「エルブジは閉店しました。もう一度開店できるように。」2011 年 7 月 30 日、世界で最も有名なレストランが最後の食事を提供し、フェラン アドリア氏とそのチームは、ある言葉を胸に新たなプロジェクトに着手しました。その言葉とは「創造性」。
elBulli, Last Waltz (trailer)スペイン王立ガストロノミー学会
ラストワルツ
2011 年 7 月 30 日、世界一のレストランに 5 度も選ばれたエルブジが最後のディナーを提供しました。二度とない特別な日に、かつてエルブジで腕を振るった、世界で最も影響力のあるシェフたちが集まりました。
フェラン アドリア氏は、なぜキャリアの絶頂でレストランを閉めるのかを世間がまだ理解していなかったこと、そして実際にいくつかの理由があったことを認めています。その一番の理由が、「ガストロノミー体験のすべての限界を広げきってしまったから」でした。
Press coversスペイン王立ガストロノミー学会
ガストロノミー界のメッカ「エルブジ」は、ガウディ、ミロ、ダリなどの芸術家を生んだカタルーニャ地方にある、海辺の町ロザスに店を構えていました。
創造性と革新を求める土地柄が、フェラン アドリア氏の仕事をガストロノミー界の最前線へと押し出し、さらに高いハードルを設定することにつながりました。このレストランが 1 シーズンに用意できる席はわずか 7,000 席だったのに対し、年間で 200 万件近くもの予約が殺到しました。
Gastronomy Map - Sapiens(Ferran Adrià)スペイン王立ガストロノミー学会
創作料理の遺伝子情報を明らかにする
エルブジ閉店後のアドリア氏は、世界で最も有名なキッチンを何年も切り盛りしてきた経験と知識を活かして、創造性や革新がどのようにして生まれるかを明らかにしようとしています。
それまでの経験からわかっていたことは、ガストロノミー界に対する認識を変えられるのは、リソースが限られ、高い効率と持続的な創造性を兼ね備えた小さな会社だということでした。エルブジ ファウンデーションは、ガストロノミーだけでなく、革新という面でも新たな課題に挑んでいるのです。
elBullifoundation formation(2013-02-07)スペイン王立ガストロノミー学会
エルブジ ファウンデーション(elBullifoundation)は、フェラン アドリア氏がビジネス パートナーのジュリ ソレール氏と 2013 年 2 月 7 日に設立した私的な財団です。
エルブジの遺産と精神を守り続けるためには、カラモンジョイのレストランでの経験を、未来に向けたビジョンに変換する必要があることは明白でした。料理の革新と創造性をどう促進するかについてのビジョンが必要だったのです。
The Why of transformationスペイン王立ガストロノミー学会
エルブジ ファウンデーション設立の目的は、知識、教育、ビジネス、革新を中核とした取り組みを主導することです。ガストロノミーはあくまでその対象の 1 つであり、プロジェクト、分野、領域、産業の枠を超えて取り組むことも可能です。
カラモンジョイの「エルブジ 1846(elBulli1846)」とバルセロナの「ラブジグラフィア(LABulligrafía)」を通じて、エルブジの遺産を守り、社会に伝承することが 1 つの目標です。
elBullifoundation documentスペイン王立ガストロノミー学会
elBulliOpen(エルブジ営業中)
営業時間不定。予約なし。定型業務なし。予測可能である必要なし。壁なし。セキュリティなし。リスクあり。自由あり。創造性あり。創作の自由あり。
elBullifoundation logoスペイン王立ガストロノミー学会
エルブジ ファウンデーションとそのプロジェクトを持続可能にするための経済モデルを設計する。
革新に関しては、効果と効率を高めるための研究と実験を進める。ファウンデーションの研究は、美食とそれに関わるすべての職業や産業に焦点を絞る。
その成果を他の職業や学問領域と共有する。
エルブジの DNA
エルブジ ファウンデーションを生み出したのは、40 年の経験を経てもう一度やり直すため、過去と対話しながら未来を見据えるためでした。
From elBullirestaurant to elBullifoundation(2012)スペイン王立ガストロノミー学会
"Ferran Adrià & elBulli Risk, Freedom & Creativity (1961 - 2011)" exhibit posterスペイン王立ガストロノミー学会
エルブジ ファウンデーションの哲学を支える柱は、レストランの成功を支える柱とまったく同じです。創造性と革新、リスクと自由、情熱と勤勉、倫理と寛容。そこにある価値観には、アドリア氏とそのチームが長年積み重ねてきた考え方や運営が反映されています。しかし、何よりも重要なのは熱意です。エルブジ レストランの革新を中心として運営や組織を考える熱意。そしてそれは、他の分野や産業にも適用できます。
エルブジ ファウンデーションの精神は、2 つの大きなプロジェクトに受け継がれています。その 1 つ「ラブジグラフィア」は、エルブジの博物館とアーカイブの実現に向けた将来への布石として、編纂プロジェクトのためにバルセロナに設けられた施設です。もう 1 つの「エルブジ 1846」は、カラモンジョイに以前あったレストラン内に設立された研究センターです。
elBulli1846 logoスペイン王立ガストロノミー学会
創造性と革新のエコシステム
エルブジ 1846 は 20 人のチームで構成され、効率を高めること、理想的な創作エコシステムを構築する方法を分析することを目標に、創造性と革新に基づく研究や実験を進めています。
エルブジ 1846 は、ロザスのカラモンジョイにあったレストラン(元々そこに住んでいたマルケッタ シリング氏が開いた店)の敷地内に開設されることになっています。ただし、一般公開は予定されておらず、調査研究のみを行う施設になります。
Cooks in Cala Montjoiスペイン王立ガストロノミー学会
フェラン アドリア氏がチームを率い、どの分野に応用するかでメンバーが変わります。アドリア氏自身が開発した方法論「サピエンス」を適用し、革新における効率性を研究しています。
チームでは、「美食」を言語やテーマとして使用し、関連するすべての職業、領域、活動、産業との対話を構築していきます。ただし、その研究成果は他の仕事環境にも適用できます。
LABulligrafia (english)スペイン王立ガストロノミー学会
エルブジの 50 年
ラブジグラフィアは、エルブジの歴史と、フェラン アドリア氏、ジュリ ソレール氏、アルベルト アドリア氏の偉業を展示する博物館でありアーカイブです。
エルブジが残した有形無形の遺産の展示と、エルブジをビジネスとして独創的な視点で監査、分析した内容や解説を見ると、このレストランがガストロノミー界に与えた影響がいかに大きかったかがわかります。
ラブジグラフィアの展示は、博物館だけでなくオンラインでも公開されています。
La Bulligrafiaスペイン王立ガストロノミー学会
ラブジグラフィア オフライン
1993 年、フェラン アドリア氏とそのチームは、エルブジの創作プロセスに関するすべての情報(ノート、メモ、紙ナプキンの走り書き、写真、出版物に至るまで)を、文書化して保管するという非常に細かい作業に着手しました。独創的な分析と革新という観点から、1 軒のレストランのためだけに作られた初めての博物館。そのおよそ 6,000 平方メートルのスペースは、すぐに展示物で埋め尽くされることになるでしょう。
このラブジグラフィア オフラインの展示スペースには、エルブジの革新の進化を物語る品や文書が一般に公開される予定です。
La Bulligrafia Online / Offlineスペイン王立ガストロノミー学会
ラブジグラフィア オンライン
仮想空間に設けられたラブジグラフィア オンラインは、エルブジの歴史、アドリア氏、彼のチーム、彼らを結びつけるプロジェクト、業界、領域を理解するのに役立つ大量の画像、動画、文書を収めた巨大なオンライン アーカイブです。
全世界に向けて公開されるこのアーカイブによって、この限られたリソースしか持たない小さなビジネスが、ガストロノミー界に対し世界規模で影響を及ぼすことができた理由が明らかになるでしょう。
サピエンス: 共通のテーマ
エルブジを閉じて 7 年後にフェラン アドリア氏が発表したのが、世界の革新を支援するための方法論「サピエンス」でした。彼がこの方法論を最初に適用したのがエルブジで、その結果アドリア氏は、ガストロノミー界の最先端へと躍り出ることになりました。
Gastronomy Map - Sapiens(Ferran Adrià)スペイン王立ガストロノミー学会
「料理法や美食の研究について考えるとき、理解や分析がしやすいように、情報を整理して正しい順序に並べ替える方法論が必要だと考えたのです。」
「そうして辿り着いたのがサピエンス。現状に対して疑問を投げかけることで、製品、プロジェクト、企業、産業、分野について理解を深める方法論です。」
What is Sapiens?(Diari ARA)出典: Diari ARA
サピエンスでは、研究の対象とするそれぞれの要素について、実証的な視点と全体論的な視点から研究を進めます。つまり、いくつもの異なる角度からアプローチしてさまざまな側面を見ることで、それぞれのシステムが相互にどう作用し、時間の経過とともにどう進化するかについて多次元に理解しようとします。
こうすることで、それぞれの目標に着手するために必要な知識や情報の量がわかり、最も重要な「独創的なプロセス」に目を向けることができるのです。
What is Sapiens based on?(Diari ARA)出典: Diari ARA
革新のために理解するか、理解のために革新するか
サピエンスは、芸術と人文科学、ビジネス、科学、教育といった、いくつもの異なる領域との対話をベースとしています。
また、チームが統合した 20 近い理論や出典は、デカルトからデザイン思考まで、一般システム理論からクレイトン クリステンセンの破壊的イノベーションやヘンリー チェスブロウのオープン イノベーションまで実に多岐にわたります。
The Mission: Compiling elBulli's Learnings
elBulliLab is the creative epicenter for Adrià and his team. It's a space for amassing knowledge, from which two big projects have emerged: Bullipedia and elBulli's General Catalog.
A day at elBulliLabスペイン王立ガストロノミー学会
elBulliLab
Between 2014 and 2017, elBulliLab was Adrià's research center in Barcelona.
Seen as a creative pop-up lab, it was not only where the Sapiens methodology was developed, but was also used for creating content such as books, apps, and exhibitions—something that will continue at elBulli1846. This content will be used to build Bullipedia.
Bullipediaスペイン王立ガストロノミー学会
elBulli's Wealth of Knowledge
Bullipedia is a multimedia content platform that aims to become the world's first encyclopedia of gastronomy, creativity, and innovation.
The elBulli restaurant's creative system; raw ingredients; the first volumes on the history of food, cooking and gastronomy; drinks; and the tools used in food preparation are just some of the topics covered by Bullipedia's projects. Depending on the nature of each theme, they will appear in various formats, including printed and digital books, apps, or the new "seaurching" model of online courses based on the Sapiens method.
General Catalogue elBulli, 1983-1993スペイン王立ガストロノミー学会
エルブジ総合カタログ
エルブジの野心的な仕事が、1983 年から閉店する 2011 年 7 月 30 日までに創作された 1,846 種類の料理として編纂されています。10,000 ページにも及ぶ総合カタログには、シーズンごとに作られた新しい料理の分析も含まれています。
"elBulli - History of a dream"スペイン王立ガストロノミー学会
エルブジの視聴覚カタログ
「Historia de un sueño」(夢のストーリー)は、ガストロノミー界においてエルブジが成し遂げてきたことやそれらに関わるさまざまな体験を、旅をするかのように目と耳で楽しめるカタログです。今日までの料理の旅が、エルブジ ファウンデーションに形を変えるまでの過程がすべて記録されています。
この映像は、Amazon プライムビデオを通じて 150 か国以上で公開されています。
テキスト: フェラン アドリア氏およびマーク クスピネーラ氏
画像: エルブジ ファウンデーション
謝辞: ラファエル アンソン氏(スペイン王立ガストロノミー学会代表)、エレーナ ロドリゲス氏(スペイン王立ガストロノミー学会ディレクター)、マリア ガルシア氏およびキャロリーヌ ヴェルイーユ氏(いずれもスペイン王立ガストロノミー学会貢献者)
スペイン王立ガストロノミー学会
この展示は、スペインの食文化について取り上げた Google Arts & Culture とスペイン王立ガストロノミー学会による共同プロジェクトの一部です。