フェルメールと地図へのこだわり

ジャームス A. ウェルがフェルメールの「地図に対する情熱」について説明します

作成: Google Arts & Culture

Officer and Laughing Girl Officer and Laughing Girl(ca. 1657) - 作者: Johannes VermeerThe Frick Collection

ヨハネス フェルメールの作品に描かれた地図と地球儀は、昔から学者の関心を引いてきました。1865 年にこのオランダの巨匠を再評価したテオフィル トレ ビュルガーは、「地図に対する情熱家」と自ら呼んだフェルメールの特徴について解説を残しています。それ以来、フェルメールによる地図や地球儀の描写は、黄金時代のオランダにおいて地図製作が好んで描かれた一例とみなされるようになりました。

大航海時代の冒険と貿易により、17 世紀のオランダは他の国よりも優れた地図作製技術を誇っていました。オランダの地図出版者たちは地図に豊かな装飾を施し、歴史上で最も装飾的な地図が制作されました。当時、多くの画家が作品中に地図を描いていましたが、フェルメールほど詳細かつ正確に地図を描写した画家は知られていません。実際に、フェルメールの作品に描かれた地図や地球儀は、すべて特定することができます。

水差しを持つ女(ca. 1662) - 作者: ヨハネス・フェルメールThe Metropolitan Museum of Art

フェルメールの初期の作品『士官と笑う娘』では、オランダと西フリースラントの地図が絵の中心に描かれており、地図は質素なオランダの室内の装飾としてだけではなく、地理的な知識を広げる役割を果たしていたことがわかります。同じ地図が『青衣の女』を含むフェルメールの 2 作品にも描かれています。『青衣の女』ではこの地図が金色に染められており、作品に親しみやすさを加えています。

17 世紀に地図を装飾的に使用するという方法が普及し、出版者たちがこうした目的のために古い地図の再発行を行うようになりました。地図作製者から地図の印刷に使用した銅板を購入し、地理的な内容を変更せずに装飾的な部分だけを当時風に変更するという方法が多用されました。こうした地図は、フェルメールの『水差しを持つ女』に見ることができます。「ネーデルラント 17 州」のこの地図には、異なる時代の装飾的なカルトゥーシュが付いています。

リュートを調弦する女(ca. 1662–63) - 作者: ヨハネス・フェルメールThe Metropolitan Museum of Art

フェルメールは、大きなヨーロッパの地図が背後の壁をほぼ覆い尽くす『リュートを調弦する女』の中で、オランダの地図を細部まで描いています。この地図は、1613 年にヨドクス ホンディウスによって最初に販売され、1659 年にヨアン ブラウにより再販されました。この地図に関しては、ブラウは地図自体に変更を加えておらず、作者名をホンディウスの名前から自身のものに置き換えています。装飾的な壁掛け用地図を市場に対応させたもう 1 つの例だと言えるでしょう。

絵画芸術(1666/1668) - 作者: ヤン フェルメールKunsthistorisches Museum Wien

フェルメールが描いたすべての地図の中で最も大きくて最も華やかなものは、とりわけ野心的な作品『絵画芸術』に現れます。この作品では、画家のアトリエとなる部屋の装飾として地図が使用されています。光を巧みに描写することで、フェルメールは地図の物理的な特性を表現しています。ひび割れした地図の表面がまるで本物のように描かれており、2 つの小さな杭で吊り下げた重さも表現されています。

同時に、地図の装飾的部分と地理的な部分は別々にわかれており、どちらも忠実に描かれた細部によって表現されています。地図に描かれているのは「ネーデルラント 17 州」です。最上部にあるラテン語のタイトルには、クラース ヤンス フィッセルという出版者の名前が書かれています。フィッセルの精巧な地図には、一番下の部分にテキスト、そして両脇にはオランダの重要な都市や町並みが描かれています。このように追加される部分については、地図自体とは別に印刷されるのが一般的でした。17 世紀の地図カタログによると、壁に掛ける地図は「装飾のあるものとないもの」がどちらも販売されており、受注があってから生産されるものであったようです。フィッセルの別の地図は他のオランダ人画家の絵にも描かれていますが、フェルメール作品に描かれたものは最も精巧な造りとなっています。現在、完全に原型をとどめた地図は存在しませんが、フェルメールが詳細に描写しているため、当時の外観を知ることができます。

信仰の寓意(ca. 1670-72) - 作者: ヨハネス・フェルメールThe Metropolitan Museum of Art

フェルメールの絵画に描かれた地図というモチーフが、作品になんらかの意味を加えていることも少なくありません。たとえば、フェルメールが『絵画芸術』でフィッセルの地図を使用した際には「ネーデルラント 17 州」はもはや統一国家ではなかったため、ギリシャ神話の歴史を司る女神クリオに扮した、地図の前に立つ若い女性と関連する背景として地図が描かれています。

フェルメールが地理的なオブジェクトである地球儀に象徴的な意味を持たせようとしたことが明白に現れているのが、『信仰の寓意』です。この作品で地球儀は、信仰の象徴となる人物と関連性を持つ主要なオブジェクトの 1 つとしての役割を果たしています。チェーザレ リーパの『イコノロギア』によれば、信仰は「世界を足の下に踏みつけた」女性として象徴されています。フェルメール作品の中での「世界」とは、まさに世界を模した地球儀なのです。地球儀はあまりよく見えませんが、それでも詳細を判読することができます。この地球儀は、ヨドクス ホンディウスによって 1600 年に最初に発売されたものの第 2 版(1618 年版)にあたります。

地理学者(1669) - 作者: ヨハネス・フェルメールStädel Museum

フェルメールはまた、『地理学者』および『天文学者』というふさわしい題名が付けられた絵画でも見られるように、地図の科学的利用にも魅了されました。『地理学者』では、地図製作の道具に囲まれた若い研究者が、窓に目を向けて作業を一時的に中断しています。部屋の奥にあるキャビネットには、『信仰の寓意』と同じ地球儀が置かれています。この絵では、書籍とともに並べられた地球儀が科学的な道具として描かれ、装飾的なカルトゥーシュが横向きに見えています。また代わりに見えているのは、当時のオランダ人が熟知していたインド洋です。背景にある額縁に入った海図は、ヨーロッパの海岸を航海するために使用された地図の一種です。17 世紀のカタログには、「非常に正確な図面に基づいて作成された」このような海図は、「額装や装飾用に最適」であると記載されています。

天文学者(1668) - 作者: ヨハネス・フェルメール出典: Agence photographique de la Réunion des musées nationaux-Grand Palais

一方で『地理学者』とは対照的に、『天文学者』に描かれた男性は、天国を連想させる非常に明るい天球儀によって見る者の目を引きます。さまざまな星座が描かれたこのカラフルな球体は、ヨドクス ホンディウスが自身の地球儀のペアとして制作しました。また、『天文学者』が開いている本も特定することができます。開かれているのは、アドリアーン メチウスが 1621 年に著した天文学と地理学に関する書籍『On the Investigation or Observation of the Stars(天体の研究と観測について)』の第 3 章です。フェルメールが『地理学者』と『天文学者』とった作品で描いた地図とその注意深い配置は、対としての作品という 2 つの絵画の関係を強め、当時、こうした地図や地球儀が使用されていたことへの興味や関心を呼び起こします。

日常を描写した絵画であろうと、寓意に満ちた絵画であろうと、フェルメール作品における室内の光景は、17 世紀の黄金時代におけるオランダでの地図製作を知るうえでの貴重な手がかりの 1 つとなっています。

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