作成: スペイン王立ガストロノミー学会
Real Academia de Gastronomía
スペインの地理的位置、各地域に根ざしたさまざまな文化とそこで起こった社会的変化は、スペイン料理の個性の形成とその発展に大きな影響を与えています。歴史という視点から、スペイン料理を見てみましょう。
混じり合った文化
広い貿易ルートを持つスペインはアフリカ、また特にアジアからの食糧の玄関口になっており、スペインの地理的位置はアメリカ大陸との重要な接点となっています。
Paisaje mediterraneoスペイン王立ガストロノミー学会
理想的な気候
地中海周辺の穏やかな気温と季節の変化によって、農作物や畜産物の生産に適した条件が揃っています。
Fishing boats in Galiciaスペイン王立ガストロノミー学会
豊かな海
スペインは 3 つの海に囲まれており、さまざまなプランクトンが生息する環境、穏やかな水域(特に河口の内部)の環境、そして荒波が岸壁に打ち付ける環境と、それぞれ異なる特徴があります。そのため、海から陸揚げされる良質の魚や魚介類に恵まれています。
多様な民族の影響
ギリシア人、フェニキア人、ローマ人、アラブ人など、異なる文化を持つ民族がスペインを訪れてこの国の食文化に痕跡を残しました。
Phoenician Route MapNational Museum of Archaeology, Malta
北アフリカ沿岸および南ヨーロッパに住んでいたフェニキア人は、その貿易ルートを通じて多くの製品をスペインに持ち込みました。
Oil Jar with a Woman Carrying a Basket of Offerings(470 - 460 B.C.)The J. Paul Getty Museum
その後、ギリシア人がイスパニアの地中海沿岸に定住し、スペイン人に新しい農作物や最新の生産方法、そしてその保存方法を伝えました。
Olive oilスペイン王立ガストロノミー学会
ローマ帝国の遺産
イベリア半島全体に定着したローマ人は、穀物の貯蔵には納屋が向いていることを発見しました。
ローマ人はまた、オリーブの搾油機を発明しました。これにより、ローマ皇帝の首都には主にバエティカ州で取れた良質なオリーブ オイルが輸出されるようになりました。
A Roman Feast(late 19th century) - 作者: Roberto BompianiThe J. Paul Getty Museum
エブロ川の河口には牡蠣が多く繁殖しており、ピレネー山脈の雪を詰めた箱に入れてローマまで運ばれました。また、エブロ川ではさまざまな魚が水揚げされ、当時の主要な水産加工品である「ガルム」、つまりローマ時代に人気を博した魚醤などが製造されました(以前はギリシア人によって製造されていました)。
Mapa Hispaniaスペイン王立ガストロノミー学会
風味のよいこのソースは、マグロ、サバ、イワシ、およびアンチョビなどの魚の腸や切り身を使用しており、ガデス(現カディス)、アブデラ(現アドラ)、セシ(現アルムニェーカル)、カルタゴノヴァ(現カルタヘナ)などで生産されました。
「ガルム」は純粋なものが「リカメン」として、またワイン、酢、または油と混ぜてそれぞれ「オエノガルム」、「オキシガルム」、「オレオガルム」として販売されていました。
Azafranスペイン王立ガストロノミー学会
アル アンダルス: アラブ文化の興隆
アラブ人は優れた農法を発明し、農作物や灌漑を導入したため、スペインは柑橘類の一大生産地となりました。
料理においては、アラブ人はのちのお菓子の元となる食べ物や、食事に関する洗練された習慣を生み出し、タジン鍋料理(スペイン風「コシード」シチューの原型)や「エスカベーチェ(マリネ)」、ミートボールといったレシピを伝えました。また、スペイン料理で今日まで使用されているスパイスを数多く紹介しました。
アメリカ大陸からスペインの店の棚へ
アラブ人やユダヤ人がスペインを離れると同時に、アメリカ大陸が発見されました。スペインの征服者たちは新大陸で発見した新たな農産物を最初は拒んでいましたが、飢餓に苦しんで結局受け入れるようになりました。特にメキシコやペルーでは、スペインから持ち込まれた農産物とともにそうした現地の農産物が総督によって積極的に料理に取り入れられ、新たな食文化が生まれたのです。
Custard applesスペイン王立ガストロノミー学会
スペイン人によるアメリカ大陸の植民地化は、世界中の人々の食料を変えました。小麦、トウモロコシ、豆、ヒヨコ豆、ジャガイモ、オリーブオイル、アボカド、パパイヤ、リンゴ、グアバ、ブドウ、チェリモヤ、プラム、ピーナッツ、アーモンド、トマト、レタス、ピーマン、コーヒー、バナナ、チョコレートなどが今日、大西洋の反対側でも収穫できるようになりました。
Cherry tomatoesスペイン王立ガストロノミー学会
ヨーロッパではこうした新しい食料が受け入れられるまでに時間がかかり、また農業や調理の面でも試行錯誤が繰り返されました。
しかし飢餓は人々の先入観を変え、ジャガイモ、トマト、コショウ、トウモロコシなどの食品は、スペインをはじめ世界中の人々の食生活の一部となりました。
Potatoesスペイン王立ガストロノミー学会
スペインはジャガイモを国民の食生活に取り入れた先駆者でした。ヨーロッパで最初にジャガイモを食べたのは、セビリアのサングレ病院の患者です。そしてその後、フランダース軍に従事する兵士にも提供されました。
ジャガイモは次第に一般的なレシピにも取り入れられるようになり、ついにはスペインの食料庫に欠かせないものになりました。
Grains of wheatスペイン王立ガストロノミー学会
世界を変えた穀物
地中海原産の小麦やアジア由来の米(現在はスペインの気候での栽培に適応)、そしてアメリカ大陸から持ち込まれたトウモロコシは、世界中の食糧の基盤となり、また一部の国では経済の基盤となっています。これらの 3 つの穀物は、異なる地域からもたらされた食料が世界各地に浸透したことがよくわかる例です。
テキスト: マリア ガルシア氏。イスマエル ディアス ユベロ氏(国際連合食糧農業機関(FAO)のスペイン代表常任委員、在ローマ スペイン大使館では農林水産や食の担当顧問)の協力のもと執筆を担当。スペイン王立ガストロノミー学会会員。
画像: スペインの食とワイン / スペイン貿易投資庁 / スペイン国立図書館 / レストラン「ホーチャー」 / ダヴィド デ ルイス氏
謝辞: ラファエル アンソン氏(スペイン王立ガストロノミー学会代表)、エレーナ ロドリゲス氏(スペイン王立ガストロノミー学会ディレクター)、マリア ガルシア氏およびキャロリーヌ ヴェルイーユ氏(いずれもスペイン王立ガストロノミー学会貢献者)
スペイン王立ガストロノミー学会
この展示は、スペインの食文化について取り上げた Google Arts & Culture とスペイン王立ガストロノミー学会による共同プロジェクトの一部です。