森林セラピー(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site
国土の約70%が森林に覆われている日本は、世界有数の森林国。古来から日本人は、豊かな森とともに生活し、その恩恵を受けてきました。日本各地の食文化がこれまで多様な発展を遂げてきたことも、人と森林の深い結びつきから生まれたものだといえるでしょう。
日之影町は日本で初めて「森林セラピー」の基地として認定された場所
宮崎県の北部に位置する、日之影(ひのかげ)町は、森林面積約92%を占める、豊かな自然環境と山村文化を持つ地域。深い緑の生い茂る森と、川底まではっきりと見える澄みきった日之影川や網の瀬川の美しさは見事なもの。その深い青やエメラルドグリーンに輝く清流を目当てに、夏には川遊びや渓流釣りなどに訪れる人達も多いといいます。ここ日之影町は日本で初めて「森林セラピー」の基地として認定された場所でもあります。
「森林セラピー」とは?
「森林セラピー」とは一体どんなものでしょう?今回私たちを案内してくれたのは、森の案内人 高見昭雄さん。ここ日之影町で生まれ育った高見さんは、林業を営みながら、森林セラピーガイドとしても活躍しています。
「さっき見つけたんですよ」そう言ってみせてくれたのは、茶色い陶器のような破片。「この辺りでは、昔から縄文時代の土器や先土器時代の遺物が発見されるんです。これも当時の土器でしょうか、模様が入っているのは珍しいですね。先日もここで遊んでいた子どもたちが見つけたと話していましたよ」はるか昔、縄文時代のものが発掘されるなんて、驚くばかり。
森林セラピー 土器(2019/2019)出典: GIAHS Takachihogo-Shiibayama Site
縄文時代のものと思しき破片
森林セラピー
「森林セラピーは、森の『癒し』の効果を科学的な証拠によって裏付けし、健康に活かすという取り組みです。2006年からはじまったもので、登山やハイキングとは違い、時間をかけて森を歩いたり、ヨガやアロマテラピーなどのプログラムを通して、ゆっくり森の効果を体感してもらいます。同時に、日本の林業が衰退しつつある現状を人々に知ってもらいたいということも背景のひとつです」
森の癒しの効果はどのように計るのでしょう
「森に入る前に、『ストレスチェック』といって、唾液中のアミラーゼを測りその効果を測定します。歩く前と後にその効果をみるのですが、リアルに分かりますよ。100%ではないですが、7割くらいの方が数値が下がって落ち着くという結果が出ています」森に入ると気持ちがゆったりとし、清々しい気分になりますが、森は人間のストレスを下げてくれる効果があることが科学的にも証明されているのだそう。
なぜ、森林の中にいるだけで心がリラックスするのでしょうか?
「森にいて癒されたり爽やかな気分になるのは、森林の樹木などが発散する『フィトンチット』の効果だと言われています。『フィトンチット』は、植物自身が有害な微生物や昆虫などから身を守るためにつくりだす物質のことで、消臭効果や脱臭効果があると知られています。これは人にとっても効果があって、副交感神経を刺激して精神の安定だったり、解放感、ストレスの解消など安らぎを与えてくれるんですよ」
森林セラピーロード
日之影町の森林セラピーには6つのウォーキングコースが用意されていて、その距離は長いものから気軽に歩けるものまでさまざまです。訪れたのは4月の上旬。山桜や、鮮やかな緑のもみじが美しく咲いていました。「5月にはもっと緑が芽吹き、これからどんどん良い季節になりますよ」と高見さん。さっそく『森林セラピーロード』と呼ばれる2.5kmほどのウォーキングコースを歩き始めます。
森に息づくいのちで癒される
最近では都市でも、グリーンウォールや屋上菜園などを見かけることが多くなりましたが、大自然の中で見る緑は、とてもいきいきとしてみえます。新鮮な空気、木々が揺れる音や鳥の声。風にのってふわっと香る花や植物や、土の匂い。すこし歩いているだけでも、五感がどんどん刺激されているのがわかります。森に息づくいのちを感じることで、気持ちが癒され、リラックスしてきました。ウォーキングコースの道沿いには、さまざまな植物が生息していて、面白い植物を見つけるたびにガイドの高見さんが教えてくれます。
1/fゆらぎ
山からの湧き水が流れる場所には、様々な種類の苔が生息し、水の流れる音にも心地よさを感じます。
「水が湧いているところはマイナスイオンが多いと言われていますよね。ところで、『1/fゆらぎ』をご存知ですか?自然界は、同じサイクルのようだけれど少しずつ違う、繰り返しではないんですよ。例えば、風やせせらぎの音、雫の音なども一定のようでいて、予測できない不規則な『ゆらぎ』なんです。それが心地よい癒しになるのだと解明されているんですよ」
癒されることはストレスが下がるということ、そしてストレスが下がることで免疫力が上がるのだといいます。近年では、生活習慣病といわれる病気などもありますが、そのほとんどの原因がストレス。1日森に入るだけでも、ストレスが下がった状態が1ヶ月ほど続き、効果が得られるのだそう。
春先は常緑広葉樹の落葉時期。色や形もさまざまなの葉も、どれひとつ同じものはありません。
日常における森林セラピー
「同じものがない、いろんなものが一緒に生きているという環境がやっぱり良いのでしょうね。植物は、お互いが邪魔しないようにお互いが気遣って生きています。昔から、いろんな発明も自然の中から学んで生まれていますね。この森林セラピーを通して、多くの人に自然の持つ癒しの力、その素晴らしさを知ってもらいたいと思っています」
森の中で五感を研ぎ澄ませることは、私たち人とって単なる「癒し」というだけでなく、さまざまなインスピレーションを与えてくれる素晴らしい体験。ぜひ日常に取り入れてみてはいかがでしょうか。
協力:
高千穂郷ツーリズム協会
SAVOR JAPAN
写真:中垣 美沙
編集・執筆:林田 沙織
制作:Skyrocket 株式会社