作成: スペイン王立ガストロノミー学会
Real Academia de Gastronomía
スペイン社会において何世紀にもわたって人々に好まれてきたタパスは、20 世紀後半から発展し、スペインの国境を越えて世界的に有名になった食習慣です。
Tapasスペイン王立ガストロノミー学会
タパスとは?
タパスとは、スペイン全国のバーで飲み物とともに提供されるちょっとしたおつまみで、シンプルなものから手の混んだものまでさまざまな種類があります。このような食事をすることをスペイン語では「タペアール(tapear)」と表現し、「タパスを食べる」という意味があります。打ち解けた集まりや友人や知人との飲み会などで提供されることが多いメニューです。
スペインの伝統的な食文化であるタパスは文化的にも重要なものであると考えられており、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。
タパスの歴史
スペインの小さな旅館や居酒屋などで、飲み物とともにおつまみを食べるというこの伝統的な習慣の起源についてはさまざまな言い伝えがあり、スペイン国王が好んで食べたスタイルだと言われています。17 世紀の小説『ドン・キホーテ』のような文学作品にも登場しており、そこではニシンとウサギ肉の「エンパナーダ」(具入りのパンまたはペイストリー)について言及されています。
King Alfonso X "The Wise"スペイン王立ガストロノミー学会
お酒はタパスとともに
ある言い伝えでは、13 世紀のアルフォンソ 10 世(賢王)の時代に、飲みすぎ防止のためのおつまみとしてタパスが提供されたとされています。
"Ultramarinos"スペイン王立ガストロノミー学会
アンダルシア: 現在のタパスの発祥地
18 世紀のアンダルシアでは、居酒屋、「ボデガ(ワインセラー)」、食料品店がいたるところに軒を連ねていました。食料品店ではワインがグラスで提供され、店内で販売している食品の一部を試食することができたのです。
1795 年に発行された『セビリアの酒宴、タパスとそのメニュー、1863-1995: 食物の人類学』という書物によれば、ワインをグラスで提供する店はテーブルと椅子を置いて冷たい料理や揚げ物を提供することができましたが、シチューの提供は禁止されていたと言います。
King Alfonso XIIIスペイン王立ガストロノミー学会
タパスを好んだ国王
もう 1 つ、タパス文化の起源について多くの人が信じている言い伝えによれば、アンダルシア地方では暑い夏の間に飲み物をチーズやソーセージで覆ってほこりやハエを防いでいました。
この言い伝えの中心となった人物は、アルフォンソ 13 世です。ある宿で王がシェリー酒を飲んでいましたが、地面に砂が舞っているのを見た給仕の 1 人がグラスの上にソーセージのスライスを置き、それを王が後で食べたことがタパスの始まりだと言われています。
カディスやセビリアにある居酒屋の中には、この出来事があったのは自分の店だと主張しているところもあります。
それを証明するものとして、国王アルフォンソ 13 世が 1930 年にセビリア郊外の宿を訪れ、名物として知られていた自家製のタパス「トンテオ」を食べたという記録が来訪者名簿に記されています。このタパスは、玉ねぎ、揚げたイカ、「アリーニョ デ ウエバ」(魚卵のドレッシング)、ソーセージを材料としたものでした。
王はこれをとても気に入り、その宿に「最高の宿」という称号を与えたのです。
Traditional Tapas Barスペイン王立ガストロノミー学会
気軽なタパス
タパスの食べ方は実に自由なものです。何を、どこで、どのように食べるか(座って食べるか、立って食べるか)、そしていつ食べ終えるかは食べる人次第です。
「タパスとは食べ方のスタイルであり、何を食べるかは問題ではなく、指でつまんで口にし、タパスという体験を共有することなのです」と、スペイン王立ガストロノミー学会のラファエル アンソン代表は説明しています。
タパスの食べ方について
アンソン氏は次のように述べています。「タパスは原則として片手でカクテル スティックやフォーク、またはスプーンを使って食べるもので、もう片方の手で飲み物を持つことができます。このような食べ方をすることで、食べ物と飲み物の調和が生まれるのです。」
好きなときに誰とでも
タパスは朝食の時間が終わるころからバーで提供され、通常はコーヒータイムまで利用できます。午後は夕食前から、食堂やキッチンが閉まるまで提供されます。
食事の直前に食べるタパスのことを「アペリティーボ(aperitivo)」と呼びます。「前菜」という意味で、「食欲をかき立てる」という概念に関連したラテン語「アペリレ(開く)」から生まれた言葉です。
自由で気軽なタパス
前菜としてタパスを 1 皿または 2 皿食べるということもできますし、メインとしてタパスを楽しむことももちろん可能です。バーで立って食べたり、スツールに座って食べたり、低いテーブルで食べたりすることができます。
「1 軒のバーで 1 つのタパスを注文して食べるのか、それとも同じバーでいくつもタパスを注文するのか」について、著名な料理評論家クリスティーノ アルヴァレス氏は次のように述べています。「これまでは、タパスは 1 軒のバーで 1 つのものを注文して食べるのが一般的でした。1 種類あるいは 2 種類の看板メニューをタパスとして提供するバーが好まれたのです。同じバーのテーブルに座り、4 種類のタパスを食べるというのは主に観光客がしていた食べ方ですが、この習慣はやがて、店を変えて歩き回るのを好まない地元の人々にも広がっていきました。」
"Pinchos" in the Basque Countryスペイン王立ガストロノミー学会
タパス、「ピンチョス」、そして小皿料理
タパスの伝統はスペイン全国で深く浸透しており、各地域には独自の名物タパスがあります。
スペイン北部のバスク地方のバーには、「ピンチョス」と呼ばれるおいしいおつまみがたくさん並んでいます。
ピンチョスは、カクテル スティックで「ピンチャード(串刺しという意味)」されて提供されるため、このような名前がつけられています。歴史家のアルムデナ ビリェガス氏は、「大きなトレイやお皿の上、あるいはカウンターに見栄えよく並べられたピンチョスは、客の食欲をかき立ててくれます」とその著書『スペイン料理と国際料理: 食材を使用した料理芸術の創造』の中で述べています。
Tapasスペイン王立ガストロノミー学会
アンダルシア地方では、「タパスを食べる」という意味で「タペアール」や「トマール ウナ タパ」という表現が使用され、名物としては揚げた魚、オックステール、ホウレンソウとヒヨコ豆などがあります。
マドリードではつい最近まで、前菜を注文しても現在の主流のような洗練されたタパスが出てくることはほとんどなく、代わりに飲み物とともにオリーブやポテトチップス、あるいはソーセージが出てくる程度でした。
"Pinchos" in the Basque Countryスペイン王立ガストロノミー学会
20 世紀において、サラマンカやサンティアゴ デ コンポステーラなど学生が多く、畜産市場のある都市では、「タパス デ コルテシア(無料のタパス)」を顧客が飲み物を注文した際に提供するのが一般的でした。この無料のタパスは、通常そのレストランで提供される調理済みの食品で、この習慣は後に他の場所にも広がりました。
今日では、一般的に飲み物を注文すると小さなお通しのみが供されます。
目移りする多様なタパス
タパスには、「ピンチョ」、「モンタディート」(具を挟んだパン)、「トースタス」(オープン サンドイッチ)、シチューや小皿料理など、さまざまな種類があります。
最も人気のあるタパスには、「ギルダス(スティックに刺したアンチョビ、チリ、オリーブ)」、「トーレスノス(揚げた豚の皮)」、「トルティージャ デ パパタス(スペイン風オムレツ)」、「カラマーレス(イカ)」、「エンサラディージャ(ロシア風ポテトサラダ)」などがあります。この他にもいろいろな種類があり、各地域の特色的な食材やそれぞれのバーによっても異なります。
Gastrobarスペイン王立ガストロノミー学会
1990 年代には、飲み物とともに小皿料理を提供する店がスペイン全国に増えました。こうした料理は、フェラン アドリア氏による斬新な高級料理によって、細分化されたメニューとしてモデル化されるようになりました。
スペイン王立ガストロノミ-学会のラファエル アンソン代表は、「タパスは 2 つの面において進化してきました。まず、タパスは小さな食べ物になったため、片手で食べ物を、もう片方の手でグラスを持つ必要がありません。小さなポットや少量の料理も口にすることができます。また、さまざまなタパスを組み合わせて楽しむことができます。これはもう単なる前菜とは呼ばないでしょう。」と指摘しています。
"Calle Laurel", Logroñoスペイン王立ガストロノミー学会
スペインの多くの都市では、「ルタ デ タパス」と呼ばれるタパスツアーが人気を集めています。客から客へのクチコミで広がったものが、多くの都市で観光客の注目を集めています。それぞれのバーの看板メニューを載せた、「美食ツーリズム」のガイドやマップも作成されるようになってきています。有名どころとしては、ログローニョ(ラ リオハ州)にあるローレル通りやサン セバスティアンにある旧市街、レオンの通称「バリオ ウメド」または別名「飲み屋街(多くのバーや居酒屋で知られる)」などがあります。
さらに、タパス コンテストは 10 年以上にわたって人気を博しています。バリャドリッドは、国際的に知られるようになったこのコンテストが最初に行われた場所であり、また最も有名な会場です。
Tapas Bar in New York Cityスペイン王立ガストロノミー学会
世界中に広がるタパス
スペイン生まれのタパスは世界中の大都市に広がりを見せており、多くのタパスや「スペイン風」バーがオープンしています。こうした店では有名なスペイン料理だけでなく、スペイン国内のように「タペアール」(タパスを食べる)する機会を提供しています。
タパスという流行に乗ろうとしているシェフが世界中で増えています。その中にはスペイン料理の有名シェフであるホセ アンドレ氏もいます。20 年以上にわたってアメリカで暮らしてきた彼は、レストラン「ハレオ」で古典的なスペインのタパスを提供しています。
フランス料理のシェフのジョエル ロブション氏は、タパスという食モデルを世界に広めることを提唱しました。彼のバーではスペイン風のタパスだけでなく、世界各国の料理を元にした料理も提供しています。
タパスよ永遠なれ!
テキスト: マリア ガルシア氏。ラファエル アンソン氏の協力のもと執筆を担当。
イラスト: ヒメナ マイエル氏
謝辞: ラファエル アンソン氏(スペイン王立ガストロノミー学会代表)、エレーナ ロドリゲス氏(スペイン王立ガストロノミー学会ディレクター)、マリア ガルシア氏およびキャロリーヌ ヴェルイーユ氏(いずれもスペイン王立ガストロノミー学会貢献者)
スペイン王立ガストロノミー学会
この展示は、スペインの食文化について取り上げた Google Arts & Culture とスペイン王立ガストロノミー学会による共同プロジェクトの一部です。