「2.5次元文化」とは?

舞台、コスプレ、コンサート、応援上映、コンテンツツーリズム──2次元から3次元へと飛び出すキャラクターたち

作成: 経済産業省

ミュージカル『テニスの王子様』 © 許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト © 許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

ミュージカル『テニスの王子様』出典: © 許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト © 許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

2.5次元文化

マンガにも深い関係のある2.5次元文化。元々アニメの声優を指していた「2.5次元」だが、VR、ARなどの映像技術や、インターネット、ソーシャルメディアが普及することで2次元の虚構世界と3次元の現実が混交する世界がやってくると、「2.5次元」は、マンガ、アニメ、ゲームなどの作品(2次元)を人間の身体(3次元)で顕現する実践という広い意味で使われ始めた。「2.5次元文化」を舞台、コスプレ、コンサート、応援上映、コンテンツツーリズムからひも解く。

池田理代子『ベルサイユのばら』1巻、集英社、1972年出典: ©池田理代子プロダクション/集英社

2.5次元舞台の歴史①―戦前から70年代までのマンガ原作舞台

マンガの舞台化の歴史は意外と古い。日本初のグラフ誌『朝日グラフ』や朝日新聞に掲載された織田小星(原案)、東風人(画)の四コママンガ『正チャンの冒険』や、平井房人のグラフィックノベル風漫画『家庭報國思ひつき夫人』は、1924、1939年にそれぞれ宝塚少女歌劇団(現・宝塚歌劇団)によって舞台化された。戦後宝塚歌劇団を一躍有名にしたのは、1974年池田理代子の少女マンガ『ベルサイユのばら』の舞台化だった。少年マンガでは高森朝雄(原作)、ちばてつや(画)の『あしたのジョー』などが1970年新国劇によって舞台化された。

「2004 サマースペシャルミュージカル 美少女戦士セーラームーン 新かぐや島伝説」出典: ©︎ Naoko Takeuchi・PNP DVD時発売中 (発売・販売元:バンダイナムコアーツ)

2.5次元舞台の歴史②―1990年代児童向けミュージカルの誕生

1990年代には夏休み(7~8月)に合わせて児童向けミュージカルが流行し、マンガ原作舞台も盛んに上演された。一つは玩具会社バンダイ制作のアイドルSMAP主演のスーパーミュージカル『聖闘士星矢』(1991)と、『ミュージカル 美少女戦士セーラームーン』(1993~2005)。『セーラームーン』に出演した大山アンザ(ANZA)、浦井健治、城田優は、のちにミュージカル俳優として大成する。
もうひとつは、玩具店博品館の博品館劇場で上演された少女マンガ原作のミュージカル。『姫ちゃんのリボン』(1993)、『赤ずきんチャチャ』(1994)、『水色時代』(1997)などが舞台化された。

「サクラ大戦 歌謡ショウ」出典: © SEGA

2.5次元舞台の歴史③―1990~2000年代声優/キャラ舞台の人気

1990年代後半から2000年代には、アニメ声優が自分の担当したキャラクターを演じる“声優/キャラ舞台”が人気を博す。まさに「2.5次元」。声が同じなのでリアル感があった。ゲームからアニメ、マンガへとメディアミックス展開した『サクラ大戦』は、初めから『歌謡ショウ』(1997~2006)への出演も見込んだ声優がキャスティングされた。

「サクラ大戦 歌謡ショウ」出典: © SEGA

また、冨樫義博の人気少年マンガ「ハンターxハンター」は、アニメ化後に担当声優が多数出演するミュージカル2本(2000、2002)、ストレートプレイ1本(2004)がつくられた。

ミュージカル『テニスの王子様』出典: © 許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト © 許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

2.5次元舞台の歴史④―2.5次元舞台の誕生と隆盛

2003年、キャラクターの“種”をもつ若手俳優をキャストして、物語の世界観とキャラクターの再現性を重視してブレイクしたミュージカル『テニスの王子様』が幕を開ける。

舞台『弱虫ペダル』出典: © 渡辺航(秋田書店)2008 © 渡辺航(秋田書店)2008/ 舞台『弱虫ペダル』製作委員会

「まるでキャラクターが飛び出してきたような」2.5次元舞台は、ミュージカル「忍たま乱太郎」、舞台『弱虫ペダル』、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」など次々とヒット。
ライブビューイング、コンサート、俳優のアイドル的活動なども特徴的な2.5次元舞台は年間200作品超えている。『戦国BASARA』、『刀剣乱舞』、『A3!』などゲーム原案の舞台も増加中だ。

舞台『弱虫ペダル』出典: © 渡辺航(秋田書店)2008 © 渡辺航(秋田書店)2008/ 舞台『弱虫ペダル』製作委員会

世界コスプレサミット 2015出典: 撮影=張慶在

コスプレ―コスチューム遊びから世界イベントへ

コスプレ(コスチュームプレイの略)は、基本的にマンガ、アニメ、ゲームのキャラクターに扮することを指す和製英語だ。

世界コスプレサミット出典: 撮影=須川亜紀子

1960年代アメリカのSF大会でファンが『スタートレック』の仮装したのを皮切りに、80年代日本で「コミックマーケット」などの同人誌即売会が増加するにつれ、コスプレイヤー(コスプレする人)も増加した。

世界コスプレサミット出典: 撮影=須川亜紀子

2003年から始まった名古屋の世界コスプレサミットは、世界最大のコスプレイベントだ。チャンピオンシップ2019には最多となる40の国と地域が参加。期間中街のあちこちでキャラクターが跋扈し、2.5次元ワールドが広がる。

「LoveLive! Series 9th Anniversary ラブライブ!フェス」出典: © 2013 PROJECT Lovelive!

声優/キャラコンサート―声優とキャラクターの融合

元祖2.5次元アイドルといえばボーカロイド・初音ミクだが、2000年代アイドルブームに乗って、アイドルアニメやゲームが増加し次々と2.5次元アイドルが生まれる。学校で結成されるアイドル、スクールアイドルとして活動する女子高校生たちを描いたオールメディアプロジェクト、『ラブライブ!』は、声優が自分の演じるスクールアイドルグループ「μ’s(ミューズ)」としてライブを行い、「ラブライバー」(ラブライブのファン)という用語も生み出した。
声優/キャラコンサートは、アイドル育成ゲーム『アイドルマスター』(2005~)、『うたの☆プリンスさまっ♪』(2010~)などゲーム発メディアミックスの一角を担っている。

「LoveLive! Series 9th Anniversary ラブライブ!フェス」出典: © 2013 PROJECT Lovelive!

『KING OF PRISM by PrettyRhythm』の応援上映  ©T-ARTS / syn Sophia / エイベックス・ピクチャーズ / タツノコプロ / キングオブプリズムAS製作委員会出典: ©T-ARTS / syn Sophia / エイベックス・ピクチャーズ / タツノコプロ / キングオブプリズムAS製作委員会

応援上映―スクリーン上のキャラクターをみんなで応援!

映画館で観客みなで歌うシングアロング上映は昔からあるが、日本では一緒に歌うより、スクリーンに向かって応援する興行形態「応援上映」のほうが人気だ。

女児向け魔法少女アニメ『プリキュア』シリーズの劇場版で子供たちを飽きさせないために導入した応援コーナーはあったが、プリズムショーを軸に青年たちの成長を描く劇場アニメ『KING OF PRISM』(2016)で全編応援上映を導入したことで大ブレイク。いまではアイドルアニメ映画以外にも、劇場版「名探偵コナン」なども通常上映と応援上映を併設。観客一体となって行うコール(&レスポンス)が快感だ。

舞台「KING OF PRISM -Shiny Rose Stars-」出典: ©T-ARTS / syn Sophia/エイベックス・ピクチャーズ/ダツノコプロ/「KING OF PRISM -Shiny Rose Stars-」製作委員会 2020

『KING OF PRISM』は、2.5次元舞台化もされ、好評を博した。

らき☆すた神輿出典: 写真提供=らき☆すた神輿準備会

コンテンツツーリズム(アニメ聖地巡礼)―2次元の世界を体感する旅

アニメの舞台探訪は1970年代頃から行われているが、インターネットが普及し始めた90年代には、「美少女戦士セーラームーン」の火川神社のモデルになった東京・麻布の氷川神社を“聖地”として訪れるファンが話題になった。キャラクターがいた世界を追体験する聖地巡礼またはコンテンツツーリズムは、新海誠監督の大ヒットアニメ映画「君の名は。」(2016)をきっかけに人口に膾炙。

らき☆すた神輿出典: 写真提供=らき☆すた神輿準備会

ただ2.5次元世界を体験するだけでなく、『らき☆すた』の聖地埼玉県・久喜市のように、観光コンテンツの乏しい地域の地方振興への効果も注目されている。

ロゴマーク出典: 舞台専門プラットフォーム「シアターコンプレックス」

おわりに―2.5次元文化のこれから

ソーシャルメディアを通じたファンの積極的情報交換によって盛り上がっていた2.5次元文化だが、2020年新型コロナウィルス感染拡大の影響で、エンタメ業界は大打撃を受けた。2.5次元舞台を含む演劇業界を支援し、新しいオンライン舞台を目指す「シアターコンプレックス」プロジェクトのクラウドファンディングには、1か月で約1.6億円の支援金が集まった。イベント、音楽、映画、観光業界もサイバー世界で様々な2.5次元の可能性を模索している。オンラインコスプレ大会、無観客ライブ配信、非接触観光など、2.5次元文化は困難を乗り越えてなお輝き続ける。

提供: ストーリー

文:須川亜紀子(横浜国立大学)
編集:福島夏子(美術出版社)
監修:宮本大人(明治大学)
制作:株式会社美術出版社
2020年制作

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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