和食文化とは何か
周囲を海に囲まれ、国土の75%を山地が占め、温暖湿潤な気候風土に恵まれた日本。豊かな自然は、海から、里から、山から、四季折々に様々な恵みを私たちにもたらしてくれます。豊かで時に厳しい自然環境の中で、日本人は自然を敬い、その恵みに感謝する心を育み、それが日本独自の食文化の土台になっています。
自然を敬い、感謝する心が生んだ食文化
自然を敬う心は、食事の作法やしきたりを生み、恵みに感謝する心が食材を無駄なく大切に使う加工技術や調理方法を生み出しました。また、海外からの作物や食具も上手に取り入れ、発展させてきました。和食とは自然を敬う日本人の心が育んだ食の知恵、工夫、習慣のすべてを含んだものです。
海の魚出典: Savor Japan
和食の4つの特徴①
多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重 日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情豊かな自然が広がっているため、各地で地域に根差した多様な食材が用いられています。また、素材の味わいを活かす調理技術・調理道具が発達しています。
浸し物出典: Savor Japan
地域に根差した伝統野菜
日本で流通する野菜は、近代になって外国から輸入されたものや品種改良によって食べやすくなったものなどがありますが、昔から日本で作り続けられている伝統野菜(在来野菜)も昔の姿や形のまま栽培が続けられ、郷土の人達に愛されています。
蒸し物出典: Savor Japan
良質な水
水は信仰の対象でもあり、日本の食文化を形成する上で重要な役割を果たしてきました。日本の水は軟水でミネラル分をあまり含みません。昆布や鰹節のだし素材からうま味を引き出せるのも軟水だからこそなのです。
様々な調理法
多様な食材を活かすために、和食では主に、生のまま(切る)、煮る、焼く、蒸すという調理方法が用いられてきました。水が豊富なため、煮る、蒸す、茹でる調理方法が多く、茹でた野菜を水で洗うおひたしや、茹でた蕎麦を水にさらす技法は海外ではほとんど見られません。
茹で物出典: Savor Japan
うま味と発酵調味料
和食はだし、塩、味噌、醤油など最低限の調味料で素材の持ち味を活かすことが大きな特徴ですが、特にうま味を上手に使うことで和食ならではの繊細な味わいを生み出しています。うま味は、甘味、塩味、酸味、苦味と並ぶ基本5味のひとつとして世界でも認められ、「UMAMI」と呼ばれ、人気が高まっています。
和食の4つの特徴②
健康的な食生活を支える栄養バランス 一汁三菜を基本とする食事スタイルは栄養バランスがとりやすいと言われています。また、だしの「うま味」や発酵食品を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿、肥満防止に役立っています。
一汁三菜
和食の基本形は、ごはんと汁、香の物(漬物)、にいくつかの菜(おかず)を添えたものです。この基本形が出来上がったのは平安時代末期と言われています。ご飯を主食として、魚介、肉類、野菜類にだし、発酵調味料を組み合わせた和食は栄養学的にみてもバランスの取りやすい食事です。だしや発酵調味料によるうま味を上手に使うことで、肉類などの動物性油脂がなくても満足感を得ることができ、ローカロリーな食事を容易に実現することができます。
「いただきます」と「ごちそうさま」
「いただきます」は料理の食材となった自然の恵みへの感謝を表すものです。そして、「ごちそうさま」は、料理を作ってくれた人だけでなく、食事が並ぶまでに関わったあらゆる人への感謝を表すものです。
和食の4つの特徴③
自然の美しさや季節の移ろいの表現 食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも特徴のひとつです。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しみます。
四季の演出
料理の見た目からも季節感を楽しんでほしいというおもてなしの気持ちから生まれたものです。海外では、食べられないものを盛り付けるのは珍しいようですが、南天、穂紫蘇、紅葉、熊笹など季節に合わせた葉を添えたり、器の素材や形、デザインを変えることで季節感を高めています。
器による四季の演出(夏)出典: Savor Japan
器による四季の演出(秋)出典: Savor Japan
器による四季の演出(冬)出典: Savor Japan
箸
日本では、普段の食事では箸だけを使います。匙を使わずに箸だけで食事をするのは日本だけです。また、家族それぞれが、自分の箸をもつのも特徴です。箸には、食事に使う「食箸」、調理に使う「菜箸」があります。素材は、木や竹、漆塗や細工を施したものなど様々なものがあります。
菜箸出典: Savor Japan
器
昔は一人一人お膳で食事をしていました。お膳から口元まで遠いので器を持って食べる習慣が生まれました。木製の漆器は熱が伝わりにくいので、熱い汁物を入れても手で持ち、口をつけて飲むことができます。
和食の4つの特徴④
正月などの年中行事との密接な関わり 日本人の食文化は、年中行事と密接に関わって育まれてきました。自然の恵みである「食」を分け合い、食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきました。
年中行事と食べ物
日本人の生活の中には特別な「ハレの日」があります。 毎年同じ時期に巡ってくる年中行事もその一つです。日本人は古来より自然の中の「神」という霊的存在を無意識で感じてきました。「神」と人が交流する場=宴には、必ず食べ物と飲み物が供えられ、五穀豊穣や無病息災を願ってきました。
正月料理①お節料理
お正月は幸せや豊作をもたらす歳神様をお迎えする行事として、古くから大切に祝われてきました。お節料理は元々は神様へのお供えものとして作られました。お節を食べるのは、神様と食事を共にすること、同じものをいただくことで、福を招き、災いを打ち祓うと考えられてきたためです。お節の重箱に詰められる料理には、豊作や健康長寿など様々な意味が込められています。
お正月は歳神様の魂の象徴である丸餅を食べることで、神様の力をいただくことを意味しています。お雑煮は餅と地域の食材を煮込んだ料理で、具材や味付け、だしの種類、餅の形、餅の調理の仕方など、地域ごとに特色があり、バラエティに富んでいます。
お祝いに欠かせない赤飯
人生儀礼などのお祝いの席ではよく赤飯が食べられてきました。赤飯はもち米にささげという豆を煮たものとその煮汁を入れ蒸したものです。これは、昔、赤い色に邪気や厄を払う力があると信じられていたためです。
子供の行事:お食い初め
日本では、季節の節目だけではなく、人生の節目にもお祝いをしたり、厄払いをする「人生儀礼」が行われてきました。昔は幼いうちに命を落とす子供が多かったため、子供が無事に育ち長生きできるようにとの願いを込めて、赤飯や御馳走を用意して家族で食べました。お食い初めは、生後100日目に「一生食べることに困らないように」との願いを込め、尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳を用意します。丈夫な歯が生えるように「歯固めの石」も用意します。