京帝国大学理科大学化学科(現・東京大学理学部) を卒業、 1896年には同学科の助教授になりました。

3年後の1899年、ドイツのライプチヒ大学への国費留学がかない、ノーベル化学賞を受賞したオストワルド教授のもとで物理化学を専攻することになります。

留学先ではドイツ人の体格と栄養状態の良さに驚き、「日本人の栄養状態を改善したい」と強く思うようになりました。

また、ドイツで初めて食べたトマトやアスパラガス、肉、チーズには、よく知られた4つの基本味(甘味、酸味、塩味、苦味)とは異なる味があることを感じました。

これがのちにうま味の発見につながっていきます。

池田菊苗博士と家族うま味インフォメーションセンター(NPO法人)

アスパラガスと湯豆腐のだしに共通する味

1901年10月に帰国した池田菊苗博士は、東京帝国大学の教授に就任しました。

彼は「日本人の栄養不足を解消するために、滋養のある粗食でもおいしく食べられるような調味料を発見し、工業化したい」という科学者としての使命感を抱いていました。

うま味発見のヒントは1907年の春に訪れます。 きっかけは妻の貞が買ってきた一束の昆布でした。 湯豆腐を食べた池田は、昆布だしの中に留学先のドイツで食べたアスパラガスやチーズにも同じ味を感じたことを思い出したのです。

それは甘味、酸味、塩味、苦味とは違う、もうひとつの味。 博士は大学の講義の合間を縫って、昆布からこの味の成分を取り出そうと研究を始めました。

池田博士の研究ノートと具留多味酸うま味インフォメーションセンター(NPO法人)

博士の研究ノート

池田菊苗博士は昆布を煮出したり、煮詰めたりして濃縮液を作り、うま味のもとを取り出そうとしました。
濃縮液を冷却したり、無機塩やマンニット(昆布の表面につく白い粉。弱い甘味を持つ糖類)を除いたりしてうま味を分離しようと試みましたが、なかなかうまくいきませんでした。

1908年2月、ついに池田は約12kgの昆布から約30gの物質を得ることに成功。分析の結果、これがグルタミン酸であることをつきとめました。そして、この味を「うま味」と名付けたのです。

ちょうどその頃、池田菊苗は「佳味は食物の消化を促進する」という三宅秀博士(東京帝国大学理学部医科学長)の論文を読み感銘を受けました。そして「うま味の成分を使って良質で値段の安い調味料を作り、食品をおいしくしたい。その調味料で日本人の栄養状態を改善したい」と願うようになりました。

鈴木三郎助うま味インフォメーションセンター(NPO法人)

協力者、鈴木三郎助との出会い

この頃、昆布を使って実験をしている博士がいると聞いて、横須賀の葉山から博士の実験室を訪ねてきた男性がいました。
海藻からヨードを作る鈴木製薬所(現・味の素社)の当主、鈴木三郎助です。

「うま味物質であるグルタミン酸を主成分にした調味料で、日本人の栄養状態を良くしたい」という池田博士の願いは、鈴木三郎助との出会いで実現に向かって動き出します。

市場を読むことに長けた鈴木三郎助の助言を得て、池田菊苗はグルタミン酸を主原料にした調味料の開発を目指し、さらなる研究を開始しました。

グルタミン酸を中和する実験を行い、グルタミン酸ナトリウムやグルタミン酸カリウムなどを作って、その味を確認していきました。その結果、水に溶けやすく、しかも吸湿性がないサラサラした物性のグルタミン酸ナトリウムが、調味料として最適だと判断しました。これがうま味調味料、グルタミン酸ナトリウム(MSG)です。

1908年9月、池田菊苗博士と鈴木三郎助は、うま味をつかったこの新しい調味料を世に出すことを決めました。

初期のうま味調味料うま味インフォメーションセンター(NPO法人)

こうして1909年5月、化学者と事業家によって「うま味調味料」が誕生したのです。

世界に広がる池田博士の想いうま味インフォメーションセンター(NPO法人)

世界に広がる池田博士の想い

池田菊苗博士はうま味について「欧米人にも適することは微塵(みじん)も疑う余地もなく、一度その使用に慣れた人にとっては日常欠くべからざる必需品になる」だろうと語っています。

また、うま味調味料は「文化圏における全ての国民約10億人の食物をおいしくする」とも書き記しています。

その言葉の通り、1914年に台湾、1918年には中国、そして1920年代には米国向けの輸出も始まり、グルメパウダーと呼ばれ親しまれるようになりました。

池田菊苗のうま味調味料は、今も世界中の食卓をおいしくしています。

提供: ストーリー

NPO法人 うま味インフォメーションセンター
https://www.umamiinfo.com/

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