ドラえもん×村上隆。日本文化を象徴する、マンガとアートの最強コラボ

作成: 経済産業省

おすわりドラえもん 泣いたり笑ったり(2020)© Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

未来からやってきたネコ型ロボットのドラえもんが、お腹の四次元ポケットから「ひみつ道具」を取り出し、のび太のどんな願いも叶えてくれる――漫画家・藤子・F・不二雄(1933〜1996)の代表作であるマンガ『ドラえもん』は、アニメや映画、グッズにも展開され、今や世界中の人びとに夢を与え続けている不朽の名作だ。

そんな日本を代表する人気キャラクターのドラえもんと、世界の現代アートシーンで活躍するトップ・アーティスト、村上隆による稀有なコラボレーションが、2002年に誕生し、現在も進化を続けている。

ぼくと弟とドラえもんとの夏休み(2002) アクリル絵の具、キャンヴァス 180 x 180.5cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

はじめての村上隆のドラえもん

ドラえもんと村上隆のコラボレーションの第1作は、ドラえもんや登場人物たちと、村上自身のキャラクターである「かいかい」と「きき」がタケコプターで青空を飛ぶ絵だ。「あなたのドラえもんをつくってください」。2002年、ドラえもん初の美術展が企画され、村上が作品制作を依頼されたのがことのはじまり。昔から好きだったというドラえもんは彼の幼少期の記憶を蘇らせた。

「素直な自分に出会えるように、ジーっと子供のころを思い出して、描きました。1970年代初頭の日本の初夏が、この作品の舞台です。弟と一緒に工業地帯の空き地で遊んでたころに一気にダイビングできました。」(村上)

村上隆出典: Photo by RK (IG: @rkrkrk)

村上隆とは?

村上隆は1962年、東京生まれ。東京藝術大学で日本画を学び、博士号を取得。狩野山雪や曽我蕭白といった安土桃山時代〜江戸時代の画家の平面的でデフォルメされた表現と、敗戦後の日本で熟成したマンガやアニメなどのオタク文化にインスパイアされ、日本独自の美学を解析する「スーパーフラット」理論を提唱。それをコンセプトにした現代美術作品や企画展を発表し、世界的に評価された。近年は森美術館、香港の大館現代美術館をはじめ世界有数の美術館で大規模な個展を行い、各地で破格の動員数を記録。アニメ、映画の製作などにも取り組んでいる。

あんなこといいな 出来たらいいな(2017) アクリル絵の具、金箔、プラチナ箔、キャンヴァス、アルミフレーム 300 x 608 cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

「スーパーフラット」をベースに抽象表現主義を参照

安土桃山時代〜江戸時代の日本美術と戦後のオタク文化に強く影響を受けた村上は、「スーパーフラット」と名付けた日本文化の独自性を西洋式の現代美術に翻訳し、世界の美術史にその名を刻んだ。2017年、2回目の「THE ドラえもん展」に出品されたコラボレーション第2弾は、そんな彼のアートの成り立ちが色濃く反映されている。

代表的なモチーフのお花が全面を覆う巨大絵画は、アメリカの抽象表現主義を参照したもの。目眩を誘う花模様の上にドラえもんの名場面が絵巻物のように無数に現れ、タイムスリップ中のような時空を超えた景色が広がっている。

藤子・F・不二雄先生とタイムマシンで何処までも! On an Endless Journey on a Time Machine with the Author Fujiko F. Fujio! 2018 アクリル絵の具、プラチナ箔、キャンヴァス、アルミフレーム 150 x 150 cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

藤子・F・不二雄へのリスペクト

この絵のタイムマシンにはベレー帽を被った藤子・F・不二雄も同乗している。

2020年にドラえもんは、実にマンガ連載開始50周年を迎えた。マンガやアニメの影響を受け、芸術と大衆文化の境を壊そうと目論んできた村上は、日本のミッキーマウスともいうべき偉大なアイコンを生んだ藤子を深くリスペクトしている。「ぼくはマンガというのは、芸術だと思っています。それも、戦後の日本が生み出した、世界に稀有なオリジナルな文化だと思っています」(村上)。藤子が芸術家の象徴であるベレー帽を被っていたことは示唆に富んでいる。

お花畑の中のドラえもん(2018) アクリル絵の具、プラチナ箔、キャンヴァス、木枠 120 x 93.6 cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

シェイプトキャンヴァスの作品

2017年以降、ドラえもんのコラボレーションはシリーズ化し、様々なヴァリエーションが生まれた。矩形の四角いキャンヴァスではなく、ドラえもんの姿をかたどったシェイプトキャンヴァスの作品は、村上がドラえもんをスーパーフラット的に再解釈したもののひとつ。

ドラえもん ありがとう(2018) アクリル絵の具、プラチナ箔、キャンヴァス、木枠 120 x 93.6 cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

ドラえもんのトレードマークである青色部分がお花とドラえもんたちの絵柄に置き換えられ、地と図の関係が反転する面白さが生まれている。このタイプの作品のイメージはユニクロのコラボレーションTシャツやぬいぐるみにも使われた。

あんなことこんなこと できたらいいな(2019) アクリル絵の具、キャンヴァス、アルミフレーム 100 x 100cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

村上の作風の変化

2019〜2020年にペロタン東京で行われた個展「スーパーフラットドラえもん」で発表された1作。2002年のコラボレーション第1作目とほぼ同じ構図とモチーフながらも、両者を比べるとその間の村上の作風の変化が見てとれる。

キャラクターたちは黒の輪郭線だけでなくカラフルな複数の線の帯で縁取られるようになり、お花畑はよりパターン化されて装飾性が増している。

青空の下のドラえもん達(2019) アクリル絵の具、キャンヴァス、木枠 120 x 93.6cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

デジタル時代の新しいリアリティ

前掲作品の絵柄は、シェイプトキャンヴァスの絵にも繰り返されている。印刷の網点をデザインした青空がドラえもんの青色ともリンクし、どこまでも続くスーパーフラットな空間が広がっている。

村上の制作工房では、イラストレーターやフォトショップなどで整えたCGイメージを、シルクスクリーンでキャンヴァスに刷り、最後に手描きで絵を仕上げている。モチーフを反復し、無限にヴァリエーションを変奏するその発想と制作方法は、アンディ・ウォーホルを遠く参照しながらも、作品上にデジタル時代の新しいリアリティをつくり出したと言えるだろう。

初恋 そして我思う、今夜のディナーのことなど(2019) アクリル絵の具、プラチナ箔、キャンヴァス、アルミフレーム 100 x 100cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

マンガは癒しの文化

「現代美術を通して最終的にはドラえもんの世界観そのものが伝わればいいなと思っています」(村上)。マンガは敗戦後の貧しい日本で生まれた癒しの文化そのものだ、と村上は繰り返す。ドラえもんがお人好しののび太と繰り広げる日常の物語には、笑いや涙、憧れや感動といった人々の普遍的な心情が描かれ、見る者の共感を誘う。のび太のしずかちゃんへの初々しい恋心も見どころのひとつだ。

友情よ、永遠に!!(2020) アクリル絵の具、プラチナ箔、キャンヴァス、アルミフレーム 60 x 60cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

現代美術の文法と漫画の文法を近接させる

のび太を助けるお目付け役として登場したドラえもんだが、次第にのび太との間に友情が芽生える。これは、ドラえもんが未来へ帰ることになった時、初めてドラえもんに頼らず自力で喧嘩に勝ったのび太を、ドラえもんが涙で讃える象徴的なシーン。

自分の現代美術の文法とドラえもんに見られる漫画の文法をどうやって近接させられるかが見どころだと村上は言う。人物のモチーフに絵の具のテクスチャーを施すことで、多くの人の胸に刻まれた名シーンがより叙情的に浮かび上がっている。

ミッシェル マージュラス ドラえもん どこでもドア(2019) アクリル絵の具、金箔、プラチナ箔、キャンヴァス、アルミフレーム 190 x 219.8cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

ミッシェル・マージュラスに触発されて

ミッシェル・マージュラス(Michel Majerus, 1967-2002)にインスパイアされたドラえもんのシリーズ。ルクセンブルク出身でベルリンで活躍したマージュラスは、絵画とデジタルのイメージを融合させた先駆的なアーティスト。

ドラえもん どこでもドア 幸せはいつもいっしょに(2019) アクリル絵の具、キャンヴァス、アルミフレーム 160 x 140cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

デジタル革命が生んだ電子音楽やCGデザインに見られるテクノ美学に共鳴してきた村上は、マージュラスの死後に彼のアートと出会い、触発され、自主的なコラボレーションを試みた。

ドラえもん 行きし帰りし物語(2019-2020) アクリル絵の具、金箔、プラチナ箔、キャンヴァス、アルミフレーム 200 x 200cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

音楽のアルバムジャケットのようなこれらの絵には、お花のシリーズとはまた違う自由奔放な楽しさが溢れている。

どこでもドアだね(2020) アクリル絵の具、プラチナ箔、キャンヴァス、木枠 96 x 85.1cm出典: © Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. © Fujiko-Pro

未知の領域を見せてくれるもの

村上隆とドラえもんのコラボレーションはアジア諸国で大人気を博し、アジア発のポップ・アートのシンボルになっている。ドラえもんは現実と夢の世界が無理なく融合した物語だと村上は言う。望めばどんな場所へも連れて行ってくれるドラえもんの「どこでもドア」は、私たちに未知の領域を見せてくれるアートの存在とどこか重なっているのかもしれない。

あなたはドアの向こうにどんな未来の世界を夢見るだろうか? 日本の二大レジェンドによるコラボレーションの行方に、これからも目が離せない。

提供: ストーリー

文:宮村周子
編集:小林沙友里、福島夏子+宮﨑由佳(美術出版社)
監修:宮本大人(明治大学)
制作:株式会社美術出版社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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