ばれん

世界で唯一の摺り道具

ばれん《ばれん工房》(2021-03-18) - 作者: ばれん工房菊英、後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

ばれん工房菊英

ばれん工房菊英は神奈川県中群大磯町に工房を構える、日本でも数少ないばれんをつくる工房です。職人の後藤英彦さんは制作のかたわら、ばれんの魅力を伝えるためのワークショップなどの取り組みをされています。

ばれん(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

ばれんとは

ばれんは木版画の刷りに使われる道具です。木版画の刷りでは絵具を塗った版木に紙を置き、その上からばれんで摺ることで版木に彫られたイメージを紙に転写します。つまり一つの版で同じイメージを何枚も摺ることができる「印刷」の一種です。

ばれん《ばれん芯》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

ばれんを構成する部位

ばれんは「ばれん芯」、「当皮」、「包み皮」の3部分で構成されています。このばれん芯は、中に収納されいているため、普段は見えません。

ばれん《当皮》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

当皮

ばれん(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

包み皮でばれん芯の入った当皮を包みます。

ばれん《書籍『ばれん』》(1973) - 作者: 志茂太郎、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

ばれんの製法

通常、ばれんの製法は口伝で受け継がれてきました。伝統的な製法に関する書籍には1973年に出版された志茂太郎筆録の『ばれん』があります。ばれんの製法が途絶えてしまうことに危機感を覚えた人々によって自費出版されたものです。

ばれん《皮白竹》(2021-03-18) - 作者: 写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

ばれん芯の製法

まずは材料の選定から始まります。菊英で制作される伝統的なばれんには「皮白竹」という竹の皮が使用されています。

ばれん《竹皮》(2021-03-18) - 作者: 写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

竹皮は部分によって厚みが異なり、端の部分は薄く、中央部分は厚いのです。そのため材料として使えるのは端でも中央でもない根元部分から20cmのところのみ。ばれん芯には厚みが同じものを使用する必要があるため、質の良いものを慎重に選びます。皮一枚から取れる量はほんの少しです。

ばれん《水に浸けた竹皮》(2021-03-18) - 作者: 写真:前崎信也、後藤英彦京都女子大学 生活デザイン研究所

竹皮の選定の次は竹皮から甘皮を剥く作業です。甘皮を剥きやすくするために竹皮を6分間水につけてふやかし、適度に湿ったら甘皮にだけ切り込みを入れます。

ばれん《甘皮剝き》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

口と手を使って切り込みを入れた部分から少しずつ甘皮を剥がしていきます。

ばれん《専用道具で竹皮裂き》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

甘皮を剥いだら、次はばれん芯を編むために竹皮を細く裂く作業です。ゴム版を下に敷き、後藤さんお手製の竹皮裂き専用針で裂きます。この専用針を使うことで竹皮を均一な幅に裂くことができます。

ばれん《竹皮裂き》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

ばれん《竹皮裂き専用針》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

竹皮を裂く幅によって芯の仕上がりが異なってくるため、針の種類は間隔約3.0mmのものから約0.6mmのものまでさまざまあります。間隔約3.0mmの繊維で編まれた縄は「極太」、間隔約0.6mmで編まれた縄は「超極細」に分類されます。

ばれん《2コ縒り》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

次は竹皮を縒り合わせ、縄を作る作業です。裂いた竹皮2本を捻じりながら縒り合わせ、1本の縄にします。この作業を「2コを縒る」や縮めて「2コ縒り」と呼び、仕上がった縄は「2コ」と呼びます。さらに2コと2コを縒り合わせて4コ、4コと4コを縒り合わせて8コというように足していき1本のばれん芯が出来上がります。

ばれん《ばれん芯の詳細》(2018) - 作者: 後藤英彦京都女子大学 生活デザイン研究所

このようにして作られた縄を螺旋状に巻き付けてばれん芯が完成します。ちなみに1枚のばれん芯に必要な縄の長さは8コ芯で12~20M、16コ細芯だと28Mにもなります。

ばれん《古い和紙》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

当皮の製法

当皮はばれんを握ったときに手が当たる部分であり、前に紹介したばれん芯はこの裏側に収納されます。当皮の芯には紙、特に古い和紙を使用します。現代の紙に比べて昔の和紙が楮を多く使用さているため、繊維が長く非常に丈夫にできているためです。

ばれん《当皮の裏》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

ばれん《木型》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

和紙を木製の型に合わせ形を作ります。当皮は40~50枚を貼り重ねる必要があり、接着乾燥するには1枚につき1日かかります。また、当て皮は薄く・丈夫に作る必要があるのですが、わらび粉を使用することで糊の余計な厚みを省くことができます。こうして張り合わせられた和紙はカンナで角を丸く削り、上手く竹皮で包めるように整形します。

ばれん《当皮と木型》(2018) - 作者: 後藤英彦京都女子大学 生活デザイン研究所

絽と呼ばれる絹布を貼り付け、漆を塗ります。絽を貼ることで漆の含みが良くなり、ばれんの強度を高めることができます。漆塗りには布と綿で作ったタンポに漆を染み込ませて刷り込む「拭き漆」という技法を使用します。こうすることで必要以上に漆を使い、固まり過ぎて堅くなるのを防ぐことができます。生漆を6回・生正味漆を2回、計8回漆を塗り重ねた当皮は半年以上寝かせ、ばれん芯を収めることで仕立ての工程は完了です。

ばれん《目こすり》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

包み皮の製法

ばれん全体を包んでいる包み皮の製法です。まず、適度に湿らせた竹皮をはさみの柄で縦横斜めにゴリゴリと強く動かし、皮の厚みと筋目を潰します。この工程は目こすりと言い、皮を薄くする・刷りの効きをよくする・破れにくくなる・たるみにくくなるなどの効果があります。

ばれん《竹皮揉み》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

次に、目こすりを施した皮を揉むようにして柔らかくさせます。特に折り込み部分は破れやすいため、重要です。

ばれん《当皮包み》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

次に一度当皮を置いて余分なところをはさみで切り落とした後に、周りから皮を包んでいきます。

ばれん《捻じり作業》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

両端の部分はぐるぐると捻じり、1本の太い縄のようにします。

ばれん《持ち手を紐で結ぶ》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

中央で2本をつなげ、糸で縛ります。

ばれん《持ち手作り》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

ばれん《椿油塗り》(2021-03-18) - 作者: 後藤英彦、写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所

仕上げに椿油を塗ります。

ばれん《版画》(2020-12-17) - 作者: 後藤英彦京都女子大学 生活デザイン研究所

ばれんの種類と摺りの表情

ばれんは芯の太さによって種類が異なり、それに伴い摺りの表情も変わります。芯が太く、こぶが大きいものは効きがよく、濃いベタ面を得ることができます。 逆に芯が細いものは効きが弱く、繊細な表現をすることができるのです。

提供: ストーリー

【取材協力】 
ばれん工房 菊英
画箋堂


 【テキスト】 
・岩崎真央(京都女子大学生活造形学科
・高原木綿(京都女子大学生活造形学科
 
 【写真】
・山本修三(画箋堂
・前﨑信也 (京都女子大学 准教授) 

【写真提供】
画箋堂
ばれん工房 菊英


 【英語サイト翻訳】
 ・エディー・チャン 

 【プロジェクト・ディレクター】
・前﨑信也 (京都女子大学 准教授)  

提供: 全展示アイテム
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