作成: 京都女子大学 生活デザイン研究所
京都女子大学
胡粉とは
かつて様々な顔料が中国から日本へと伝来したとされています。日本において「胡粉」とは、鉛を原料とする白色顔料である「鉛白」を指していたようです。しかし、日本の多湿な環境下で鉛が黒変してしまうこと、原料の確保が難しいことから、次第に牡蠣の殻を原料とした白色顔料が使われるようになりました。現在でも日本の伝統的な絵画や工芸品の白色の多くは「胡粉」を使用しています。
歴史
牡蠣の貝殻から作られた白い顔料を「胡粉」と呼ぶようになったのは平安時代後期のことと考えられています。
牡蠣の殻
原料となる牡蠣の殻はイタボ牡蠣という種類の牡蠣のものを使います。まず貝殻を約10年から15年もの間、野外で雨風に晒して風化させます。長い時間をかけることで、貝殻に含まれる有機物が分解され、貝殻に付着していた石や鱗が取り除きやすくなります。さらに剥落しにくくなる、柔らかく筆に馴染みやすくなる、白さを長期間保つことができるなど、優秀な顔料となります。
柔らかい白
金属を原料とする白色顔料よりも柔らかく温かみのある色合いを特徴としています。絵具として使う際には膠と溶いたものを塗り、絵画はもちろん、ひな人形、博多人形、伏見人形の白色の着彩にも使われています。
胡粉《乳鉢と乳棒を使い胡粉をすりつぶす》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
乳鉢と乳棒を使い細かくすりつぶします
胡粉《すり潰した胡粉に膠液を混ぜる》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
すり潰した胡粉に膠液を混ぜます。
胡粉《膠とまぜて練る》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
団子状になるまで指を使って練ります
胡粉《団子状になった胡粉を皿に叩きつける》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
団子状になった胡粉を皿に叩きつけます。
胡粉《皿の底に胡粉を薄く貼り付ける》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
底に薄く貼り付けます。
胡粉《水で溶いて白い絵具をつくる》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
水を少しずつ足しながら、指で液体状になるまで溶いていきます。これで粉末状の胡粉を絵具として使う準備が整いました。
胡粉《溶かした胡粉を筆にとる》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
筆を使います。
胡粉《扇面に白梅を描く》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
胡粉を使って白梅を描きます。
胡粉《金の扇面に白梅を描く》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
胡粉《白梅》(2021-03-05) - 作者: 川嶋渉京都女子大学 生活デザイン研究所
乾いたら完成です。
胡粉をつくる
胡粉の製造工程を紹介します。はじめに風化させた貝殻を「貝車」と呼ばれる機械の中へ入れ、付着物を取り除きます。この機械の中で殻と殻がぶつかり合うことで、表面のゴミなどが除去されます。
ハンマーミル
付着物を除去した貝殻の中から質の良いものを選別し、粉砕します。最初は「ハンマーミル」という機械で2~3mmほどの大きさになるまで粉砕します。
胡粉《製造工程:スタンプミル》(2020) - 作者: ナカガワ胡粉、画箋堂京都女子大学 生活デザイン研究所
水簸(すいひ)
石臼で挽かれた胡粉は水槽の中に落ちます。水の浮力を利用することで、大きな粒子は底へと沈み、細かな粒子は水の表面を漂うため、きめ細かい粒子を選定することができます。
不純物を取り除いた後、杉の板の上に均一に伸ばし、約10日間かけて自然乾燥します。乾燥後、杉の板を裏側から叩いて表面の胡粉を落として完成です。貝車にかけてから完成まで約2ヵ月程度かかります。
胡粉《商品(都の雪)》(2020) - 作者: ©ナカガワ胡粉、画箋堂京都女子大学 生活デザイン研究所
【資料提供・協力】
ナカガワ胡粉 中川博之
画箋堂 山本修三
川嶋渉
【テキスト・サイト編集】
松原ちあき(京都女子大学)
岡田千佳(京都女子大学)
【写真】
山本修三(画箋堂)
前崎信也(京都女子大学 准教授)
【英語翻訳】
エディー・チャン
【撮影協力】
ナカガワ胡粉 中川博之
画箋堂 山本修三
川嶋渉
【プロジェクト・ディレクター】
前崎信也(京都女子大学 准教授)