作成: 京都女子大学 生活デザイン研究所
京都女子大学生活デザイン研究所
三味線《動画》(2021-08-18) - 作者: 三味線京都女子大学 生活デザイン研究所
三味線とは
日本の伝統楽器の一つで、弦楽器に部類します。三味線は、木製の胴の表面に皮を貼り、胴を貫通した長い棹に張られた弦を撥で引いて演奏するものです。三味線の魅力は何といっても、表現力にあります。大胆でありながら繊細という両極端の響きを持った楽器は珍しいといえるでしょう。
歴史
三味線は本来、中国より伝来した楽器であるといわれています。室町時代に中国の「三絃」が琉球に伝えられて「三線」となり、それを日本の楽器として改良、発展させたものが「三味線」です。日本に正式に伝わったのは16世紀ごろと考えられています。
三味線の種類
三味線は棹の大きさで太棹三味線、中棹三味線、細棹三味線の3種類に分けることができます。手前の太棹三味線は棹の幅が3cm以上あり胴も大きいです。津軽を演奏するときや義太夫などに使われています。真ん中の中棹三味線の棹は2.6~2.7cmあり、主に地歌や民謡などの演奏に使われます。奥の細棹三味線の棹は2.5cmより細く、主に長唄や俗唄などの演奏に使われます。
材質の種類
三味線を製作するのに使われる木材は主に紅木(こうき)、花梨(かりん)、紫檀(したん)の3種類です。手前が紅木 (赤茶黒色) です。明治時代に入ってから使われるようになった木で、固く重たいので歪みにくいのが特徴です。真ん中は主にお稽古用の三味線に使われる花梨 (黄土色) です。 紫檀や紅木に比べると木の質は粗く柔らかいです。奥は紫檀 (茶色)です。 紅木と同じく木質は緻密で、堅くて重い素材です。
胴の種類
三味線の胴は紅木や紫檀よりも気質が柔らかい花梨材を用いて作られます。胴の内側が丸みを帯びている「丸打胴」、ジグザグの細工が施された「綾杉胴」の二種類があります。ジグザグにすることで音に微振動が加わり、さらに音質が高まります。
皮の種類
三味線は皮の質、張り方で音質が大きく変わる楽器です。皮が厚いほど音は重く、薄いほど音が軽くなります。乾燥している状態の皮を、水で湿らせ柔らかくした状態で破れる限界まで張って仕上げます。三味線職人の腕の見せ所です。
製作工程
一般的に三味線の製造工程は全68工程にも及ぶと言われています。大きく天神、棹、胴の3部分に分けることができ、それぞれの部分ごとに作成し、それらを組み合わせて完成します。 三味線の製造工程について、今回は京都東山で築100年を超える歴史を持つ町屋長屋「あじき路地」に工房を構え、三味線職人であり、弾き手としても活躍されている野中智史さんにお話を伺いました。 部分ごとに追って紹介します。
棹づくり
棹部分を作る工程です。初めに三味線作りで一番大切と言われる材木の木目をまっすぐにとって切り出「木取り」の工程です。カンナを使って、荒削り後、上場の反りや背の丸みを出す「丸め」、細部を削り形を整え、最後に砥石で丹念に磨き上げます。
継手
棹は上棹、中棹、下棹に分かれていて継手によって合わされています。持ち運ぶ際にはばらばらに分解することも多いです。ホゾはノミやキリを使って精密に作られます。ぴったりと密着し、取り外しできる継手はまさに職人の技です。
胴づくり
現在は制作工程に機械を入れることが多くなってきましたが、手作業でする場合として紹介します。花梨や桑の角材を4枚切り出し、カンナで外側の丸みを、ノミで内側の丸みをつくります。音色を良くするために内側に綾杉彫とよばれる凹凸の細工を施すこともあります。これは,凹凸によって胴の中で音が乱反射することで音色が良くなると考えられています。4枚1組になるように木目合わせをして、接合部分となる留めを切り出します。 4枚の板を縄で縛りまとめ、膠で接着し熱で浸透させ馴染ませます。最後に楔で縄を締め上げて乾燥させ、表面を砥石で磨き漆をかけます。写真は膠が弱り壊れてしまった胴を修理している様子です。
三味線《胴の貼り合わせ》(2021-05-21) - 作者: 写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所
皮張り・弦張り
皮を湿らせ、胴枠の接合部分を軽石やサンドペーパーでなめし裏取りしたら、皮の四方周辺を楔で止めます。糊を塗って皮をのせ、貼り台でもじり棒をつかって、音を確かめながら、縄を徐々に締め上げます。乾燥後余分な皮を断ち切ります。そして最後に、弦を張っていきます。組み立てた三味線の細部の角度を調整します。駒(弦を乗せるパーツ)を取り付けて音色を確認しながら弦を張って完成です。
三味線《駒の取り付け》(2021-05-15) - 作者: 写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所
道具紹介
一般的に全68工程ある三味線製造に使用される道具はノミ、カンナ、ヤスリ等数十種類に及びます。分業性が主となっている現在、野中智史さんが担当する「棹」の製造に使用する道具を見ていきましょう。
鉋(かんな)
三味線職人が三味線を削る鉋は大工さんの使用する鉋とは少し違います。三味線の材料である紅木等の外国産の木は日本の木よりもずっと硬いです。野中さんが使用する2種類の「鉋」を紹介します。
立ち鉋・逆立ち鉋
立ち鉋は、棹の整形に使用される鉋です。一般的な鉋とは違い鉄の刃が垂直に入っていることからそう呼びます。木が固いことから普通の鉋の角度だと刃がすぐに刃こぼれしてしまいます。逆立ち鉋は、主に仕上げ用に使用される鉋です。刃の角度が一般的に大工さん等が使用する鉋と逆になっている為逆立ちと呼ばれています。木肌の毛羽立ちを無くし、表面を滑らかにすることが出来ます。
砥石
砥石とは、三味線製造には欠かせない、木の表面に艶を出すための道具です。左から青砥、中砥、仕上げ砥と呼びます。この3種類の砥石は粒度によって分かれていて、粒度とは砥石の中に含まれる「砥粒」の大きさによって区分けされています。粒度は小さいほど荒く、大きいほど細かくなっており、青砥が最も粒度が小さく、仕上げ砥が最も粒度が大きいです。その為青砥はヤスリがけをした後、中磨きとして使用します。また中砥と仕上げ砥は最終の仕上げ磨きに使用されます。
三味線《砥石で研磨する》(2021-05-15) - 作者: 写真:前崎信也京都女子大学 生活デザイン研究所
青砥を使用した研磨作業は、傷を取り除き、棹の表面を磨くために行います。
修理
現在三味線工房では修理の仕事が多くを占めています。三味線の棹を修理することを勘減り直しといいます。三味線を使っていると勘所を押さえた所が削れてきます。削れが深くなると糸が入り込んで思い通りの音が出なくなるため、定期的に勘減り直しを行います。
勘減り直し
勘減り直しの方法は、鉋を使用し全体を薄く削ることで平らにしていくというものです。そして棹をあらかじめ少し反らせて「しゃくれ」を作ることで三味線は良く鳴り弾きやすくなる効果がありますが、三味線が古くなってくると反りがきつくなってきます。その反りを直すのも勘減り直しです。
伝統と革新
三味線を含む和楽器は2004年頃から学校の音楽の必須科目として子供達に親しまれるようになりました。また、ロックバンドにも取り入れられるなど様々なジャンルとの融合が楽しまれています。時代に合わせ演奏形式や音楽を柔軟に変える三味線は、この先も時代に即して新しい三味線の姿を見せていくでしょう。
【取材協力】
・野中智史
【テキスト】
・井澤杏実(京都女子大学生活造形学科 )
・川上 千乃(京都女子大学生活造形学科 )
・中野 真緒(京都女子大学生活造形学科 )
【映像】
・高山謙吾 ( A-PROJECTS )
【写真】
・前﨑信也 (京都女子大学 准教授)
【英語サイト翻訳】
・エディー・チャン
【プロジェクト・ディレクター】
・前﨑信也 (京都女子大学 准教授)