宝石珊瑚工芸

作成: 京都女子大学 生活デザイン研究所

京都女子大学 生活デザイン研究所

宝石珊瑚工芸《緋牡丹抄》撮影:門田幹也(前川泰山)京都女子大学 生活デザイン研究所

宝石珊瑚工芸とは

日本は、その国土からほとんど鉱物質の宝石を産出しません。しかし、四方を海に囲まれたこの国は、世界に冠たる美しいサンゴ――その稀少性から「宝石珊瑚」の名で呼ばれる海の宝石の主産地として知られています。
日本初の珊瑚漁が行われた土地であり、今もの最大の生産量を誇る高知は、日本国内のすべての珊瑚原木の取引が行われるなど、珊瑚産業の中心地です。その地理的な優位性のもとで花開いた高知の宝石珊瑚細工は、世界的にも類例のないもの。珊瑚という珍奇な資源を用い、その美しさを見つめ、生かして表現されるこの工芸は、新たな試みを加えながら、海のような、広く豊かな芸術世界を展開しています。

宝石珊瑚細工《高知の海》撮影:津嶋修平出典: 日本サンゴセンター宝石資料館

熱帯・亜熱帯の海の浅瀬に広がるサンゴ礁を形成する一般的なサンゴは成長が早いものの、軽石のような構造で研磨しても光沢をもつことはありません。宝石珊瑚の原材料となるサンゴは地中海や高知沖など、世界の中でもごく限られた地域の深海で、長い年月をかけて育つもの。内側から光を放つような美しい珊瑚の光沢は、多くの人々の心を惹きつけてやみません。 歴史的には、宝石珊瑚は地中海でのみ産出され、極めて貴重な宝物として珍重されて、東洋にももたらされました。洋の東西を問わず、宝石珊瑚は神秘的な力をもつものとして尊ばれ、仏教でも「七宝」の一つに数えられています。近世の日本では、はるか地中海で採取された珊瑚がもたらされ、簪の玉や印籠の緒締めなどに用いられていましたが、その時代にはあまりにも貴重な材料である珊瑚を彫刻するなどということはできず、もっぱら材そのままの美を楽しむだけにとどまっていました。

宝石珊瑚細工《血赤珊瑚の原木》撮影:津嶋修平出典: 日本サンゴセンター宝石資料館

この状況が一変したのが江戸時代の末期でした。土佐(高知)の漁師が極めて上質の宝石珊瑚を発見し、高知沖に宝石珊瑚が存在していることが知られるようになったのです。

鮮烈な赤さを持つ「アカサンゴ」は日本沿岸でのみ採取できる固有の種であり、その美しさは地中海のサンゴを凌駕していました。この結果、高知では珊瑚採取網を利用した漁が行われるようになり、明治以降は高知産のアカサンゴの原木を研磨して得られる「血赤珊瑚」はヨーロッパでも「TOSA」の名で知られるほどに評価が高まりました。

宝石珊瑚工芸《アカサンゴとモモイロサンゴ》撮影:津嶋修平出典: 日本サンゴセンター宝石資料館

高知沖では鮮烈な深紅のアカサンゴだけではなく、優美な桃色を呈する「モモイロサンゴ」や純白の「シロサンゴ」も産出されます。

このことが、高知で宝石珊瑚工芸が発展する契機となり、明治以降、珊瑚に置物や仏像などを彫刻するようになっていきました。
これらの珊瑚の色彩は天然そのままが尊ばれ、その色や光沢を考えながら、原木の大きさや質に配慮しながら、宝石珊瑚工芸は作業が進められていきます。

宝石珊瑚工芸《図取り》撮影:津嶋修平出典: 日本サンゴセンター宝石資料館

図取り

工芸に使えるような宝石珊瑚は極めて高価なものであり、特に一木から彫り上げていく「伝統彫り」の場合には原木の大きさをなるべく活かすことが求められます。そのため、一つ一つ異なっている珊瑚の形を見極めながら、彫刻のための図を描き込んでいきます。

宝石珊瑚工芸《彫り》撮影:津嶋修平出典: 日本サンゴセンター宝石資料館

彫り

大まかに彫り上げていく「荒彫り」の工程ののち、目鼻や衣文など、細かな部分を彫り上げていきます。宝石珊瑚は極めて硬いものであるため、現代では電動式のルーターが一般的に用いられています。

宝石珊瑚工芸《研磨》撮影:津嶋修平出典: 日本サンゴセンター宝石資料館

研磨

深海で長い年月をかけて育つ宝石珊瑚は、研磨することによって輝きが生まれます。作品によって研磨の程度を考えながら作業が進められます。

宝石珊瑚工芸《寄せ木彫り「いざない」》撮影:門田幹也(前川泰山)京都女子大学 生活デザイン研究所

高知の宝石珊瑚は、江戸時代末期以降の150年以上、採り尽くすことなく自然と共存するという持続可能な漁法で採取されてきました。しかし、今も昔も大きな材料を得がたいのは同じであり、近年は中国の経済成長などが影響して、サンゴの原木の価格の高騰も続いています。このことから、第一人者の前川泰山により、様々なサンゴを組み合わせて彫る「寄せ木彫り」の技法が試みられつつあります。また、珊瑚を粉末状にした「珊瑚抹」も考案され、作品に積極的に用いられつつあります。これにより、様々な色や形を持つ珊瑚を活用することができると共に、資源の保護が図られています。

宝石珊瑚工芸《両面彫り「鬼やらい」》撮影:門田幹也(前川泰山)京都女子大学 生活デザイン研究所

高知で宝石珊瑚が本格的に採取されるようになった明治時代から発展してきた宝石珊瑚工芸は、伝統工芸としては比較的短い歴史を持っているといえます。しかし、それだけに発展の余地が多く残されており、積極的に新たな工夫がなされていることが特徴です。近年では、「ムシ」と呼ばれる海中で表面が浸食された珊瑚をあえて用い、その自然の風趣を活かした彫刻なども試みられています。宝石珊瑚工芸の世界はいま、大きく広がり続けているのです。

宝石珊瑚工芸《日本サンゴセンター 宝石珊瑚資料館》撮影:津嶋修平出典: 日本サンゴセンター宝石資料館

提供: ストーリー

【資料提供】
日本サンゴセンター・宝石珊瑚資料館
・㈱KAWAMURA
前川珊瑚工房

【監修・テキスト】
・村田隆志 (大阪国際大学 准教授

【撮影】
・津嶋修平
・門田幹也

【英語サイト翻訳】
・黒崎 美曜 ベーゼ

【ウェブサイト編集・制作】
・杉島つばさ(京都女子大学 生活造形学科

【プロジェクト・ディレクター】
・前﨑信也(京都女子大学 准教授
・山本真紗子(立命館大学

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
もっと見る
関連するテーマ
Made in Japan : 日本の匠
日本が誇る匠の技をめぐる旅
テーマを見る
ホーム
発見
プレイ
現在地周辺
お気に入り